【MLB】菊池雄星、米デビュー登場曲が「ニルヴァーナ」だった訳 仕掛け人は粋な“演出家”

本拠地開幕戦で国家を奏でたパール・ジャムのギタリスト、マイク・マクレディ氏【写真:AP】

日本時代は登場曲にこだわりも「僕、決めてないんですよね。忘れた!と思って」

 シアトルの本拠地T-モバイル・パークで米国デビューを果たしたマリナーズの菊池雄星投手は29日(日本時間30日)、昨季の公式戦で最多の108勝を挙げ、プレーオフでも勢いを失わずに世界一の座を5年ぶりに奪還したレッドソックスの強力打線相手に挑み、6回4安打3失点(自責2)、5奪三振無四球と好投。3点のリードを守ってブルペンに後を託したが、9回に抑えのストリックランドが代打モアランドに逆転3ランを浴びて、メジャー初勝利はならなかった。

 奮投が報われなくても表情は晴れやかだった。

「僕自身楽しみにしていたレッドソックスの強力打線を相手に、収穫も多いゲームにすることができたと思います。」

 投じた86球をこう振り返った菊池は、その収穫を端的に表した。

「しっかり指にかかったいいボールは、空振りだったり差し込むボールも今回はすごく多かったので、そこは本当に自信にしていいとのかなと」

 望んだ結果は得られなかったが、投球の軸とする最速95マイル(約153キロ)の直球と低めを突くスライダーが安定し、落差のあるカーブでもカウントを稼ぎ、キャンプから同僚左腕ゴンザレスからアドバイスを受けた改良型のチェンジアップでゴロを打たせるなど、バランスの取れた投球に「トータルで考えている」と納得した。次回登板に向けて持ち球全てに得た好感触は大きい。

 21日の東京ドームでのメジャーデビュー戦から9日ぶりの登板。この間、2度のブルペン入りで調整をするなど準備万端で臨んだが、唯一怠ってしまったのがマウンドの登場曲の選定だった。「僕、決めてないんですよね。忘れた!と思って」。日本時代には、矢沢永吉やサザンオールスターズ、洋画のテーマ曲などジャンルを問わず使うなど、大切にしてきた部分だったが、アリゾナのキャンプ地から東京でのメジャー初登板、そして地元シアトルで米国デビューという過酷な移動を強いられたこともあってか、頭から消えていたようだ。

T-モバイル・パークの音響を担当するクリスチャン・サンフォード氏【写真:木崎英夫】

T-モバイル・パークの音響を担当するサンフォード氏が粋な演出

 しかし、ここはあらゆる角度から観客を楽しませる“ボールパーク”。音の演出にもこだわりがある。T-モバイル・パークの音響を担当するクリスチャン・サンフォード氏(31)が、背番号「18」の本拠地での米国初登板を粋な選曲で盛り上げてくれた。

 1回表、一塁側のダグアウトからゆっくりと歩を進める菊池に当てたのが、90年代にシアトルから全世界に広がった“グランジ・ロック”を代表するグループ、ニルヴァーナの大ヒット曲、「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」だった。サンフォード氏はしたり顔で言った。

「ユウセイが初めてシアトルのファンの前で投げるんだから、『ようこそシアトルへ!』という感じでね、そうなればニルヴァ―ナでしょ。それに今日は金曜日だし、若者も多く観戦しているから。曲はパーティー気分のやつということで選びましたよ」

 シアトルは音楽のムーブメントを生む土壌があり、多くのギタリストに多大な影響を与えた今は亡きジミ・ヘンドリックス生誕の地でもある。28日の開幕戦ではニルヴァ―ナと人気を二分していたパール・ジャムのギタリスト、マイク・マクレディが引退したイチローを惜しむように背番号「51」のユニホームを着用し、エッジの利いたサウンドでアメリカ国家を奏でた。

 サンフォード氏は2年前から同球場の音響を担当。豊富な音楽知識とセンスを生かし、この日は登場曲に飽き足らず、さらに菊池を盛り上げた。

 見事3者凡退で終えた1回のマウンドを降りる菊池にオーストラリア出身のバンド、ジェットの大ヒット曲「アー・ユー・ゴナ・ビー・マイ・ガール」を轟かせた。英語で打者を3人で片付ける「ワン、ツー、スリー」が冒頭に出てくる歌詞と引っ掛けて左腕の立ち上がりを称えたのだった。

「ユウセイから曲の指定がないから、状況を考えて選んでみたよ。次回の本拠地登板には彼からのリクエストがあるんじゃないかな」

 シアトル&米初登板を舞台裏から演出したサンフォード氏は、菊池が選ぶ登場曲を心待ちにしている。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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