『たったひとりの君へ』牧野あおい著 諦念の先に景色が広がる

 四半世紀ぶりに少女雑誌『りぼん』の漫画を読んでいる。手に取っているのは牧野あおいの作品だ。現在連載中の『さよならミニスカート』が「第23回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞にノミネートされた牧野。今回は、各方面から反響を読んでいる作家の短編集『たったひとりの君へ』を取り上げたい。

2008年にデビューした牧野あおい。本書は作者初の連載となった「REC―君が泣いた日―」(2010年)をはじめ、4作品が収録されている。

 涙を流さない孤独な少女が、常に持ち歩いているビデオカメラを通じて、元俳優の少年と出会う「REC―君が泣いた日―」、中学生になり、親友と距離ができてしまった少女の葛藤を描いた「制服なんて好きじゃない。」、車椅子に乗った少女と図書館で働く少年、互いに秘密を抱えた二人の物語「最終ループ」、そして死神との出会いによって、黒い欲望に火がついてしまった少女が主人公の「HAL―ハル―」。

 驚くべきはアプローチの豊富さだ。収録されている四作品は少女漫画王道のボーイミーツガールと友情物語に加え、サスペンス、ファンタジーとタッチがそれぞれ異なる。それでいながら主人公の個人的な葛藤に繋げていく展開はお見事だ。どの作品も自分が自分でしかないという諦念と、その先の、彼女たちが立ち上がり顔をあげ、そこから見えた景色の広がりまでを四者四様に描いている。

 作品によっては作者のプランが描ききれていないように思えた展開もあったが、伝えたいことが溢れているようだ。牧野あおいに漫画があってよかったし、少女たちに牧野あおいがいてよかった。そう思わせてくれる漫画家の登場だ。

(集英社600円+税=アリー・マントワネット)

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