「事業所内保育所」設置に関するアンケート調査、企業の 98.4%が事業所内保育所を未設置

 3月末に突然、認可外幼稚園が閉鎖を通知し大きな話題になった。保育所や幼稚園など、就学前の子供の預け先はまだ不足している。政府は、今年10月から3歳児以上の保育料無料と、0~2歳児の所得制限付きの保育料無料を掲げた「実質保育料無償化」を目指している。企業も人手不足の解消策として女性の社会復帰(進出)に取り組んでいるが、「事業所内保育所」を設置している企業は、全体の1.6%にとどまることがわかった。
 東京商工リサーチが実施した「事業所内保育所」に関するアンケート調査によると、事業所内に保育所を“設置していない”企業は全体の98.4%に達した。事業所内保育所の設置が進まない理由は、「保育士の確保」が難しいことと施設の「ランニングコスト」が各50%を超えている。
 また、東京(回答571社)、大阪(同118社)、愛知(同93社)と3大都市圏を中心に、「用地確保が困難」が2割を超えた。地価上昇で都市部の保育所用地の確保が難しくなっている。
 一方、都市部を中心に「待機児童」数が3ケタにのぼる自治体は全国で48カ所あり(2018年4月現在、厚生労働省)、官民が一致して受け皿不足の解消に取り組むことが急務になっている。

  • ※本調査は、2019年2月20日~3月6日にインターネットによるアンケートを実施し、9,081社の有効回答を集計した。
  • ※資本金1億円以上を大企業、同1億円未満を中小企業と定義し、個人企業は中小企業に区分した。

Q1.貴社は事業所内保育所を設置していますか?(択一回答)

◇自社で「設置している」企業は1%強
 全企業では、事業所内保育所を「設置している」企業は142社(構成比1.6%)、「設置していない」は8,738社(同96.2%)。自社で設置していないが「民間の保育所・託児所と提携している」が82社(0.9%)となった。
 社員(パート・アルバイト含む)の男女比率別では、女性社員30%未満の企業で、「設置している」が47社(同0.9%)、「設置していない」が5,380社(同97.5%)、「民間の保育所・託児所と提携している」が35社(0.6%)だった。
 一方、女性社員が30%以上の企業では、「設置している」が95社(同2.7%)、「設置していない」が3,358社(同94.3%)、「民間の保育所・託児所と提携している」が47社(1.3%)。女性の従業員が多い企業で設置割合が高く、保育ニーズの高さが設置に向けて背中を押していることをうかがわせた。

事業所内保育所の設置有無

事業所内保育所の設置有無

Q2.「設置していない」理由・背景を教えてください(複数回答)

※Q1で「設置していない」、「設置していないが、民間の保育所・託児所と提携している」と回答した企業が対象
◇半数以上が「保育を必要とする(しそうな)社員が少ない」と回答
 事業所内保育所を設置していない企業のうち、6割以上が「保育を必要とする(しそうな)社員が少ない」と回答した。
 規模別では、中小企業で4,960社(構成比66.9%)に対し、大企業は762社(同54.0%)と10ポイント以上の差がついた。
 また、地域別の理由をみると、「子供を連れた事業所までの通勤が困難」が東京で構成比19.5%、大阪で同11.3%と、都市部は1割を超えた。
 一方、岩手は同1.5%、岐阜は同0.0%、鳥取は同1.4%、山口は同1.7%、鹿児島は同1.0%、沖縄で同1.6%と6県は2%以下だった。
 都市部は朝夕の通勤ラッシュ時の子連れ出勤が、親子の大きな負担になっているようだ。

Q3.施設の設置・運営を検討する上で障壁となる要素は何ですか?(複数回答)

※Q1で「設置していない」、「設置していないが、民間の保育所・託児所と提携している」と回答した企業が対象
◇6割超が「人材確保」「施設のランニングコスト」を指摘
 事業所内保育所の設置・運営を検討する上で障壁となる要素は、「保育士(スタッフ)の人材確保」が5,693社(構成比64.5%)と最多だった。
 次いで、「施設のランニングコスト」の5,415社(同61.3%)も6割を超え、深刻化する保育士不足やコストアップを懸念する声が多かった。
 また、「開設までの費用負担が重い」も4,465社(同50.6%)と半数を占めた。資本金別では、1億円未満が3,815社(同51.4%)に対し、1億円以上は650社(同46.0%)と5ポイントの差がついた。

Q4.事業所内保育所の運営主体は?(択一回答)

※Q1で「設置している」と回答した企業が対象(択一回答)
◇「企業主導型」が半数以上を占めるも、「認可保育所」も1割以上
 Q1で事業所内保育所を「設置している」と回答した142社のうち、半数以上の76社(構成比53.5%)が企業主導型保育所を運営している。2016年に内閣府が「子ども・子育て支援新制度」の一環として始め、全国で設置が進んでいる。
 次いで、従来型の「認可保育所」が22社(同15.5%)、「認可外機関」が18社(同12.7%)。
 企業主導型保育所は、自治体を介さず園児募集や助成金を受けられ、急速に施設数が増加している。
 都道府県別の企業主導型保育所の設置企業数は、東京が28社のうち13社(同46.4%)、愛知が9社のうち6社(同66.6%)、新潟が6社のうち5社(同83.3%)、兵庫は5社のうち5社(同100.0%)と、大都市圏を中心に広がりを見せている。

Q5.施設を運営する上でどのような効果が表れましたか?(複数回答)

※Q1で「設置している」と回答した企業が対象
◇半数以上が「産休・育休利用者らの復職率の向上」と「人材の採用に有利」を選択
 事業所内保育所を設置のメリットの最多は、「産休・育休利用者らの復職率の向上」で73社(構成比51.4%)、「人材採用に有利」が71社(同50.0%)と、それぞれ5割を上回った。
 規模別では、「復職率の向上」が中小企業57.2%、大企業39.1%、「人材採用に有利」が中小企業54.1%、大企業41.3%と、中小企業が大企業に各10ポイント以上の差をつけた。大企業に比べ、事業所内保育所の設置効果がより反映されているようだ。
 その他、「外国籍の社員が安心して仕事ができる」、「スタッフの揉め事が減った」など現場の声を反映した回答があった反面、「効果が感じられない」も1社あった。

Q6. 病児・病後児保育に対応していますか。また今後対応を検討しますか?(択一回答)

※Q1で「設置している」と回答した企業が対象
◇「対応している(検討含む)」が24.6%
 保育園には、発熱など児童の病気で保育所に通えないケースでも児童を預かることが可能な「病児保育」、通園できないが病気の回復期にある児童を預かる「病後児保育」がある。フルタイムで働く女性の増加に伴い、病児・病後児保育への関心は年々高まりつつある。
 事業所内保育所を設置している企業142社のうち、約4分の1の35社(構成比24.6%)が病児・病後児保育に対応していると回答した。
 従業員の男女比別では、女性社員が30%未満の企業では10社(同21.3%)、30%以上では25社(同26.3%)と、女性従業員が多い企業ほど高い割合を示した。

Q7. 病児・病後児をどのように対応されていますか?(複数回答)

※Q1で「設置している」と回答した企業が対象
◇「自社保育施設に看護師を配置」は約半数
 Q6で「対応している」と回答した35社のうち、17社が「自社保育施設に看護師を配置」と回答した。
 次いで、「医療機関と提携」が13社、「看護師と提携」が6社と続いた。
 「その他」では、「運営母体が総合病院」、「病院の併設」など、医療機関が自ら運営する保育施設も目立った。
 病児・病後児対応では、運営コストのほか、看護師や医師の配置、病児・病後児専用のスペースなどコストアップを伴う。そのため、自社施設に看護師を配置する形態から、運営企業が医療機関と提携するケースも増えつつある。

Q8. 保育の受け皿不足により、貴社社員に影響のあった事例はありますか?(複数回答) 

◇19.4%の企業が“受け皿不足”を背景に「社員の不本意な復職延期」を経験
 保育児童の受け皿不足で、社員の不本意な復職延期や時短勤務などの影響が生じている。
 最多は「待機児童の発生による社員の不本意な復職の延期」で1,768社(構成比19.4%)と約2割に達した。次いで、「遠方の保育施設利用による社員の不本意な時短勤務」が1,441社(同15.8%)、「認可保育所への希望が通らず、認可外保育施設への入所」が1,271社(同13.9%)と続く。
 「子供の預け先が見つからなかったことを理由にした退職」868社(同9.5%)も1割に迫り、受け皿不足の深刻さをみせている。
◇受け皿不足が影響し、回答の上位4項目で“10%以上”が9都府県
 受け皿不足で回答の上位4項目がすべて10%以上は、東京、宮城、福島、埼玉、神奈川、静岡、大阪、兵庫、福岡の9都府県。2大都市圏に加え、待機児童の多い岡山や兵庫も高かった。
 項目別では、「認可保育所への希望が通らず、認可外保育施設への入所」は、沖縄(構成比40.0%)が突出し、以下は東京(同20.6%)、岡山(同18.8%)、福岡(同17.8%)、宮城(同16.3%)、神奈川(同16.0%)、静岡(同16.0%)、兵庫(同15.4%)。

 認可外保育施設は、認可施設に比べ自己負担の保育料が高い。そのため、自治体での認可保育所設置を望む意見も少なくなかった。
 その他では、入園が決まるまでの「保活(保育所に子供を入れるための活動)にかかる苦労が相当」、「発達障害の子供の預け先がなく、就労継続を断念」、「入社予定者の保活が成功せず、入社を断念した」との深刻な声もあった。
 一方、「保育が必要な社員は採用しない」も3社(同0.03%)あった。

Q9.事業所内保育所の整備推進に向け、どのような国の施策が必要とお考えですか(複数回答)

◇半数以上の企業が「共同保育施設」設置と回答
 事業所内保育所の推進に向けた国の施策では、「複数の中小企業が利用できる共同保育施設」の設置を求めた回答が4,860社(構成比53.5%)で最多だった。次いで、「保育人材の処遇改善のための助成金交付」が4,179社(同46.0%)、「施設整備のための助成金交付」が3,379社(同37.2%)と続く。
 「共同保育施設」の設置を望む声は、大企業(同52.3%)、中小企業(同53.7%)とも、それぞれ50%以上を占め、企業の規模を問わず関心の高さがうかがえた。また、保育士の給与水準の改善が叫ばれるなか、保育人材の処遇改善のための助成金交付を望む声も多く、「施設整備向けの助成」や「規制緩和」を上回った。

事業所内保育所の整備推進に向け必要と考える国の施策

事業所内保育所の整備推進に向け必要と考える国の施策

 2019年10月に実施予定の幼児教育・保育の無償化を前に、保護者からは「待機児童解消が優先」との指摘も少なくない。2018年4月1日現在、待機児童が100人を超える自治体は全国で48市区町あり、200人以上の自治体は15市区にのぼる。自治体が定める待機児童の認定基準に満たない「隠れ待機」を含めると、その数はさらに増えるとみられる。
 内閣府の「子ども・子育て新制度」開始に伴い、自治体の審査を介さずに開園が実質可能な「企業主導型保育所」の設置も前に進み始めている。だが、2017年には施設の工事遅延により沖縄で1社が開所を断念、2018年には、東京・世田谷区で保育士の一斉退職が問題となるなど、企業主導型はまだ“発展途上”にある。また、認可・認可外を問わず施設整備などの“保育の質”の均質化や人材確保など、保育環境を巡る課題はまだ山積している。
 都心部では通勤ラッシュ等に子供を巻き込む「子連れ出勤」を望まない保護者もいる。これは子連れ出勤の両親だけでなく、周囲の乗客への配慮も必要になっている。
 アンケート調査から、「保育園自体の数が少ない」、「保育士の取り合いの地域がある」、「保育士不足の解消が先」など、現状を危惧する声も少なくない。さらに、事業所内保育所の設置は、「自治体ごとに施設定数のガイドラインを設けるべき」との意見もみられた。
 保育施設へのニーズは、地域により質と量のバラつきがあり、全国一律の設置基準には限界があるのかもしれない。だが、待機児童を効果的に、かつ早期の解消を図るためには、単なる施設増設を目指すだけでなく、地域の子細なニーズ把握が必要だ。

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