なぜ増えない女性管理職

リーダーも多様であっていい

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埼玉りそな銀行行田支店長の新井弘美さん(右)=2019年1月25日

 セクハラやパワハラ、長時間労働…。日本企業の“文化”がなかなか変わらない。理由の一つとしてしばしば挙げられるのは、管理職における女性の登用が進んでいないことだ。国際労働機関(ILO)が3月上旬に発表した女性の労働に関する報告書によると、2018年に世界で管理職に占める女性の割合は27・1%だが、日本は12・0%にとどまり、先進7カ国(G7)で最下位。1991年からの27年間で3・6ポイントしか上昇していない。この国はなぜ、これほどまでに女性登用が進まず、女性リーダーが生まれにくいのか。女性の活用で実績のある銀行への取材や、大手企業に働く2500人を対象にした意識調査結果から考えた。(共同通信=田村文)

 ▽大量にドンと採る

 女性活躍で先端を走る「りそなホールディングス(HD)」。傘下の埼玉りそな銀行(さいたま市、池田一義社長)は、女性管理職比率32・8%(2018年9月)を誇る。18年末には「女性が輝く先進企業」の内閣総理大臣表彰も受けた。

 女性登用の原点は、03年の経営危機「りそなショック」。公的資金の投入で実質国有化され、働き盛りの男性社員がごっそり辞めた。「必然」として進めた女性の登用が、今では「強み」に転じている。

 「支店長の仕事は面白い。自分で決められるから」。埼玉りそな銀行行田支店長の新井弘美さん(55)は、自信にあふれた笑顔を見せる。結婚、出産後も働き続けた。入社10年で渉外の仕事を始めたとき、取引先から「なんで女なの? うちも低く見られたもんだな」と言われた。35歳で管理職になった時には、女性社員たちと距離が生まれた。「でも努力していれば、認めてくれる人はいます」

 つらい思いもしてきた。乗り越えられた一番の理由は「2歳年上の女性で、いま別の支店で支店長をしている人の存在が大きかった」と話す。「若い時からずっと、ライバルであり、すごく仲がいい友達でもある。私も彼女も管理職になったのは、『埼玉りそな銀行』の前身『あさひ銀行』時代。女性の管理職は少なかったので、なかなか意見が通らなかった。彼女は私より先に管理職になって『いばらの道を私が切り開くからね』と言ってくれた。悩みや愚痴を打ち明け合ってきました」

 女性の登用が進んでいない企業には「メリットを理解してほしい」と話す。「職場が明るくなるし、なにより会社には男女両方の感性が必要なんです。でも1人、2人では折れてしまう。大量にドンと採ってほしいですね」

 ▽ヨコのつながりが大切

 「りそなショック」では給料が減り、賞与がなくなった。早期退職制度も導入され、同僚の姿がどんどん消えていった。「不安でした」。経営管理部SDGs推進室長の橋本景子さん(49)が振り返る。

 立て直しのためJR東日本から招いた細谷英二・りそなHD会長(故人)が改革を断行、柱の一つに据えたのが女性の活用だった。

 それまでは結婚や育児を理由に辞める女性が多かった。りそな銀行の前身の一つ、協和銀行に入った橋本さんも“寿退社”するつもりだったが、30歳頃に上司の助言で意識が変わり、「りそなショック」の03年当時は管理職に就いていた。

 05年、女性の声を経営に生かす「りそなウーマンズカウンシル」が発足、橋本さんもメンバーに。育児・介護支援の拡充や女性リーダー研修制度を提言した。「女性は『私なんて』と引いてしまいがち。研修の結果はすぐには出ないが、続けることに意味がある。最近は働き続けたいという女性が増えています」

 りそなHD執行役の品田一子さん(51)は「女性リーダー研修の重要な意味の一つは、仲間づくりにあると思う。女性はまだ男性より管理職の人数が少ないので、男性のようなヨコのつながりがあまりない。確かに『りそなショック』がスタートだったけれど、今のりそなHDがあるのは、長年こつこつ続けてきたことが定着してきて、ゆっくりと良い方の循環に転じているから。でも、まだ女性管理職は3割、道半ばです」

 りそなHDのケースから、日本で女性の登用が進まない理由をあぶり出すことができる。女性の活躍を促すリーダーシップの不在、女性の存在が会社を良い方に変えていくという認識の欠如、女性の採用そのものが少ないか、入っても早期に辞めてしまうことによる女性のマイノリティー化、そして、それによる孤立だ。孤立は早期退職につながり、女性登用が進まないという悪循環をもたらす。

 ▽ジェンダーバイアスをなくそう

 心理面まで踏み込んで考えるために、野村浩子・淑徳大教授と川崎昌・目白大客員研究員による調査を取り上げたい。大手企業25社、2500人を対象に、リーダーシップとジェンダーバイアスの関係を探った意識調査で、3月15日、お茶の水女子大で発表された。浮かびあがったのは、「組織リーダーとしての望ましさ」と「女性としての望ましさ」のギャップだ。

 調査結果によると、「男性に望まれる特性」の上位10項目のうち「自立している」「責任感が強い」「行動力がある」など半数の5項目が「組織リーダーに望まれる特性」の上位10項目と重なるが、女性の場合は2項目にとどまる。反対に、「女性に望まれる特性」の上位10項目のうち、「愛想が良い」「きれい好きである」など4項目が「組織リーダーに望まれる特性」の下位10項目と重なっている。

大手企業25社、2500人の調査の結果を発表する淑徳大教授の野村浩子さん=2019年3月15日、お茶の水女子大

 この結果から分かるのは、女性の側が“女性らしさ”に沿う行動を続ける限り、リーダーになるチャンスはなかなか巡ってこないし、経営陣が女性社員に対して“女性らしさ”を求めていては女性リーダーの育成はおぼつかないということだ。

 別の言い方もできる。会社が管理職に旧来の“男性らしさ”ばかり求めていると、女性の登用は進まないし、組織そのものも旧態依然となる。「周囲への気遣いがある」や「困っている人への思いやりがある」「優しい」といった“女性らしさ”に挙げられている美質こそ、新しいリーダーに必要な資質とは考えられないか。それは寛容さに満ちた、ハラスメントのない組織になる可能性を感じさせる。

 野村さんは「女性らしさ、男性らしさというジェンダーバイアスを取り除くことが、女性幹部育成のためには大事なのだと思う」と語る。

 希望を感じたのは、「計画的に女性管理職育成を行う企業ほど、ジェンダーバイアスが低い」という結果が出たこと。企業が真剣に取り組めば、「リーダーらしさ」と「女性らしさ」の乖離に苦しむ女性は確実に減っていくだろう。

 管理職の資質やリーダーの姿も多様であっていい。性差だけでなく、国籍の違いや障害の有無も乗り越えてダイバーシティを進める組織こそ、さまざまな困難に柔軟に対応し、立ち向かっていくことができるはずだ。(肩書、年齢は2019年3月現在)