「リレーコラム」五輪5連覇への鍵は「3センチ」

偉業に挑むレスリング伊調馨

©株式会社全国新聞ネット

全日本レスリング女子57キロ級決勝で川井梨紗子(左)を攻める伊調馨=駒沢体育館

 まだ誰も成し遂げたことがない五輪の個人種目での5連覇。その偉業に挑むのがレスリング女子57キロ級の34歳、伊調馨(ALSOK)だ。

 2016年リオデジャネイロ五輪で4連覇を達成した後はマットから遠ざかっていた。

 しかし、2018年10月に復帰戦を飾ると、その2カ月後の全日本選手権決勝では、リオ五輪63キロ級金メダルで10歳下の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)を破り、旧階級を含めて3年ぶり13度目の日本一にまずは返り咲いた。

 今年6月の全日本選抜選手権でも勝てば、9月の世界選手権代表に決定。その世界のマットでメダルを手にすれば、東京五輪の出場権を得る。

 まだ半ばの道のりにも「(東京五輪を)見据えながらしっかりやっていきたい」と黙々と練習に励む。

 体力や筋力に加え、試合勘と戻すものはたくさんある。リオ五輪時に比べて約7割の筋肉量で臨んだ全日本選手権では、1次リーグで川井梨を攻めきれずに敗れた。

 日本選手に敗れたのは、2001年全日本女子選手権で吉田沙保里に屈して以来、17年ぶりだった。

 しかしショックの素振りも見せずに練習マットへ姿を現すと、指導を受ける田南部力コーチと約1時間、足を取る攻撃の形を繰り返した。

 翌日の決勝、残り10秒の土壇場で対策が生き、足を取って逆転勝ち。まだ万全ではない中で五輪女王対決を制し、普段はクールな伊調が珍しくガッツポーズをして喜びをあらわにした。

 ただ、試合後には「大きな収穫だけど、どうやって(足まで)入れたかは思い出せない。分かっていないということはまだ意識してできてないということ」。本来の自らに厳しい女王に戻っていた。

 女子が採用された2004年アテネ五輪から、トップ選手として君臨する世界的にも異例のアスリートだ。

 格闘技だけに古傷とも付き合いながらの練習が続く。完全復活への鍵は「3センチ」という。

 田南部コーチによると、腰の位置が3センチ低くなれば、よりスピードが上がり、攻撃的な展開を作って主導権を握れる。

 豪快なイメージがあるレスリングだが、繊細さも世界で闘うには必須。伊調の長い競技人生を支えているのは、細かな部分を探求するところでもある。

 筋力が不十分なまま、無理に腰の位置を落とすと新たなけがにもつながるため、全日本選抜選手権までじっくり時間をかけるプランだ。

 伊調の次戦は4月に中国で行われるアジア選手権になる。

 伊調にとってリオ五輪以来となる約2年8カ月ぶりの国際大会で、昨年の57キロ級世界女王の中国選手と対戦する可能性もある。

 「もうちょっとレベルの高い選手とやることでまた感覚が戻ってくる。自分に必要なこと」と海外での試合にも意欲を見せていた。

 偉業へ次の試金石となる試合で、どんな進化を見せるか注目したい。

城山 教太(しろやま・きょうた)プロフィル

2000年共同通信入社。京都、広島支局などで警察、行政を担当して10年から運動部。レスリングやスキーの担当としてロンドン、ソチ両五輪を取材。15年から福岡運動部でプロ野球ソフトバンク、18年から本社運動部で再び五輪競技を取材。札幌市出身。