[水沼貴史]35歳にして評価うなぎ登り 長谷部誠がスゴイ3つの理由

フランクフルトのELベスト8進出に貢献 photo/Getty Images

水沼貴史の欧蹴爛漫 026

1.クレバーな読み

水沼貴史です。今季の欧州主要リーグやコンペティションが終盤に差しかかり、UEFAヨーロッパリーグではMF長谷部誠が所属するフランクフルトがベスト8に駒を進めました。昨夏に日本代表からの引退を表明し、現在35歳の彼ですが、未だに成長を続ける彼への称賛の声が止みません。一体どの点が優れているのでしょうか。

フランクフルトでは3バックの中央やボランチでプレイしていますが、近年守備時のポジショニングが洗練されてきたと私は思います。フランクフルトが押し込まれた際には必ずと言ってよいほど自陣ゴール前の最も危険なエリアに彼が立っていますし、前任のニコ・コバチ監督(現バイエルン・ミュンヘン)に最終ラインの一角に据えられて以降、相手のシュートやパスのコースであったり、相手チームがどの選手やエリアを経由して攻撃してくるかを読みきったうえでボールにアプローチする力に磨きがかかっているように見受けられます。

2.チームを助ける守備意識

3バックの中央でプレイしている時はもちろんのこと、彼はボランチで起用された試合でも押し込まれた際には自陣の深い位置まで戻り、何度か味方のピンチを救っています。サッカーでは押し込まれた際にボランチが最終ラインに吸収されすぎてしまい、がら空きとなったバイタルエリアを敵に使われてミドルシュートや決定的なパスを放たれてしまうケースが往々にしてあるのですが、最近の彼にはこのようなポジショニングミスがほとんど見られません。ボランチで出場した今季のブンデスリーガ第23節ハノーファー戦でも相手がボールを下げると同時にきちんと中盤へ戻り、自陣バイタルエリアのスペースを消すことを徹底していました。3バックの中央で長くプレイした経験があるからこそ、ボランチがどこに立てば後ろが助かるかということを、彼は充分に理解しているのでしょう。

3.高精度のパスでビルドアップにも貢献

先ほどのハノーファー戦、そして3バックの中央でプレイした第25節のデュッセルドルフ戦の2試合で、彼は両チームの選手のなかで最も多くのパスを成功させています(ハノーファー戦で49本成功、デュッセルドルフ戦では62本成功。データサイト『Sofa Score』より)。この2試合で彼は無難な横パスだけでなく、攻撃の起点となる縦パスを前線へ何本も供給していました。彼自身が自陣でボールを奪った際にそのままドリブルで持ち運ぶべきか、もしくは味方にボールを預けるかの判断も試合全体を通じて適切だったと、私は思います。的確なポジショニングやコーチングで味方の守備を引き締め、安定感溢れるパスでフランクフルトの攻撃も支えている。彼が今もなお賛辞を受け続けている理由は、ここにあるのではないでしょうか。

フランクフルトは今季のブンデスリーガ26試合消化時点で5位。4位との勝ち点差も僅か“1”と、来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場圏内(国内リーグ4位以内)を射程に捉えています。私としては彼が来季のCLで活躍する姿を見たいですが! 円熟の域に達した彼のプレイぶりを、私は今後も見守り続けたいと思います。

ではでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

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