【MLB】米メディアが見たイチローの“変化” 「謎めいた存在」から「愛されて引退」へ

東京ドームでの試合を最後に現役を引退したマリナーズ・イチロー【写真:AP】

米メディアが特集、「シアトルに在籍した2回の違い」に注目

 21日のアスレチックス戦(東京D)を最後に現役を引退したマリナーズのイチロー外野手。その衝撃は大きく、米メディアも多くの特集を組んでいる。米スポーツメディア「ジ・アスレチック」では、前回マリナーズに所属した2001~2012年途中と昨季6年半ぶりに復帰して引退するまでのイチローを比較し、その“変化”に注目。去り際の美しさを称えている。

「ジ・アスレチック」は「かつて謎めいた存在だったイチローは愛されるチームメートと球団の象徴として引退」とのタイトルで特集を掲載。21日のアスレチックス戦の8回、いったん守備についたイチローが交代を告げられ、ライトからダグアウトに走って戻ってきたシーンを「伝説的で魅力的なキャリアの最後の場面だった」と振り返っている。そして、筆者は「彼がシアトルに在籍した2回の違いについて考え始めた」という。

 イチローはポスティングシステムで海を渡り、マリナーズ移籍1年目の2001年に首位打者と盗塁王に。史上2人目となる新人王&MVPのダブル受賞を達成し、マリナーズは歴代最多タイのシーズン116勝を挙げた。圧倒的な打撃技術の高さ、スピード、守備力、強肩などを誇る背番号51は、パワー全盛だったメジャーに新たな風を吹かせた。

 記事では「太平洋岸北西部に住む皆さんと同じように、私はイチロー・スズキが2001年にシアトルにやって来た時から彼に夢中になった。その春、イチローは我々がそれまでに(それ以降も)見たことがないくらい話題となった」と、その活躍を絶賛。「母国で象徴的な存在であるイチローは、マリナーズにやって来ても活躍を続け、安打を量産し、強肩を見せた。スーパースターが生まれ、10年以上も輝いた」。10年連続200安打&オールスター出場&ゴールドグラブ受賞、2004年のメジャー記録262安打、2007年のオールスターMVPなど、輝かしい実績は挙げ始めればキリがない。

「シアトルに復帰したイチローは全く異なる男だった」

 一方で、マリナーズ時代には“孤高の存在”として報じられることも少なくなかった。特集では「公平のために言うと、自分をさらけだすことは、マリナーズでの彼の仕事ではない。彼はプレーするためにそこにいて、もしかしたら彼ほど野球にひたむきな選手はいないかもしれないが、極めて優れていた」としつつ、「シアトルでは彼は少し謎めいた存在だった。彼はファンにはすぐに愛されたが、チームメートは彼をどう扱っていいか分からなかった。彼はロッカーの前に1人で座り、チームメートとほとんど話さなかった。彼は打ち解けず、メディアに人柄を見せなかった」と、2012年7月までのマリナーズ時代を振り返っている。

 ただ、ヤンキース、マーリンズと移籍し、昨季5年半ぶりにマリナーズに戻ってきたイチローには大きな変化が見られたという。「シアトルに復帰したイチローは全く異なる男だった。彼はより笑うようになり、楽しそうに見えた」「若手選手は彼に引き付けられ、今回は彼も彼らを受け入れた」。若手選手がいかにイチローに敬意を抱き、そして、イチローがチームメートと楽しい時間を過ごしていたかは、現役最後の2試合を見ただけでも明らかだ。

 イチロー自身も引退会見でずっと孤独を感じてプレーしてきたのかを聞かれ、「現在それ(孤独感)全くないです。今日の段階で、それは全くないです」と明かし、「孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと、今は思います」と振り返っていた。確かな変化があったのだ。

 特集では、日本開幕戦を最後に引退するというイチローの決断に敬意を表しつつ、現役最後の瞬間に日本のファンと同僚が見せた反応に「とてもストイックな45歳」が「心から感動しているように見えた」と指摘。そして、2004年にシーズン最多安打を更新した際に本人が「この先これ以上良いことはあるだろうか?」と語ったことを振り返り、「それ以上のことがあると分かった。我々は木曜日(21日のアスレチックス戦)にそれを目にした」と綴っている。

 誰からも愛される選手としてユニホームを脱いだイチロー。そのキャリア、唯一無二の存在感は引退後も輝かしいままだ。(Full-Count編集部)

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