野菜が乏しい災害食 健康のカギを握るキーポイント!

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スーパーの店頭には、まず果物、野菜売り場があり、奥に魚や肉の売り場が続きます。なぜ野菜が入り口近くにあるのでしょうか? 多分、献立を考えるときの決め手が、まずは「野菜」ということなのでしょう。野菜が「主役」なのは、買い求める分量で野菜が一番多いからです。

「いや、自分は違う」という方は、健康の方向指示器が故障しているのかもしれません。野菜は「1日350グラム必要」と言われていますが、肉や魚は何グラム必要か知らない人が多いようです。ざっと1日100~140グラム程度、魚なら切り身1つで野菜の3分の1程度です。“野菜”という文字は「野に生えていて食べられる植物」を意味します。

献立を立てるとき、野のモノ、山のモノ、海のモノを組み合わせると健康になると古くから言われています。日本料理の基本は「一汁三菜」と言われています。この考え方は野菜を多くとるための知恵です。汁(中身の多くは野菜)と2皿を合わせて野菜3つ、魚か肉は一皿です。野菜が魚・肉の3倍も多いのは、健康を保つために欠かせないからです。では、健康面で野菜はどんな役割をしているのでしょうか? 一言で言えば体調を整え、元気を出させているのです。具体的にはビタミンA、C、ミネラルそれに食物繊維などを体に与えてくれます。

ところが、いったん災害が起こると、店は閉まり野菜を買い求めることができません。おまけにライフラインがストップするため、野菜は「洗えない、煮炊きができない、冷蔵庫に保管できない。せっかく料理しても水分が多いので腐りやすく、弁当などに入れにくい」のです。「やれやれ! かなわんなあ」と嘆いている間に健康は次第にむしばまれていきます。「体調を崩す」「便秘になる」「風邪などの感染症にかかりやすい」「避難所暮らしが長引くせいで症状が慢性化する」……。
「最悪、病が深刻化して死に至る(二次災害)」ということになりかねません。

避難所のお弁当にも野菜なし

過去の災害時の記録を見てみましょう。まず阪神・淡路大震災(1955年)では、長引く被災生活で私が住む兵庫県芦屋市では、人口の約24%が避難所生活者で食べ物に不自由しました。備蓄がなかったため、救援に頼るしかない日々でした。避難生活の遅い時期に公助の弁当がやっと配られましたが、残念ながら不健康をはね返すような野菜の多い内容ではありませんでした。から揚げとウインナー、漬物と塩こんぶなどの繰り返しでした。腐りにくいし、加工食品は調理が手早いなどの理由でした。

避難所(9カ所、神戸、芦屋、西宮、270人)の被災者に聞き取り調査をさせてもらうと、「何が一番食べたいですか?」という問いでは「野菜」が1位でした。それでも、どうにもなりませんでした。私は今でも食の専門家として何もできず申し訳なく思っています。

 

野菜ジュースで便秘が5分の1に

それから、16年後に東日本大震災(2011年3月)が発生しました。沿岸部の住民は、津波で家を奪われ食べ物どころではありません。不自由な避難生活を送りました。宮城県の管理栄養士の調査によると、ビタミンB、Cが大幅に不足していました。また岩手県の栄養士会の被災者調査でも、便秘になった人が多く出ていたことが明らかになりました。野菜ジュースと栄養剤を配ると便秘はたちまち5分の1に減りました。災害時に野菜の摂取が大切だということを、この災害でも認識させられました。自助、共助、公助すべてに関わる人々が心に留め、準備をしなければなりません。

お勧めの野菜の備蓄方法!

ではどうすればいいのでしょうか。

■野菜の加工品を探して備蓄する
さて、どんなものがあるでしょう? これは野菜ばかり集中的に製造しているカッコいいメーカーです。野菜のおかずばかり10種類あります。「かあさんの味」というだけあって確かにそんな優しい味です。ベターホーム協会のシリーズものは全て缶詰で、賞味期間は3年です。「食べ物を大切に」というロゴマークが、いただいた名刺の右肩に付いていました。

ベターホーム協会の缶詰

ついでながら、インスタ映えなどといって食べ物で悪ふざけする輩たちよ! 「食べ物を大切に」という感謝の気持ちが不足しているのでは。もしや野菜不足のせいかもしれませんね。

■店内で探す
食品の棚を片っ端から丁寧に見ていきましょう。すると思わぬ掘り出し物が出てくる可能性があります。コーン(缶詰、レトルト)、煮豆(缶詰)、五目豆(缶詰、レトルト)、ポテトサラダ(缶詰)、五目煮(缶詰)、らっきょう(瓶詰)、ザーサイ(瓶詰)、えのきたけ(瓶詰)、スープ(レトルト、缶詰)、野菜ジュース(缶、瓶)、野菜たっぷりカレー(レトルト、缶詰)などなど。とにかく自分の好きなものを選びましょう。
下の写真は、芦屋市駅前のコープ店で主に集めたものです。

 

■家庭での備蓄
賞味期限は6カ月以上のものでOKです。そして、ローリングストック、つまり時々出して食べて、減ったら買い足して補充しましょう。

時系列で野菜の摂取方法を考える

阪神・淡路大震災で被害に遭った神戸市兵庫区の中学校の生徒がアンケートで答えてくれた「自分好みの野菜の備蓄」を参考までにご覧ください。なぜか「生野菜」を備蓄したい人が多いですね。普段から新鮮な野菜を食べているからでしょう。現状では災害時にはかなり難しいですが、いつの日かこの夢が実現するといいですね。

写真を拡大 阪神・淡路大震災で被害に遭った神戸市兵庫区の中学生を対象にしたアンケート「自分好みの野菜の備蓄」

①災害発生の直後→②その後1週間→③約1カ月後→④炊き出しの頃、と時系列に分けて考えてみるのもよいでしょう。

①野菜は不要。ただし野菜ジュースがあるとよい。
②必ず野菜のおかずが必要。1日2回の食事×7日=14個
③必ず野菜が必要。1日2回の食事×1カ月=60個
④比較的長持ちするじゃがいも、にんじん、たまねぎなどが使えます。煮炊きが可能になることを考えて、ごぼう、だいこん、キャベツなどが使えます。野菜たっぷりの汁物の料理や炒め物ができます。電気が回復してくれば電気釜を使って炊き込みご飯などの料理ができます。その時は「炊き込みご飯の素」などを備蓄しておくとよいでしょう。調味料も余分に備蓄しておきます。

私は、被災時に野菜が不足したのが原因で便秘になり、それが慢性化して被災後24年経った今も未だに便秘です。災害は一過性のものではなく体験した者にとって「災い」は一生残るものです。
皆さんが本気で野菜の備蓄をなさることを願っています。ちなみに、野菜を備蓄している自治体は極めて稀(まれ)でこれまで見たことがありません。ただし野菜ジュースを備蓄している自治体はあります。一方、第1回で紹介したように、野菜類を備蓄している企業もあります。素晴らしいですね。

日替わりメニューを備蓄する企業の挑戦
http://www.risktaisaku.com/articles/-/14939

(了)

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