フィンランドの教育は「子どもが中心の教育」

小学校の教育として、世界的にも一歩先を進んでいるフィンランドの教育や制度についてお届けするこの企画。前回までに「フィンランドの学校環境」「フィンランドの先生」について自分が見てきたことを書いたので、今回は学校環境や先生の育成・働きかたを支えるもととなる「フィンランドの国としての教育の考え方」に触れたいと思います。

これまでの【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】の記事はこちら

2017年から施行されている、フィンランドの新教育カリキュラム

空気がキレイなフィンランド(本文とは関係ありません)

今回の記事は2014年に制定され、2017年から施行されている (Finnish National core curriculum for Basic Education * 以下 “FNBE” )、そしてその根底にある理念について共有していきます。

FNBEは、フィンランドのBasic Education(義務教育:プリスクール・小学校・中学校の10年間)について書かれており、学校の先生やマネジメント層だけでなく、保護者や教育関連の学生なども手にできるよう、政府のウェブページからダウンロードできます。英語版はアマゾンで購入でき、Kindle版もあります。

私は2015年から2017年までフィンランドの大学院で一般的な教育学や教育の科学的分析方法などを学びながら、「学校環境」「先生たち」「授業内容」「子どもたちの様子」を見てきました。そのすべてが日本で自分が経験したものと大きく異なることに衝撃を受け、“フィンランドの教育実践が共通してもっている、価値観や規範ってどんなだろう?”という問いを読み解くために、FNBEを読みました。

「算数が苦手な」グループを教えている先生

フィンランドでもっとも大切にされている子どもの「平等」な権利

集中しづらい子どものための特別コーナー(教室の端にありました)

まずFNBEの冒頭では、“平等(equality)”について強調されています。すべての子どもがその個性や特性を最大限に生かして成長する権利があり、義務教育ではそれぞれの個性・特性(性別・年齢・民族・国籍・母国語・宗教・信念・価値観・性的志向・心身の健康状態・その他の性格)による差別なく、“このコミュニティに属していいんだ!”“自分のことを見てくれる・聞いてくれる人がいる!”という経験を積むことによって自信を育むことが大切にされています。

Special Education のクラスは少人数制(数学系、国語系など苦手な分野ごとにクラスがあります)

実際に、フィンランドの義務教育では学校教育に付随する諸々のものが無償で提供されます。給食・文房具・教科書も無償であるため、経済的な理由で学校に来られず学べないという状況をつくらないシステムとなっています。また、一人一人の子どもがもつ学習においての特性(読むのが苦手、数学的思考が苦手 等)や社会生活においての特性(周囲がざわざわしていると落ち着かない、など)に対して集団から排除したり、その子どもの可能性を見限るのではなく、どうしたらその子どもがポジティブな気持ちで学校に来て楽しく学べるだろうかと可能な範囲で対応しようとするのがフィンランドの小学校です。

無料のSchool lunch は多くの場合はビュッフェ形式

“平等”については世の中に多くの議論がありますが、フィンランド滞在時に私が肌で感じた現地での心地よさは、今思うとフィンランドで大切にされている“平等”の価値観に多く起因していたのだったと感じます。外国人でも、フィンランド語が話せなくても、スーパーマーケットで“すみません、●●がほしいんですけど……”と聞くとほとんどの場合は、親身になって対等に応じてもらった体験が印象深いです。

無償の「鉛筆」なくならないように、「鉛筆の数をチェックする係」がクラスにいることも

フィンランドの教育は「子どもが中心の教育」

社会全体に“平等”の価値観が浸透しているように、FNBEでも子どもを“知識・スキルを教える対象”としてではなく、“学ぶことによって自らの知識・スキルを構築していける人”として保護者や先生と対等な存在として位置付けています。そんな「子どもが中心の教育」というところにフィンランドの教育の一つの特徴があると考えています。

下の図は、そんなフィンランドの小学校の目的を達成するための基本となる概念図です。この図が伝えていることは、学びの中心には子どもの興味や楽しさ・実生活で必要となる知識やスキル(Motivation and joy of learning/ Knowledge and skills needed in life)があり、周囲を囲むようにして「学びのサポート(Support for learning)」「評価(Assessment)」「Learning Environment and working methods(学校などの学びの環境)」「OBJECTIVES, CONTENTS, ASSESSMENT CRITERIA(学びの目的、内容、評価基準)」が配置されていることがわかります。

フィンランドでは、国で定めた“学びの中心には子どもがいる”という考え方が、現場レベルだけでなく社会や家庭にまで浸透していると感じることが、日本と比較すると数多くありました。

小学校低学年のクラスでは教科書を読んだり知識を伝授することよりも、子どもが動いたり描いたり・会話をしたりと「遊び」の要素を多く取り入れている授業の割合が高いこともそのひとつです。先生たちは、大学・大学院時代に子どもの発達段階や特性についてかなりしっかりと学びます。

学ぶためには、気持ちを落ち着かせることが必要

たとえば年齢が低いほど抽象的な事柄の理解が難しく、具体的なものを使って身体や指先を動かすことによって学ぶということや、間違いをすることによって学びの質が高まること、子どもが集中できなかったり授業や教材に興味をもてないのは、子どもにばかり非があるのではなく環境やコンテンツにも問題があるということを理解しているのです。そういった先生たちの知見を総合的に活用し、定められた年間の学習目標と「遊び」の要素を巧妙に結びつけているのです。

「ひじ」「ひざ」「あたま」も、手を動かして学ぶ

その中で子どもは“Active learner” として、さまざまな感覚を使って興味の幅を拡げ・学びに対してポジティブな感情をもちながら先生や他の子どもと相互に影響しあう存在として定義づけられています。フィンランドの教育についていろいろな方から「どんな教育をしているの?」と聞かれることが多い中で「ポップで明るい学校環境」や「面白い授業例」についてお話しをすると大変喜ばれるのですが、そういったフィンランドらしい「環境」や「学び」を支えるのは子どもの今の気持ち・生活、そして一生のことを中心におく教育理念であることをセットでお伝えすると、より日本との違いがクリアになります。

「100」の概念を、さまざまなものを使って学ぶ

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