明治創業の豆腐店、100年以上の歴史に幕 小田原

「下田豆腐店」3代目の下田政行さん

 明治創業の「下田豆腐店」(神奈川県小田原市板橋)が3月30日、看板を下ろした。閉店を惜しむ客が次々に訪れ、3代目の下田政行さん(79)は「ありがたい。よく頑張ってこられた」と感慨深げ。店舗は設備の修繕を経て開業希望者に貸し出される予定で、地域に愛されてきた建物は後世に引き継がれる。

 同店は1900年ごろ、下田さんの祖母キクさんが創業。2代目の父増太郎さんが早世し、下田さんは高校卒業後から3代目として、のれんを守り続けてきた。

 前の日から大豆を水に漬け、すり、煮て、搾り、温度や大豆の状態に合わせてきめ細かに工程を調整。丹沢水系の水をくみ上げ、手作業による家伝の製法を守ってきた下田さんは「お客さんに喜んでもらえるよう必死だった」と約60年を振り返る。

 40年ほど前からは、妻志麻子さん(77)が考案した創作がんもも販売。買い物客らの要望に応えながら種類を増やし、ゆり根、銀杏(ぎんなん)、アジ、梅など近年は20種類以上を販売してきた。

 長男和実さん(47)の手も借りながら続けてきたが、年を重ね体力的にきつくなり「健康が一番。元気なうちに店を閉めたい」と決意。閉店日には買い物客が行列を作り、20年来の常連客、中川豊さん(58)は「奥さんが作る揚げ出しは絶品で、木綿豆腐はマーボー豆腐に調理しても大豆の味が残った。閉店は残念だが、これで最後。しっかり味わって食べたい」と話した。

 関東大震災で傾き1932年に建て替えた木造2階建ての店舗は、二つの桁が外に突き出た小田原流の「出桁(だしげた)造り」。重厚な雰囲気を醸し、小田原で古くから栄えた産業文化を伝える拠点「街かど博物館」にも指定されている。

 閉店後の店舗は、空き家や空き店舗の仲介などを通じて地域活性化を図る「旧三福不動産」(小田原市)が借り上げ、改修を施した上で貸し出す「サブリース」を進める。4月下旬以降、店舗開業希望者の募集を開始する予定だ。

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