【長谷川滋利の目】菊池雄星はMLBで十分通用も 「勝ち星は考えない方がいい」

マリナーズ・菊池雄星【写真:Getty Images】

日米通算102勝を挙げた長谷川氏が菊池の初登板を振り返る

 マリナーズの菊池雄星投手は21日に行われた「2019 MGM MLB日本開幕戦」第2戦(東京ドーム)でメジャー初先発。4回2/3を投げ、4安打2失点(自責1)と初勝利こそならなかったが次戦に期待のできる投球内容だった。オリックス、マリナーズ、エンゼルスで日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏が“後輩”左腕のデビュー戦を振り返り、今後の課題、収穫を語った。

 菊池の記念すべきデビュー戦は4回まで無失点、さらに味方打線が奮起し3点リードする展開。初登板初勝利の期待がかかったが5回にメジャーの洗礼を浴びた。連打を浴び2死一、二塁からセミエンに中前適時打を浴び91球を投げ無念の降板となった。

「イチローの現役引退試合にメジャーデビュー戦。それも日本での開催とあって終わってみれば一生記憶に残るものになったはず。あと1アウト、あと一人の場面で降板したことで『投げさせてあげれば』と思ったファンも多いはず。ですが、一番冷や冷やしたのはサービス監督でしょう」

 マリナーズのディポトGMと試合前に話していた長谷川氏。この試合で菊池に与えられた球数は約70~80球になると想定していた。日本開催、3点リード、無失点を継続し4回を終え球数は68球……。5回の連打を浴びた場面で降板してもおかしくなかったという。

「今年の菊池はプロスペクト(若手有望株)として見られている。勝つにこしたことはないが、今年は勝ち星は考えないほうがいい。今シーズンのトータルイニングもチームは150~170回と考えている。ローテを外れることはないが、初登板のような早いイニングで降板することはこれからも多くなっていくでしょう。だから急に降板となっても日本のファンはビックリしないで欲しい」

 メジャーで一人で投げ切る完封はシーズンではほとんどない。ノーヒットノーラン、完全試合、100前後で投げ切れる状況の時だけそれが許される。仮にメジャー1年目の菊池に100球以上投げさせることがあれば「監督が猛批判される」と語る。菊池は初勝利こそならなかったが十分にメジャーで通用できることを証明してみせたという。

日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏【写真:本人提供】

真っすぐは十分に通用も「投げる前から相手打者を知ること」

「やはり真っすぐ。150キロも出ていたしメジャー相手でも空振り、ファウルを奪えた。もっと直球で押してもいいぐらいですね。そうすれば変化球も効果的になる。今のメジャーは変化球が打てないと昇格できない。変化球でかわす投球が前提ならシーズンは通用しない。そういった意味では菊池の投球は軸の真っすぐが生きているので期待は持てます」

 今後、メジャーでエース格として活躍するために必要なものは何なのか。長谷川氏は「投げる前から相手打者を知ること」と力説する。昨今では各選手のデータは球団に必ずあり、初対戦の打者にはある程度“情報”が必要不可欠となる。

「菊池が最後にセミエンに打たれたタイムリーは真ん中に甘く入った直球。あそこを打ち取るには内角の高めしかなった。フルカウントですし、制球ミスかもしれないがボールになってもいいぐらいの余裕が欲しかった。2-2からキャッチャーの要求はインサイド高めの直球。セミエンの弱点だった。そこへ投げ切れていれば抑えていたはず。しかし、実際には低めに逃げた感じになってしまった」

 メジャーで成功するポテンシャルは十分に兼ね備えている。今シーズン、若手の育成に力を入れるマリナーズも菊池を投手の軸として考えている。次回登板は、29日(日本時間30日)の本拠地・レッドソックス戦で米国デビューを果たすことになる。

「力は足りているし、十分に通用しますよ。あとは相手との兼ね合い。いきなり強打の揃うチームと対戦させるのではなく、少し余裕をもって投げられるチームに菊池を当てることもマリナーズは考えているでしょう。チームのエースになる可能性が大いにある投手なので、メジャー1年目のスタートは球団も色々と考えていますよ」(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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