令和の出典

 新元号「令和」の出典となった万葉集の一節は、あっという間に有名になった。梅の花見の際に詠まれた和歌32首の序文で、奈良時代の歌人、大伴旅人が書いたとされる▲原文は「時初春令月 気淑風和」という漢文。「時に初春の令月にして、気淑(きよ)く風和らぐ」と読み下す。この時代にはまだ平仮名も片仮名も存在せず、日本にあるのは漢字だけだった▲日本の元号が初めて、中国ではなく日本の古典から選ばれたことが注目されている。安倍晋三首相には日本の古典を典拠とすることに強いこだわりがあったといわれる▲だがそもそも、漢字も元号も中国発祥。令和の出典となった一節も、中国の書聖、王羲之(おうぎし)の「蘭亭序」の影響が色濃く見られると専門家は指摘する。梅も当時は中国から伝わった目新しい花だったらしい▲中国古典は長く日本の貴族や武士が身に付けておくべき教養とされ、日本の歴史や伝統とも切り離せない。そう思えば、首相が元号の出典について日本か中国かにこだわることはなかったのではないか▲令和以外に挙がっていた5候補もきのう判明した。「英弘(えいこう)」「久化(きゅうか)」「広至(こうし)」「万和(ばんな)」「万保(ばんぽう)」。日本書紀のほか、中国古典の「詩経」「文選(もんぜん)」などに由来した案だったという。改元はふだんなじみのない古典へ関心の扉を開くきっかけにもなる。(泉)

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