THE STREET BEATS「まだ見ぬ景色、まだ見ぬ明日を追い求める『旅人の詩』」

平成最後の年明けに平成最初のライブを再現

──少し話が遡りますが、昨年、3期に分けて敢行されたデビュー30周年ヒストリー・ツアーで得られたもの、次に繋がったのはどんなことでしたか。

OKI:30年分の歩みを10年ごとに区切って全国をまわったツアーだったんですが、こちらの予想以上に喜ばれたのが一番嬉しく、とてもありがたいことでした。ビーツもこういう企画が成立するようになったんだなと感慨深かったし、手応えと得るものが非常にありましたね。

──ビーツの歴史を便宜的に1期(1988〜1997年)、2期(1998〜2007年)、3期(2008〜2018年)と区分けした場合、OKIさんのなかではそれぞれどんな位置づけなのでしょう。1期=蒼の時代、2期=成長期、3期=円熟期といった感じですか。

OKI:デビューしてから最初の10年のあいだに初期も中期も入っていると言うか。ごく初期の段階でも変遷を重ねているので、最初の10年だけですでに何周もしている感じですね(笑)。去年のヒストリー・ツアーでも1期に当たるVOL.1を2回に分けても良かったくらい内容が濃かった。VOL.1だけで80曲をプレイしましたからね。

──結果的にヒストリー・ツアー全体では何曲披露したことになるんですか。

OKI:154曲です。俺の予想を超えていたのは、直近の10年の曲をやったVOL.3のツアーがすごく盛り上がったことでしたね。自分が考えていた以上に近年の楽曲も定着しているんだなと思いました。『遥か繋がる未来』(2013年)、『NEVER STOP ROLLING』(2014年)、『PROMISED PLACE』(2016年)という三部作の曲をメインに組んだんですけど、若い頃の10年と、いい大人になってからの10年ってタイム感がまったく違うじゃないですか。あの三部作は自分のなかではごくごく最近の作品という感覚なんだけど、リスナーのなかでは「遥か繋がる未来」や「歌うたいのクロニクル」といった曲も初期や中期の人気曲と共に完全に軸として捉えてくれているんですね。それらの曲はビーツのヒストリー全体で言えばまだ生まれて間もない若手なんだけど、楽曲としてのパワー感や立ち位置はすでに成立しているんだなってことを感じました。

──長くキャリアを積んできたバンドのファンはどうしても初期の楽曲に対して思い入れが深く強いものですが、ビーツの場合、近年の三部作に対しても支持が強いことは大きな自信に繋がりますよね。

OKI:そうですね。我々も含めて、長くやっているバンドは一般的にやはり初期の楽曲を強く求めるファンが多いと思うし、俺ももちろんVOL.1はそれを踏まえてましたし。初期の楽曲にノスタルジーや思い入れが深いのは当然のことですしね。その初期の楽曲を網羅したヒストリー・ツアーVOL.1ももちろんすごく良いライブが続いて最高に良かったですが、それに加えてVOL.2とVOL.3もすごく盛り上がったんですよね。特にVOL.3のライブがちゃんとハイレベルで成立したこと、近年の楽曲がちゃんと認知されているのを実感できたことは大きな手応えでしたね。

──今年の初ライブは、平成最後の年明けに平成最初のライブを再現するというとてもユニークな趣向でした。これは去年のヒストリー・ツアーからの流れを汲んだものと言えますよね。

OKI:去年のデビュー30周年と今年の結成35周年をセットで考えていたところがあって、アニバーサリー・イヤーならではの楽しませ方をしたいなぁと考えていたんです。図らずも「平成最後の年明け」というタイミングになったので、今から30年前、平成になってまだ2週間足らずの1月21日に日清パワーステーションでやったワンマン・ライブのセットリストをそのまま再現してみるのも面白いなと思って。30年経ってそんなライブが成立するというのもありがたいことですしね。

──当時のセットリストをしっかりと把握しているバンドも珍しいと思うのですが、OKIさんの几帳面な性格が為せるわざと言えるのでは?

OKI:几帳面と言うよりも、自分で残しておかないと誰もやってくれないので(笑)。実際、事務所預かりだった一時期のセットリストは行方不明だし(笑)。ビーツに最初から関わっているのは俺とSEIZIだけだし、アーカイヴ的なデータベースはちゃんと残しておきたいですよね。自分にとってビーツはライフワークでもありますしね。

──去年の2月に1988年の東京初ワンマンの再現ライブをやった時に予想以上の楽しさがあったとOKIさんがブログで書いていましたが、平成初ワンマン・ライブの再現でもその思いは変わらずだったと思います。具体的にどんな部分に楽しさを見出だしていましたか。

OKI:そもそも現役で元気にバンドを続けていない限りそんなライブはできないし、30年経った今でもそのセットリストが恥ずかしくないものでなければやれないわけですよ。蒼い楽曲だとしても、プロのレベルをクリアできていたわけだし、しっかりと曲作りをしていたんだなと思いますね。勢いだけでやっつけていなかったし、若いなりにもすごくアイディアに溢れているし、難しいことにもチャレンジしている部分もありましたしね。

──当時の楽曲を当時の熱量のまま伝えられる現メンバーの力量にも感服しますね。

OKI:今のメンバーには本当に感謝しています。なかなか過酷なことをやってもらっているので(笑)。まずレパートリーが多いし、それに対応できるスキルも重要だけど、ただプレイすればOKという話ではないので。演奏のクオリティ、熱量を自分たちがちゃんと提示しなければならないわけですから。

キャリア初となるバラード・セレクションの制作経緯

──今回発表される結成35周年記念アルバム『旅人の詩』はキャリア初となるバラード・セレクションですが、こうした趣向の作品を作ろうと思い立ったのはどんな理由からですか。

OKI:去年、『魂のクロニクル』という2枚組のベスト・アルバムを作ったんですが、どうしてもバラード系、歌モノ系の楽曲がこぼれがちになるんですよ。CDには収録時間の制限があるし、バラード系、歌モノ系は全般的に尺が長いじゃないですか。尚且つ、時代を彩ってきたメインの楽曲たちが当然優先されるので、結果的にバラード系は埋もれてしまう曲が多い。ベスト・セレクションの選曲作業では何度もそういう経験をしていて、『魂のクロニクル』の制作中にも特にそれを感じたので、次はバラード・セレクションをやりたいと去年から考えていたんです。こうして発表できることになって、積年の敵討ちを果たせた思いもありますね(笑)。

──ベーシックの選曲をしたのはOKIさんなんですか。

OKI:自分でも年代ごとにリストを挙げて、メンバーやスタッフにもリストアップしてもらいました。全員が挙げて満点のついた曲は無条件に入れて、あとは年代なり曲調なりのバランスですね。バラードと一口に言っても、リズミックなものもあれば直球のバラードもあるし、弾き語りで聴かせるものもありますから。それと今回は時系列にもこだわらずに、ひとつの作品として成立するようなものを作りたかったので、その辺のバランスも考えました。

──結果的に納得の全16曲ではあるのですが、たとえば「WIND AND CALM」がないとか、「悲しみの波を越えて」や「暁に一人立つ」が入ってないとか、そういうのはもうキリがありませんよね。

OKI:2枚組にするべきでしたね(笑)。バラード系、歌モノ系の曲は何やかんや言って7、80曲くらいあって、レパートリー全体の3分の1くらいあるんでね。だから1枚に収めようとしたのは甘かったですね(笑)。涙を呑んだ曲が今回もたくさんあったし、もう1枚分は軽く作れましたね(笑)。

──メンバーとスタッフが全員一致したのはどの楽曲なんですか。

OKI:「風の街の天使」だったり、「親愛なる者」だったり、いくつかありましたね。それはバンドのヒストリーのなかでも節目にあたる曲だったり、客観性を鑑みた部分もあったと思います。それ以外にファンに長年支持されている曲もあるし、本当にいろんな曲が候補に挙がったんです。全部引っくるめて2枚組、3枚組で出したい気もありますけど、そうなるとセレクションではなくコレクションになってしまうのでね(笑)。

──SEIZIさんのボーカル曲が近年の「THERE IS HAPPINESS」だったのが少々意外でしたが、これはSEIZIさんのチョイスだったんですか。

OKI:いや、SEIZIは自分の楽曲は挙げてこないので、俺が選びました。SEIZIが唄う曲にはいわゆる直球のバラードというのはないんだけど、どうしても1曲はSEIZIの歌を入れたかったんです、作品性の上でもね。「THERE IS HAPPINESS」は自分がプレイしていても、リスナーとして聴いていても、とても癒される曲なんですよね。SEIZIの曲の世界観としていくつかそういう曲があるんだけど、「THERE IS HAPPINESS」はその中でも特に秀でてる曲だと思います。全体の流れのなかで「THERE IS HAPPINESS」が入ってくることでひとつのフックにもなるし、全体として作品性も高まると言うか。ちょっとバラード・ライブ的にもなるし。

──バラード系、歌モノ系で縛ると、飽きさせない曲順にすることにも神経を使いますよね。どうしても似た曲調が続くわけで。

OKI:スローな曲をただ単純に並べただけだと退屈なので、曲調のメリハリや全体の流れにはかなり気を留めたつもりです。

──10曲目の「明日なき迷子達」から14曲目の「約束できない -BALLAD VERSION-」までが曲を追うごとにデビュー・アルバムまで一作ずつ遡る趣向で、非常に粋な連なりですね。

OKI:「明日なき迷子達」や「天使の憂鬱」といった曲は、今までベスト盤の選曲でいつも決勝まで進みながら涙を呑んでたんですよ(笑)。通常のベスト・アルバムだとどうしても「少年の日」や「青の季節」みたいに上を行く役者が他にいるので、もうちょっとのところで落選してしまう感じで。だけど「VOICE」や「世界一悲しい街」といった曲も含めて、自分たちも好きだし、昔から好きでいてくれるファンの人たちもすごく多いので、今回はどうしても入れてあげたかったんです。その後半の流れは一番仇を取れたところじゃないですかね(笑)。やっと日の目を見せてあげられたと言うか、こうして世に出るのはオリジナル盤以来なので。

「I WANNA CHANGE」を新録した理由

──ビーツのバラードの世界観を一言で表しているということでアルバム・タイトルにもなった「旅人の詩」は、いつもライブ終演後のSEとして会場で流れているのもあってアルバムの最後に収録されているわけですか。

OKI:そうですね。「生まれた時からずっと旅人だった/僕自身が翼で僕自身が風だった」という歌詞の通りの人生を結果的に歩んでいるし、ライブが終われば「旅空の下でまた会いましょう!」とみんなに声をかける人生を35年間続けているわけで、『旅人の詩』がこの結成35周年記念アルバムという作品のタイトルにまさにぴったりでした。35年という時間の長さを思えば『遥か来た道』というのもタイトル候補としてあったんですが、『旅人の詩』はそれ以上にビーツが歩んできた音楽人生の世界観を一言で象徴するワードなんですよね。

──余談ですが、ライブのエンディングSEを「旅人の詩」以外の曲にしようと考えたことはないんですか。

OKI:ないですね。「旅人の詩」はそもそもライブのエンディングのSEにするつもりで書き上げた曲なので。こういう曲でライブの余韻、エピローグを迎えられたら素敵だなというイメージがあったんです。

──今回、「I WANNA CHANGE」の新録バージョンがボーナストラック的な意味合いで収録されていますが、より肉感的でエッジの効いた素晴らしいバージョンに仕上がりましたね。

OKI:まさに“PRIMITIVE VERSION”ですね。究極までそぎ落とした、より原始的なバージョン。今のメンバーで新たにレコーディングしてみたかったし、オリジナルの発表から25年経っているので、その分の重さや年輪が出ていると思います。

──新たに録り直す楽曲として「I WANNA CHANGE」が選ばれたのはなぜですか。

OKI:「I WANNA CHANGE」はビーツの楽曲のなかでアコギを持ったロックンロールでもあり、拳を振り上げるバラッドでもあるんですよね。今から15年前、SEIZIが『REBEL SONGS』のライナーノーツで「『I WANNA CHANGE』は強くて厳しくて優しいバラッドだ。そしてロックンロールでもある」と書いていて、まさしくその通りの曲で。「I WANNA CHANGE」の新録を入れることによって、このアルバムが単なるスローな曲を集めただけのバラード集ではないというメッセージも込められるし、現メンバーによる秘蔵の音源というフックにもなると思ったんです。

──ビーツのバラードは甘さだけに流されない武骨でタフなメッセージ性も内包しているし、このバラード・セレクションを聴くと、バラードもまたロックンロールであるというビーツ独自の音楽性を再認識しますね。

OKI:基本にあるのはロッカバラードですよね。そこがある種のビーツの強みだったんだろうし、だからこそ他のバンドと一線を画した存在としてここまでやってこられてるんじゃないですかね。それと、どんな曲でも基本的にアコギ一本で唄えるものとして書き始めることも大きいと思います。アレンジしていくなかで「これはアップテンポがいいな」とか「これはミドル向きだな」といった選択を随時しながら形にしていくけど、曲の根っこは一緒ですからね。

──今回のジャケットやフライヤーのヴィジュアル・イメージには非常に雰囲気のある写真が使われていますが、これはいつごろ撮られたものなんですか。

OKI:俺とSEIZIがただ路地を歩いているシルエットの写真なんですけど、すごく雰囲気あるでしょ。『旅人の詩』という世界観を非常に象徴的に表している。いつの時代もどこの場所も二人はずっとブレずに歩いてきたんだなという感慨みたいなものもあって、アニバーサリー作品に相応しい、すごくイマジネーションの湧く象徴的なジャケットになっていると思います。

──あえて時代を特定させないタイムレス感を出したかったと。

OKI:そうですね。普遍性だったり無常観だったり、そしてどこかノスタルジックな雰囲気も感じれるような。たとえれば単館系の古い洋画のポスターみたいな淡さ、渋さ。そういう世界観が好きだし、今回の作品に特にフィットしていると思いました。

──デジタルの音楽配信サービスを利用する人が増えている昨今、いろんな音楽を気軽に聴ける機会が増えるのは結構なことだと思うのですが、音楽配信はアートワークが二の次になっているのが惜しいんですよね。だからこうしてジャケットの写真1枚に至るまで細かくこだわり抜く、アートワークをおざなりにしないビーツの姿勢にはとても共感できます。

OKI:アートワークも含めてひとつの作品なわけで、もちろん統一した世界観を醸し出したいですからね。今回のジャケットは一見して今か昔かわからないところも洒落ていて良いなと思うしね。まぁ、いつどこで撮った写真かはそのうち明かしますよ(笑)。

常に楽曲ありきでここまで歩んできた

──今回のバラード・セレクション自体、時代を超越した普遍性のある楽曲が揃っていますし、タイムレス感のあるジャケット写真がまさにおあつらえ向きと言えますね。どの時代でも軸のブレない、肝の座った気骨ある歌を一貫して届けてきたビーツの音楽性を図らずも象徴した写真と言うか。

OKI:今もビーツの楽曲が色褪せないのは、時代に媚びてこなかったからでしょうね。主にアレンジの面がそうですが、流行りの音をスパイスとして取り入れると、後になってどうしても古さに繋がってしまうので。あとは聴く人たちの感覚にもよると思うんです。20代で聴く感覚と、30代、40代、50代で聴く感覚は違うじゃないですか。捉え方やシチュエーションも変わってくるだろうし、長く聴き続けてきた世代には味わい深さも加味されるだろうし。

──OKIさんの書く歌詞が初期の段階から大人ぽかったこと、肚が据わっていたことも、ビーツの楽曲がいまだ色褪せない理由のように思えますが。

OKI:そうかもしれませんね。まぁそもそも若い時は自分のことを若いとは思わないし、その時々で常に自分のエッジを見いだすことに精一杯だったわけですし。あとは、ものの感じ方や世の中に対する目線が今とそれほど変わっていないのもあるかもしれませんね。良くも悪くもですけど。今になって感じることもありますけどね。たとえば「世界一悲しい街」は20歳そこそこで書いた曲ですが、詞も曲もすごくシンプルでありながら、いろんなアイディアを突っ込んでチャレンジしているのが窺えたりします。

──「VOICE」の詞と曲もシンプルの極みですが、最小限の要素で楽曲を成り立たせる見極めが当時のOKIさんにはすでにあったように思えますね。

OKI:過去の楽曲を客観的に聴くと、蒼さというのは大きな武器だなとつくづく思います。あの蒼さ特有の煌めき感はすごいし、若さゆえのアイディアやトライする意識の強さは畏怖すら感じます。アマチュア時代の楽曲を聴いても志の高さを感じるし、これはそりゃプロになるよなぁと自分でも思いますよ。

──広島を背負って立つと言うか、東京でバンドを成功させる覚悟が生半可なものではなかったということでしょうか。

OKI:そういうのではないけど、とにかく自分の人生に対して勝負したい感覚が強かったんでしょうね。己の志を本当に形にできるのか? という。バンドで22歳までやってダメならやめるつもりでいましたし。今回のバラード・セレクションに入れた「約束できない」は結成10周年を記念したシングルとして1994年に発表した“BALLAD VERSION”ですが、それも当時の自分たちなりにかなりトライしていますよね。

──そもそも「約束できない」の“BALLAD VERSION”はどんな経緯で発表されたんですか。

OKI:当時、すでにしばらくやっていなかった初期の曲で、1994年に結成10周年を迎えるにあたってまた取り上げてみようと考えたんですが、何か新たな形で提示したかったんです。俺の弾き語りバラードからバンドの音がドンと入るアレンジにして、それを記念盤として音源に残そうということで。ピアノが難波正司さん、ドラムが長谷部徹さん、ベースが美久月千晴さん、サイド・ギターが今剛さんという敏腕ミュージシャンの方々に集結してもらって、そこに俺の歌とアコギとSEIZIのリード・ギターが絡むという、普通のパンク系のロックンロール・バンドでは考えられないようなアプローチをしてみたかったんですよ。ビーツはそういう異質なアプローチをしても軸はブレないし、常に楽曲ありきでここまで歩んできたバンドなんだよなぁとあらためて感じます。

──楽曲ありきで突き進んできたビーツにとって、バラードは自身の音楽性をふくよかにする重要な要素であることがわかりました。

OKI:バラードであれ8ビートであれ、その楽曲が呼ぶ形にしているだけなんですよね。やろうと思えばアップでもスローでもできるんだけど、最適なのはこの形だなというところに収まるようになっている。アレンジはその歌が想起させるものだし、自然となるようになっていると言うか。

──気がつけば『PROMISED PLACE』の発表から3年、そろそろ純然たる新曲が待ち遠しくなってきた頃ですが、構想は徐々に生まれつつありますか。

OKI:機が熟せば自ずとそういう流れになるんじゃないですかね。『遥か繋がる未来』から『PROMISED PLACE』までの三部作はまだ昨日出したくらいの感覚だし(笑)、それはおそらくリスナーも同じだと思うんですよ。リスナーも大人が多いし、1年がおよそ2、3カ月みたいなスピード感覚で過ぎていくじゃないですか。だから急ぐ必要も焦りもないし。新たな楽曲を作るならば、50代なら50代なりに見えてくる新しい風景や次なる旅のサジェスチョンを提示したいんですよね。

修羅場をくぐり抜けてきたからこその武器がある

──今年のツアーは35年間のエッセンスを凝縮させたものになるんですよね。

OKI:まさにオールタイム・ビーツのツアーですね。15本あるツアーは基本的に日替わりメニューなので、またかなりの曲数をプレイすることになると思います。

──去年、今年と、コア層に向けた『ビーツマニア』に特化したようなライブが続いているのもアニバーサリー・イヤーならではですね。

OKI:非常にマニアックなライブを成立させていられるのもありがたいことです。こちらがやりたいだけでは成立しないし、そもそも需要がなければやれないことですし。普段できないことをやれる周年企画は今年までなので、お客さんには存分に楽しんでもらいたいですね。10周年、20周年の頃とはもはや重みが違うし、デビュー30周年、結成35周年ともなると俺自身もさすがに感慨深いものがあります。

──歳月を経た重みは良い意味でありますよね。OKIさんのハスキーで渋みのある歌声は昔から変わらないものとばかり思っていましたが、今回のバラード・セレクションで言えば「I WANNA CHANGE -PRIMITIVE VERSION-」の後に「風の街の天使」を聴くと、声自体もだいぶ変遷を遂げてきたのを実感しますし。

OKI:「風の街の天使」はまだ蒼いし、あの蒼さがかわいいと言うか、いとおしいですね(笑)。

──その蒼さを遠ざけるあまり過去の楽曲を封印するバンドが多いなか、ビーツにはそういうところが一切ないですね。

OKI:再現縛りのライブを楽しめるのも、過去の楽曲を今の形でプレイできるのも、我々メンバーが過去の自分の若さと勝負しているわけじゃないからでしょうね。昔は表現したくても表現しきれなかったことを今は表現できるようになっていたり、味とか深みとか、今は今で若い頃にはなかった武器がある。それは何も技術的なことばかりではなく、説得力だったり、修羅場をくぐり抜けてきたからこその迫力や底力を見せられる面白さがあるんです。アスリートは身体能力ありきで、過去の記録や過去の自分をあからさまに超えられない時が必ず来るけど、我々のようなクリエーター、パフォーマーは違う勝負の仕方ができるじゃないですか。いくつになってもその時々で自分のなかでのベスト・パフォーマンスができるわけですから。それがこの生業の良いところかなと思います。

──とは言えビーツの場合、再現ライブでもキーをまったく変えないのがすごいですけどね。

OKI:そこはアスリートの感覚に近い部分かもしれませんね。曲のキーやスピードを一切落とさないというフィジカルな部分では。それをクリアするのは大きな自信にもなります。実際、体力も昔よりある気がしますしね。パフォーマンスは生ものなので、今やれていることがこの先もずっとやれるとはもちろん思ってないけど、やれているうちはベストを尽くすのみですね。

──こうして結成35周年を迎えて、明日に繋がる扉をこじ開けるビーツの旅はまだまだ終わりそうにないですね。

OKI:このスピード感で行くとすぐに40周年を迎えそうな気もするけど、どうなりますかね(笑)。「約束できない」の歌詞のように「明日のことなんて 約束できない」けど、「約束された明日なんてないから だから だから震えるほど素晴らしいのさ」と「ワンダフルライフ」で唄っているような、そういう刹那的な感じが自分の感覚としてやっぱり好きなんですよね。その感覚は年齢を重ねるごとに強まっているし、ぬるま湯に浸かるような場所にはやっぱり身を置きたくないと昔から思う。明日をも知れぬ身であることに今も浪漫を感じるし、未来に対する漠たる畏れの一方で、人生の希望や可能性に胸を躍らせる自分というのがいまだにいるわけです。明日という未来が来るのが当たり前ではないからこそ、こうしていま生きている一瞬一瞬を大切にしたい。今も昔もただそれだけですね。

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