ナチスの暗号機「エニグマ」の実機を見に行ってみた

STEAM教育でも重要な科学技術の歴史や仕組みを体験するのにオススメなのが、ミュンヘンにあるドイツ博物館。現在は2025年のフルリニューアルを目指して半分ずつ改修中。それでも25,000平方メートル(東京ドームの約半分)の展示スペースがあるため、1日ではとても見きれません。ここでは「ライト兄弟の飛行機」「ワットの蒸気機関」「ナチスドイツの暗号機エニグマ」といった、特徴ある展示や見どころに的を絞って紹介します。

「ライト兄弟の飛行機」「ワットの蒸気機関」「ナチスドイツの暗号機エニグマ」を展示。まさにリアルな百科事典

ドイツ博物館は1903年に設立され、1925年から一般公開となりました。展示は30種類以上のカテゴリに分類されています。航空、海洋、鉱業、電力、動力、工具、環境、自然科学、バイオテクノロジー、物理、天文、数学、窯業、測量など、まさに百科事典の索引そのものです。

もっとも目を引くのは大型展示。航空の歴史をたどれるコーナーは吹き抜けになっており、天井からいくつもの飛行機が吊り下げられています。その中にはライト兄弟により開発され大西洋を横断した機体もありました。

航空の歴史をたどれるホールは吹き抜けになっている
ライト兄弟が開発した飛行機

その隣の動力機械のコーナーにあるのは、ジェームス・ワットの蒸気機関の複製。想像以上の大きさに驚きます。

ワットの蒸気機関の複製

また地下には鉱山での採掘現場の模型があり、技術がどのように進化してきたか、薄暗い通路を通りながら学べます。精巧なつくりのため、ここがミュンヘンの街中を流れる川の中州ということを忘れてしまいそう。

地下にある鉱山模型

他にも、コンピュータのコーナーに展示されている、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが用いていた暗号機「エニグマ」だったり、アカデミーコレクションにあるドイツの物理学者、オットー・ハーンが原子核分裂を発見した際に用いた機械の複製などもあり、それらが本の中ではなく、現実に存在していたというリアリティを実感させます。

ドイツの暗号機、エニグマ
ハーンが原子核分裂を発見した機械の複製

物理の実験から地球環境問題まで。充実した体験型展示

見て回るだけでも知識欲を駆り立てられるものが多いのですが、ドイツ博物館は体験型の展示が充実していることでも有名。

物理コーナーには数多くの物理モデルがあり、実際に体験しながら基本的な物理的な原理を理解できます。その中には開館当初からの歴史を感じさせるものも多く、当時から普遍的かつ基礎的な考え方であることが再認識できます。

物理コーナーにある物理モデル
物理コーナーにある物理モデル

体験型の企画展示もあります。訪問したときは、地球環境問題に関する展示が行われていました。私たちが直面する環境問題を10個のテーマに分類し、それぞれについて解説。そのために用意されている解決策を具体的に紹介しながら、各テーマにおける最も適したアクションは何か、参加者自身の意見選択を促します。

テクノロジー単体で知ることと、実際に課題解決に使われることで何が起こるかを理解することの違いを学ぶことができました。

企画展では地球環境問題に向き合う
展示を見ながら、自分の考えにマッチしたものを選択
展示を見ながら、自分の考えにマッチしたものを選択

もう一歩踏み込んで学びたい人向けには、有料プログラムも提供。ミュンヘン工科大学とドイツ博物館とが共同で「タムラボ( )」というプログラムを用意しています。対象年齢は10歳以上。各プログラムの条件は細かく設定されていますが、それにマッチしていれば誰でも参加できます。

このように基礎から応用まで、そして子どもから大人まで、さまざまな体験バリエーションが用意されています。

不思議な生態「クマムシ」の観察も。理解を深める役割を担う、科学コミュニケーター

コミュニケーションを通じて理解を深める方法もあります。

クラウス・マクナップ氏

たとえば、ドイツ博物館には科学コミュニケーターが常駐しています。その一人が「マイクロスコープ劇場(Microscopy Theatre)」を定期開催しているクラウス・マクナップ氏。

人間の目では認識できないレベルの微細なものを電子顕微鏡で拡大して見せるだけでなく、そこにあるストーリーや興味を持ったポイントも詳しく解説してくれます。この日、マクナップ氏が選んだ題材は、無機物に隠された美しい結晶と、過酷な環境で生き抜く生物の神秘。

電子顕微鏡で見える世界
無機物に付着する結晶とクマムシ

後者は「クマムシ」と呼ばれる体長50マイクロメートルほどの小さな動物です。2013年に東京・お台場にある日本科学未来館を訪れた際に、東京都内で採取したものだそうです。乾燥すると仮死状態になり、水分を吸収すると再び活動を始めるというクマムシの生態を見せてくれました。

子どもの城「キッズキングダム」。3歳以上のキッズが楽しめる工夫も

博物館の多くの展示は小学校の高学年以上が対象となりますが、3歳から8歳のキッズももちろん楽しめます。そのために設けられているのが「キッズキングダム( )」です。スタッフが常駐しており、子どもたちやその家族をサポート。

キッズキングダムの入り口

サポート方法は大きく3つ。その一つがキッズ専用の体験コーナー。博物館の大規模改修が始まってからは3分の1の大きさになったそうですが、物理模型やワークショップなどさまざま。

キッズキングダムの体験コーナー
キッズキングダムの体験コーナー

これ以外にも、キッズのためのリーフレット、キッズ向け博物館ツアーが用意されています。

大人もすっかり夢中になってしまうドイツ博物館。すべてを見て回るには何日もかかると言われていますが、筆者は2日間にわけて、10時間ほど楽しみました。それでも見逃しはたくさんあります。ただ、最初に述べた通り、ここは「リアルな百科事典」。ページをたくさんめくって網羅するのもいいですが、興味があるカテゴリに深く潜り込みたいときには、さらに多くの発見がある場所です。

基本情報
名称:Deutsches Museum
開館時間:9:00-17:00
※不定休
料金:
大人14ユーロ
6歳未満は無料
6-17歳、学生、研修生などは身分証提示で4.5ユーロ
※家族チケット、複合チケット等あり
※オンライン購入可

住所:
Museumsinsel 1
80538 Munich
Germany

(上記情報は2019/3/21現在のものです。詳細は施設の公式ページをご覧ください)

公式サイト(英語):

© Valed.press