「サッカーコラム」監督目線では好ゲーム、でも観客にとっては… J1浦和対FC東京、乏しかったゴール前の攻防

浦和―FC東京 後半、浦和・青木(中央)と競り合うFC東京・久保建=埼玉スタジアム

 「(J1浦和にとって)今季のベストゲーム」

 「(FC東京の)選手は素晴らしいゲームをやってくれた」

 3月30日に行われたJ1第5節、浦和対FC東京戦。冒頭の言葉は試合後に行われた記者会見で浦和のオズワルド・オリベイラ監督と、FC東京の長谷川健太監督がそれぞれ口にした感想だ。

 プロの監督が満足できる試合。それが、観客にとって楽しいものとは限らない。往々にして、ロースコアの試合が多くなるからだ。確かに守備戦術の教材として見るのならば、参考になる要素は多いだろう。ただ、ゴール前で繰り広げられる攻防のスリルを求めるのならば、ちょっと退屈な試合だった。中盤でのつぶし合いが多く、ボールがゴール前に入ることはほとんどない。試合内容をメモするノートには、何も書かれないまま時間が過ぎて行った。

 首位を走るFC東京を迎えた浦和にとって、この対戦カードにはかなりの自信があったはずだ。YBCルヴァン・カップも含めた公式戦で浦和はFC東京に対してホームゲーム(埼玉スタジアム16試合、駒場スタジアム2試合)で18試合負けなしの成績を残しているのだ。しかも、この試合ではケガで出遅れていた主力のFW武藤雄樹とMF青木拓矢が今シーズン初めて復帰。タレントがそろったことで、昨年6月以来の4バックをこの試合から採用した。

 レベルは高いのだが、盛り上がりに欠ける展開。桜が開花したとはいえ肌寒さを感じるなかで行われた試合は、後半途中まで見る者にとっては“苦行”だった。それでも、最後に満足して帰途につけたのは、両チームが見せた美しい二つのゴールを見られたからだろう。サポーターを大いに沸かせた得点シーンは、ともに技術と戦術眼が高いレベルで凝縮されたものだった。

 最初に見せたのは後半30分のFC東京。その中心にいたのが、U―22(22歳以下)日本代表の遠征に参加した影響でこの試合はベンチからのスタートとなった久保建英だった。13分前に交代出場したばかりの若き才能は、笑ってしまうほどのセンスを見せつけたのだ。浦和のシュートを味方がはじき返した球を、青木と競り合いながらマイボールにするとドリブルを開始。見事なコース取りで追走する青木を背中でブロックした。最初に出したパスこそディエゴオリベイラが受け損なったが、空中に浮き上がったが難しいボールをハーフバウンドで左サイドを駆け上がる東慶悟に絶妙のタイミングでスルーパス。東のピンポイントクロスを、ディエゴオリベイラヘディングで突き刺して先制点を奪った。

 17歳という年齢で騒がれていることも確かにあるだろう。しかし、対戦した浦和DF槙野智章が「いまのA代表だったら森保さんのやり方にもはまると思う」と純粋にサッカー選手として優れていることを認める存在。広い視野と判断の的確さ。ずぬけたセンスをピッチにそのまま表現できる高い技術は、手放しで見るに値する。久保はそのような選手といえるだろう。

 アディショナルタイムは4分。2003年以来となるFC東京の埼玉スタジアムでの勝利まで秒読みとなったまさにその時に、浦和が見事なコンビネーションでFC東京の守備陣を崩して同点に追いつく。ジンクスとはこのようなドラマの積み重ねで作られていくのだろう。

 カギを握ったのはこの試合から採用された4バックの両翼、左の山中亮輔と右の森脇良太だった。時計は後半48分30秒を回っていたので、ラストの1プレーだ。武藤のサイドチェンジのパスがエベルトンを経由して左サイドの山中へ。山中は後半37分に交代出場したばかりだった。

 昨年11月20日のキルギス戦で日本代表にデビュー。その試合で開始2分にゴールを挙げるという派手な活躍を山中は見せた。しかし、横浜Mから移籍してきた今シーズンは、チームからの信頼を勝ち得たとはまだいえない。本人も「結果を残すことしか頭になかった」と語るように、危機感を持っての出場だった。

 最大の武器は左足のキック。後半42分には元ブラジル代表のロベルト・カルロスばりの30メートルの弾丸FKでクロスバーを直撃するあわやの場面も作った。そして、迎えたのがこの「ラストプレー」だった。

 ペナルティーエリア内に密集するFC東京の守備陣。その網の隙間を縫って通されたグラウンダーの精密クロス。「マイナスのところにモリくん(森脇)が入ってきたのが見えた」。その走り込むスペースにメッセージ付きのパスが送られた。

 受け取った森脇も冷静だった。「素晴らしいボールが来たので、気持ちを込めて優しく打ちました」。左足インサイドで正確に合わせられたボールは、土壇場で試合を振り出しに戻す値千金の一発となった。

 全体を通したら退屈な試合だったが、最後が締まれば印象も良くなる。プレーする側と見る側ではギャップがあった試合なのだろう。しかし、残り15分、ゴールの生まれる場面に関しては間違いなく見て良かったと思えるものだった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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