長崎県議選 東彼杵郡区 無投票の公算 石木ダム地元「課題置き去り」 いら立ち募らせる反対住民

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設問題は、反対住民が暮らす土地の「強制収用」が現実味を帯び、県の新年度当初予算案に本体工事費が初めて盛り込まれるなど大きな局面を迎えている。だが今回の統一地方選で同町の有権者が一票を行使できる県議選東彼杵郡区は無投票の公算。同町議選も無投票の可能性があり、反対住民は「町の重要問題が政治から置き去りにされている」といら立ちを募らせる。
 ダムに水没する県道の付け替え道路工事現場。25日午前8時半すぎ、反対住民や支援者ら約20人が作業道の真ん中にいすを並べた。作業着姿の県職員十数人が、工事作業員と住民双方の「安全確保」のため周りを取り囲むようにして立つ。
 2017年8月からほぼ毎日続く光景だ。反対派は当初、重機の下に潜り込むなどしたが、現在は午前中だけ座り込み、土砂の運搬などを防ぐ。
 正午。住民らはいすを片付けて弁当を広げた。「今日は少し冷えたね」「そのおかずおいしそう」。たわいもない会話は、抗議活動が彼らの生活の一部となっていることを物語る。
 「つらくても楽しく振る舞うしかない。じゃないと続けられないから」。明るくおしゃべりしていた住民の岩下すみ子さん(70)がふと真顔に戻った。「みんなひとごとと思ってる。『大変ね』って声はかけてくれても、それだけ」。しぼり出すような心の叫びを重機の音がかき消した。
 反対住民の日常を追ったドキュメンタリー映画の公開、県に公開討論を迫る市民団体の運動、著名人の相次ぐ訪問-。この数年、県内外で石木ダムへの注目が集まり、議論の機運は高まったかに見えるが、中村法道知事と反対地権者の直接対話はもう5年近く実現していない。
 県は今後、買収済みの土地で可能な作業から本体工事に着手する考え。未買収地も、強制収用を可能にする県収用委の裁決を待つばかりだ。だがこのまま反対住民が土地に住み続ける限り、知事はいつか、宅地を撤去し、住民を排除する行政代執行の判断を迫られることになる。状況が切迫度を増す中での県議選だが、地元では事業推進の立場の現職以外に出馬の動きは見られない。
 事業推進派が大勢を占める川棚町議会でも議論に消極的なムードが漂う。町民有志がこの2年間、町内各地で開いた学習会に、地元町議は数人しか来なかった。地権者の炭谷猛さん(68)が、顔を出したある町議に話し掛けようとすると「私に言わんでくださいよ」と笑ってはぐらかされた。「推進でも反対でも、地元の重要課題に変わりない。『あんたどこの町議?』と情けなくなる」と憤る。

付け替え道路の工事現場で抗議運動を続ける反対住民ら=川棚町

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