戦争革命!「殺人ロボ」規制会議、AI兵器の行方

映画「ターミネーター3」の一場面(提供写真)

 まず最初に日本のスタンスに注目したい。人工知能(AI)を使って相手を殺傷する「殺人ロボット兵器」を規制するジュネーブの国連公式専門家会議で、日本の高見沢将林軍縮大使が3月25日、演説で語った内容だ。「AIなどの技術の平和利用を妨げてはならない」と述べた上で、同日の共同電では次のような主張をしたとされる。①日本が殺人ロボット兵器を開発する計画はない②AI利用の自律型兵器については省力化の観点からも開発・配備を進めていく③ただし、国際人権法に基づく規制の議論が進められるべき―。分かりやすく言えば、SF映画「ターミネーター」に登場するような殺人ロボはつくらないけれど、国際人道法に背かず、人による制御が効くならAI技術の応用はOK。そのためのルール作りもあり―という解釈が成り立つように思える。(共同通信=柴田友明)

米軍の無人機プレデター。遠隔操作で飛行し、対地ミサイルも搭載できる(ロイター=共同)

 ▽「ターミネーター」化にストップ?

 政府はこれまで民生部門でのAI開発の妨げになりかねないとして規制には慎重な立場を取ってきたが、「殺人ロボ」については国際ルールづくりを主導したいとの意向があるようだ。アフリカや中南米など20以上の国・地域が全面禁止を主張しているのに対して、開発が進んでいるとされる米国、ロシアなどは規制に後ろ向き。その間に立って政府見解を示して、各国の開発を巡る情報共有や透明性の確保を進めて、存在感を示したいとみられる。

 元内閣官房副長官補の高見沢軍縮大使は防衛省出身で、自衛隊の対米支援、海外派遣、有事関連の数々の法制を熟知した能吏という印象が強い。「我が国は(殺人ロボを)開発しないことを明確にしている。議論に積極的に貢献したい」(3月25日の河野太郎外相答弁)通りに、かたちのあるものにできるか大使としての手腕が問われるところだ。

 国連総会で日本は毎年、核兵器廃絶決議案を提出して賛成多数で採択されているが、一方で核兵器禁止条約への署名と批准を要請する決議案については米国など核保有国と同様に反対の立場を取る。殺人ロボ規制については、将来そのような〝使い分け〟がなされてはいけないと筆者は思う。

「殺人ロボット兵器」の規制に関する国連公式専門家会議で演説する高見沢将林軍縮大使=2019年3月25日、ジュネーブ(共同)

 ▽対人地雷、クラスター弾を廃止した日本

 通常兵器の軍縮について、日本は実績がある。対人地雷、クラスター弾の禁止条約に1997年(オタワ条約)、2009年(オスロ条約)にそれぞれ批准している。

 広範囲に設置・散布されて、戦闘と全く関係のない子どもがさわって命を失ったり、手足を失う例があまりにも多く、この二つの兵器は「非人道的」として非難の対象になった。NGOや市民団体の反対運動の高まりも背景にあった。特に、対人地雷については外相だった小渕恵三元首相(故人)が廃絶に向けて熱心に取り組み、政治主導で批准を決めたことで知られている。

 防衛省・自衛隊内では侵攻してくる敵に対して「抑止力」が効く兵器として廃止することに不満があったが、政治判断に異を唱えるわけにはいかなかった。その代わりに、例えば対人地雷と機能が似た「指向性散弾」などの武器を開発、相手が戦闘員であることを確認して、爆発させるような装備にした。

 ただ、これらの条約に対して最大保有国であろう米国、ロシア、中国などは批准していない。これが最大の問題点だ。対人地雷やクラスター弾の効果をはるかに超える殺人ロボ・AI兵器に対して、国際枠組み、規制に日本がどれだけ「貢献」できるか注視したい。

 殺人ロボ規制の国連公式専門家会議は8月にも開かれ、報告書がまとまる予定だ。

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殺人ロボット兵器】AIの機能で、相手を自動的に殺傷する兵器。米国などが開発を進めているとされる。「自律型致死兵器システム(LAWS)」と呼ばれ、軍事専門家はSF映画「ターミネーター」に登場する殺人ロボットがイメージに近いとする。実用化されれば、人類史上で銃、核兵器に次ぐ軍事面での「第3の革命」になるとの指摘もある。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで規制について議論されているが、方向性は出ていない。

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