【IR考】横浜市議選を前に(上) 続く白紙多方面考慮

IR誘致の候補地とみなされている山下ふ頭=横浜市中区

 「横浜市にとって、市民にとって、1番良い方法を多方面から考えていく」

 1月。2019年度当初予算案に計上したカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の調査費1千万円について問われ、林文子市長は会見の場でこう説明した。

 IR誘致に関する市長の発言は、二転三転してきた。「市にとって有効な手法」と前向きな時期もあったが、ギャンブル依存症の問題がクローズアップされるとトーンダウン。17年夏の市長選では「白紙」を掲げて臨んだ。それ以降、慎重な発言に終始している。

 判断時期も「決めていない」とする市長。考慮している「多方面」とは果たして、何なのか。

 その一つが、「日本型IR」の有効性。18年7月にIR整備法が成立したものの、ゲームの種類など300超の項目は今後、政省令や規則で定められる。経済効果や懸念される影響を一定の精度で見極められるだけの条件がそろっておらず、それが市長の「判断できる段階ではない」との発言につながっている。

 もう一つが、賛否が交錯している市民の意見だ。市内では経済界を中心に期待の声が上がる一方、ギャンブル依存症や治安悪化への懸念は根強い。山下ふ頭(中区)が候補地と目されてきたが、横浜港運協会のトップは反対の姿勢を明確にしている。市内の合意形成は容易ではない。

 さらに、他都市の動向も影響を及ぼしているとの指摘もある。IR整備法は第1弾の整備区域を最大3カ所とし、自治体が議会の議決を経て申請すると定める。近隣では東京都、茨城県、千葉市が申請を検討中とされるが、ある市議は「首都圏に2カ所はあり得ない。市は東京の動向も気にしているのだろう」とみる。

 政府は20年代半ばの開業を目指し、今夏ごろに、整備区域の選定基準などを定める基本方針を策定する見通しだ。この方針を踏まえ、検討中の自治体が動きを活発化させる可能性も十分に考えられる。

 こうした状況の中で、29日に告示を迎える市議選。戦いを前に、別の市議はこう指摘する。「市当局は容認派が過半数の議席を取れるか、選挙中に世論がどの程度盛り上がるか、注視しているはずだ」

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