言刃(ことば)

 人の発する言葉は時に、やいばの先端、つまり「切っ先」になる。詩人の杉本深由起(みゆき)さんに「言刃(ことば)」という一編がある。〈言葉は 言刃にもなると/わかりながら使うとき/もっとも するどい刃物になる〉▲悪気のない一言でも心にグサッと刺さり得るが、悪意をもって振り回す言葉の切っ先ほど鋭いものはないのだろう▲昨年5月、熊本県の高校3年の女子生徒が自殺した件で、県教育委員会の第三者委員会は、他の生徒らによる言葉のいじめがあったと先ごろ認定した。自殺に影響を与えたとしている。この欄に進んで用いたくはないのだが、「死ねばいい」という言葉の、いかにとがっていたことか▲鹿児島県の高1男子生徒の自殺も校内のいじめが影響していたと、きのう調査結果が公表された。心に苦痛を与えるような言葉での「いじり」、からかいもあったとされる▲学校でのいじめが原因とみられる自殺に「言刃」が絡まないことは、まずなかろう。それが県内の場合であっても、また同じく▲「命」の文字は「令」と「口」の組み合わせで、「令」はひざまずく人を表し、「口」は神にささげる文、祝詞を入れる器だという。いま、その器にどんな言葉を注げばいいのだろう。難問に違いないが、やいばはいけないと、そのことだけは分かっている。(徹)

 


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