MAMORU & The DAViES「ロックンロールしかできない男の尽きせぬ情熱と衝動」

ロックンローラーは立ち位置がずっと変わらない

──バンドと弾き語りの両方で年間130本以上のライブをやる生活は変わらずですか。

ワタナベマモル(以下、マモル):うん。今は年に150本くらいやってるかな。年々ツアーが多くなって、今回はアルバムを出すのが遅れちゃって。曲はすぐできちゃうんだけど、レコーディングする時間がなかなか取れなくてね。

──1年の3分の1どころか半分近くを旅に費やしているんですね。

マモル:単純に子どもも大きくなるので、もうちょっと生活の糧になることをしたほうがいいんじゃないかって(笑)。ストレートに言えばそれだけですよ。

──それだけツアーをまわれるということは、若い頃よりも今のほうが体力があるんじゃないですか?

マモル:タバコはけっこう前にやめたし、お酒も最近はほとんど呑まなくなったからね。別に節制してるわけじゃないんだけど、呑みすぎるとベラベラ喋るから、次の日のライブは声がガラガラになっちゃう。昔はそれでも良かったのかもしれないけど、今はそれじゃ納得がいかない。呑むと話が長くなって睡眠が減るし、それなら早くホテルに帰ってサウナに入って寝たほうが気持ちいい。

──今回の新作『LET'S GO!』ですが、ミッドテンポで聴かせるのは「ビートルズが教えてくれた」と「イエーお金」くらいで、あとはノリの良い陽気なロックンロールがてんこ盛りですね。

マモル:いつものことながらあまり深く考えてないんだけどね。その時に出てきたものをそのまま入れただけだから。1曲目はどういう曲がいいんだろう? っていうのはいつも考えていて、今回はたまたまこの曲が良かった。それが「LET'S GO!」だったので、タイトルもそうしたっていうだけで。

──たとえば「少年ロック」のような幼少期の心象風景をロマンティックに唄う曲は今回、影を潜めた印象を受けますけど。

マモル:そうかもしれないね。バラードはもともと少ないし、曲作りの率はノリの良い曲が圧倒的に多いし。いつも13、4曲くらい作るけど、採用するのはノリの良い曲が多い。静かな曲も多少入れてみるけどね。

──本作は歌詞の随所にマモルさんの信条が平易な言葉でさりげなく挿入されているのがいいなと思ったんです。その聴かせ方が説教くさくなくて粋と言うか。たとえば「LET'S GO!」で言えば「特別な日なんかないぜ」。ありきたりな日常こそが大事なんだというメッセージにも受け取れるんですよね。

マモル:まぁ、僕にとってはそういうことなんですね。僕のやるロックンロールは毎日続くものだし、決して特別なものじゃないから。何十周年記念ライブとか誕生日ライブみたいなものはやらないし、この先もやらないだろうし、そんなことはやりたかないって言うかさ。その一本のライブだけが特別っていうのはおかしいじゃないですか。それを日常に置き換えれば、毎日が全部特別なわけだし、普段のライブだってお客さんが3人だろうが4人だろうがどれも特別なものなんです。旅をしているうちにそういう気持ちがより強くなったんですよ。

──旅を続けているうちに自分だけが特別な存在ではない、自分は決してロックンロール・スターなんかではないという気持ちも芽生えたり?

マモル:ロック・スターとか、もともとそういうのが好きじゃないんです。僕はビートルズやローリング・ストーンズが好きだけど、彼らは神様ではないしね。ビートルズにだってダサい曲はあるし、それをはっきりダサいと言いたいし。ポール・マッカートニーも最近の曲はいいけど、80年代の曲は大嫌いだったし(笑)。特別扱いしてしまうと、そういうのが見えなくなるよね。逆に言えば、ビートルズからそういうことを教わった気がするんですよ。楽曲の良さ、メロディの良さがすべてだよ、っていうね。たとえばキース・ムーンみたいなゴシップも好きは好きなんだけど、それはそれって感じで。

──ロックの世界にまつわる武勇伝みたいな。

マモル:55歳にもなって武勇伝もクソもないからね(笑)。そんなの今さら語るのも恥ずかしい。

──図らずも今回は「ビートルズが教えてくれた」という素敵な曲がありますね。ビートルズが教えてくれた自由、あの娘に会いたい気持ち、伝えたい気持ちを今日まで守って生きてきたという。

マモル:まぁそうですね。僕のなかでのビートルズっていうのは、もちろん世界一のロック・バンドなのかもしれないけど、4人とも根っこにあるのはリヴァプールのガキなんですよ。ポール・マッカートニーだっていくら金持ちになっても、僕にはいまだにロックンロールが好きなリヴァプールのガキに見える。ある部分ではね。そういう立ち位置がずっと変わらないのが好きなんです。自分もそうあり続けたいし、自分の立ち位置がずっと変わらないのがロックンローラーなんだと思う。

安物の5流ギターだって自分が思えば1流

──マモルさんの立ち位置もずっと変わらないと思いますよ。「パンクロックとマージービート」みたいな曲を今も堂々と唄っているわけですから。

マモル:「パンクロックとマージービート」はライブで唄うとけっこうウケるんですよ、若い男の子たちに。作った時はこんな直球な歌でいいのかな? と思って一度ボツにしかけたんだけど、これはこれでいいのかなと思って。「新しいアルバムに入れてください」って人も何人かいたので。

──この曲にも重要なフレーズがありますよね。「必要なのは 情熱 情熱」という。

マモル:重要ですかね?(笑) まぁ、僕はろくに才能もないし、情熱くらいしか取り柄がないですからね。

──「ダウンロードも何にもいらねぇ」という歌詞がありますが、実際に音楽配信サービスを利用したりはしませんか。

マモル:やり方が全然わからないからね。レコーディングやデザインでパソコンを使うことはあるけど、それで精一杯ですよ。それ以上のことはハードルが高い(笑)。

──でも結局、ダウンロードってデータなんですよね。僕らが聴きたいのは作品であってデータではないし、マモルさんの作品はいつも手描きのジャケットを含めて作り手の熱量を感じさせるものだと思うんです。

マモル:手描きの絵をスキャナーに取り込んだりはするけど、僕も古い時代の人間だからね。パッケージというのが重要なんですよ。配信でもCDでも選ぶのは自由だけど、僕はレコード世代なので曲順っていうのが重要でね。1曲ずつ単体で聴くよりも4曲目に入ってる時の聴こえ方とか、そういうのが大事なんです。アーティストというのはそういうのを考えてアルバムを作るはずだしね。ダウンロードになるとその曲順がどうでも良くなるし、もしダウンロードだけになったら僕はモノを作る意欲が半減するんじゃないかな。ジャケットも二の次になるわけだからね。ジャケットを描く楽しみまで削がれちゃったら、もうどうでもいいや、曲も別に作らなくたっていいや、ってことになるのかもしれない。

──ただでさえ「めんどくせぇ」「どうでもいい」が歌詞の頻出単語ですからね(笑)。ということは、「キャデラック8号」も4曲目だからこその良さを汲んでの配置なんですね。

マモル:なんとなくね。すごく感覚的なことだけど。

──今回の「キャデラック」は、マーサ&ザ・ヴァンデラスの「ヒート・ウェイヴ」を彷彿とさせる感じで。

マモル:それかルースターズの「どうしようもない恋の唄」みたいな。あの手のビートは自分のテリトリーだけど、ああいうビートを使った曲が今までなかったなと思って。狭いエリアのなかにも意外にまだそういうのがあるんだなと(笑)。

──個人的に特にいいなと思ったのが、疾走感のあるビートと昂揚感溢れるメロディが折り重なった「トーテムポール」なんですよね。

マモル:新曲発表ライブをずっとやっていて、そこでもこの曲が一番評判が良かったんですよ。

──わかる気がします。物の値打ちや肩書きなんてどうでもいい、どんなブランドだとかもどうでもいい、そもそもほとんどのことがどうでもいいという歌詞もすごくマモルさんらしいですし。

マモル:別にブランドが好きな人がいたっていいし、人それぞれ自由だし、いろんな価値観があっていいと思うんですよ。でもブランドが好きな人ばかりじゃつまらないし、僕みたいな偏屈者がいたっていいじゃないか、ってことですよ。

──立場や肩書きで判断することがなければ、自ずと差別だってなくなりますよね。

マモル:そうかもね。たとえば今の若い子は普通にグレッチを持っていたりするけど、僕が若い頃はとうてい買えなかったからね。みんなだいたいグレコだったから(笑)。それでもみんな、いい音を出してたよね。

──やはりギターに関してもブランド志向にはならないものですか。

マモル:なる人もいるんだろうけど、僕はならない。なんでだろうね。もちろん今はフェンダー・テレキャスターとか、ちゃんとしたギターを使ってるけど。でもなにも高いギターを使えばいい音が出るってわけじゃないしさ。結局、ライブでギターを演奏していて一番大事なのはハートの部分、情熱だと思う。ギターの音の良い、悪いっていうのは、自分が良いと思えばそれで良いんですよ。安物の5流ブランドのギターだって自分が思えば1流。自分の声だってそう。良いも悪いも自分の声なんだから。そういうことだと思うけどな。まぁ、5,000円のギターじゃさすがに良い音は出ないと思うけどね(笑)。なんて言うのかな、これはブランドに限らずだけど、世の中の流れがひとつの方向へ行くと全部そっちに行っちゃうじゃないですか。ライブなんかでもなんとかスタジアムでやるのがステイタスとかさ。だけど僕みたいに全国をドサまわりしてる頑固ジジイがいてもいいんじゃないかと思うわけですよ。僕は別に背負ったものがあってドサまわりをしてるわけじゃないけどね。

「ここ」が最高かどうかは自分自身が決めること

──「ここは天国」のなかで「ここは天国 やっぱりいい湯だな」という歌詞がありますが、頑固ジジイにとっての天国とは湯船に浸かれる場所ということですか?(笑)

マモル:そうなのかもしれないけど、そうじゃないのかもしれない。僕の場合はサウナなのかもしれない。実際のところ、僕にとってサウナは天国ですけどね。最近は良いスーパー銭湯も多いから、3時間でも4時間でもいられるし(笑)。それは置いといて、「ここ」は天国なんですよ。1曲目の「LET'S GO!」と同じように、僕のなかではね。「ここ」しかないんです。

──ああ、いま生きている「ここ」が天国であると。「トーテムポール」でも言及していたように、自分の気持ち次第で凍てついたコンクリートジャングルも天国になり得るということですか。

マモル:気持ち次第で良くならなくてもいいんですよ。「ここ」は天国なんだから。天国は「ここ」しかないんだから、別に最高じゃなくたっていい。最高かどうかは自分自身が決めることであってね。まぁ、何が言いたいのかと言えば、自分にとってお風呂は天国ってことですよ(笑)。

──煙に巻かれた感じですが(笑)。最高と言えば、「ここは天国」の「シブくなるのは早すぎる 丸くなるのはめんどくせー」という歌詞もいかにもマモルさんらしくて最高ですね。

マモル:すぐ出ちゃうんですよ、そういう言葉が。最初からそういうことを書こうとか思ってるわけじゃなくて、一行余ったところについそういうのが入っちゃうんです。得意文句がすぐ出てきちゃう。

──これだけキャリアを重ねてもマモルさんは偉ぶるところが皆無だし、ヘンに物分かりの良い大人にもならないじゃないですか。ちょっといいことを言ってやろうみたいなところもまるでないですし。

マモル:ないですね。こういうことを唄ったらウケるのかな? とかさ、そういうことをやってしまったら、ビートルズやセックス・ピストルズを聴いてきた自分を欺くことになるので。「それをやったらお前じゃなくなるだろ!」みたいな、後ろ髪を引かれる部分があるんですよ。別にいいことを言ってみたって誰に文句を言われることもないんだろうけど、自分のなかの自分が文句を言うんですよ。最初は女にモテたいとか思って始めたロックだけど、偽善者にならないように僕はロックを選んだわけだし、偽善者になるくらいならもうロックをやらなくていいんじゃないかと思うしね。そういう頑固ジジイなりのこだわりがあるんです(笑)。それくらいロックが好きって話ですよ。

──「キルヒヘアに行ったぜ」の「キルヒヘア」は、浜松にある実在のライブハウスなんですよね。

マモル:そうなんだけど、「キルヒヘア」っていうのはビートルズの初代メンバーだったスチュアート・サトクリフの恋人、アストリット・キルヒヘアから取られてるんです。

──ああ、ドイツの女流カメラマンの。

マモル:そうそう。『ウィズ・ザ・ビートルズ』のジャケット写真は、彼女が編み出したハーフシャドーの手法が使われてますよね。そんなキルヒヘアから名前を取ったライブハウスによく行くんだけど、「キルヒヘアに行ったぜ」はたまたまそのキルヒヘアの楽屋で出番前に曲が浮かんできて、iPhoneに吹き込んだのを形にしたんですよ。キルヒヘアで作った曲だから「キルヒヘアに行ったぜ」っていうだけで。

──ふとした瞬間に曲が降りてくるとは、普段から油断できませんね。

マモル:日常的に曲を作りたい、いい曲を作りたい気持ちが当たり前のようにあるんです。それでいろんな曲を聴いて刺激を受けてるんですけど、アルバムを作ってる時は不思議とまったく降りてこないんですよ。アルバムを作り終えるとまた曲を作りたくなるし、これからまた作りたいシーズンがやって来ますね。ただ何でも残しておかないと忘れちゃうので、iPhoneに吹き込んで残しておくんです。曲の断片がそこにいっぱい吹き込んであって、「キャデラック8号」もその断片のひとつを思い出して聴いて「今度の『キャデラック』はこれにしよう」と決めたんです。

──Aという断片とBという断片をくっつけてしまうこともあるんですか。

マモル:うん。Aという断片からイメージを膨らませて、ツアー中に寝ながらその続きを考えたりすることもあります。パターンはいろいろですよ。「ドーナッツ」みたいにものの5分くらいで作った曲もあるし。

──「ドーナッツ」はそんなに早くできたんですか(笑)。

マモル:あまり種明かしするのもアレだけど、自分の子どもに「ドーナッツ」って曲を作れと言われたんですよ。そうなると負けたくないじゃないですか、ミュージシャンの端くれとして(笑)。曲の半分は「ドーナッツ」って言葉を入れろって言うので、よし、受けて立つ! やってやろうじゃねぇか! と。子どもに対抗心を燃やして一気に作りました(笑)。

理屈ではない、カッコ悪いことのカッコ良さ

──「ブリティッシュ」というシンプルの極みを行くタイトルの曲もまたユニークですね。「イカしたねーちゃん 腰をフリフリブリティッシュ」という歌詞がまるで亜無亜危異の「シティ・サーファー」みたいで(笑)。

マモル:ああ、あったね。「あっちへフラフラ フラメンコ」、「こっちへヨロヨロ ヨーロピアン」。意識したつもりはなかったけど、亜無亜危異は好きだったから自然と出ちゃったのかもね。

──「キャバレーロンドン」という言葉が出てくるし、渋谷にあった屋根裏のことを唄っていますよね。

マモル:よくご存知で。それがわかるのはすごいですよ。

──ライブハウス界隈の人間なら誰でもわかると思いますけど(笑)。

マモル:若い人たちはもうわからないでしょう。昔の屋根裏はセンター街にあって、木造の雑居ビルの3階にあってね。2階にロンドンっていうキャバレーがあって、お客さんも僕らもキャバレーの前に立ってる呼び子を通り過ぎないと屋根裏までたどり着けない。屋根裏っていうのは僕にとって特別なライブハウスでね。新宿ロフトと渋谷屋根裏は当時の自分にとって一番インパクトのあるライブハウスで、いまだに僕のなかでライブハウスといえばその2つなんですよ。

──屋根裏によく出演していたのはグレイトリッチーズの頃ですね。

マモル:うん。上京する前から屋根裏とロフトに出たかったんだけど、屋根裏に最初に出た時が一番嬉しかった。ステージはベニア板みたいなのが貼ってあってベコベコで、すごく汚い所だったけど、あそこでロックをやるのが夢だった。この「ブリティッシュ」は、どうせみんな屋根裏のことなんてわかんねぇだろうなと思って作った曲なんだけど、わかる人にはわかるのかな。

──「ブリティッシュ」の「あー理屈じゃないぜ あー理屈はいらねー/なんだかやたらとカッコいい ダサくてやたらとカッコいい」という歌詞はロックンロールの本質を突いていますよね。

マモル:そこも余った一行に入った言葉でしょう。別に本質だとも思ってないけど、カッコ悪いのがカッコいいっていうのはありますよ。たとえばアンダートーンズのアルバムのジャケットにはやけに丈の短いズボンを穿いたメンバーが写ってるんですよ。何じゃこれ!? 金がないから古着屋で短いズボンしか買えなかったのかな? とか思っちゃう(笑)。でもそれが一周まわって格好いいし、その写真からドクターマーチンを知ったりする。ウィルコ・ジョンソンも黒いラッパのズボンを穿いていて、そのカッコ悪さがなぜかカッコ良く見えちゃうことがあったし、それが僕にはすごいインパクトだったんですよ。日本人で足の短い僕がそういう服を真似するとさらにカッコ悪くなるんだけどね(笑)。

──「前髪だけが 短すぎるぜ/ブリティッシュ」という歌詞がありますが、ウイングス時代のポール・マッカートニーもそんなヘアスタイルでかなり微妙でしたよね。

マモル:でもね、ポールはまだ男前だからいいほうなんですよ。だけどモーターズとか70年代のパンク周辺のバンドは洒落にならないでしょ? 後ろ髪は長くて、前髪が短くて(笑)。でもそのいびつさに衝撃を受けたんですよ。サウンドはもちろんカッコいいわけで。リー・ブリローもその類ですけどね。若い頃の映像を見ると、本人はおそらく白いジャケットを着てるつもりだったんだろうけど、汚れて黄ばんじゃってるみたいでさ(笑)。でも僕はそういう部分に、メジャーな音楽に対して「関係ねぇよ!」って言い放つパンク・ロックのエネルギーを感じたんですよ。渋谷の屋根裏はそういうアンチテーゼ感を一番感じられたアンダーグラウンドなライブハウスだったんです。ロフトはそれよりちょっと上の、メジャー感のあるライブハウスだったからね。

──「パンクロックとマージービート」の歌詞にあるように、アンダーグラウンドでエネルギーに満ち溢れたパンク・ロックとマージー・ビートをマモルさんは思い出や懐メロとして捉えず、現代にも通じるレベルソングとして血肉化しているわけですよね。

マモル:だってロックの根源っていうのは本来そういうものでしょ? ロックがメジャーなものになって、みんなが聴く機会が増えること自体はいいことだけど、なんだか中身が薄まってきたって言うかさ。

ロックンロールでは絶対に嘘を唄えない

──そんなマモルさんが「お金がなくちゃ困るけど あんなに必要なんですか」「金がすべてじゃカッコわりぃ 金がすべてじゃ情けない」と唄う「イエーお金」はとても説得力がありますね。

マモル:まぁ、ぜんぶ頑固ジジイの戯言ですよ(笑)。今の時代、こんなことを言う奴が一人くらいいてもいいじゃないか! っていう。

──マモルさんにとって、最低限これさえあればいいというものは何ですか?

マモル:ギターとサウナかな(笑)。あと、ツアーに行くとよくいいなと思うのは、港とかの景色。わざわざ観光をするわけじゃないんだけど、ふらっと散歩してる時に見える景色ね。なんかいいなって思う。

──マモルさんのお膝元で言えば清水港とか。

マモル:うん。あと函館とか。いい景色を見るとそれだけで満足する。随分と安上がりな男だと思うけどね(笑)。でも自分にとって必要なものなんてそんなものだよね。ギター、サウナ、いい景色、ロックンロール。お金は生きていけるだけあればいいんじゃないかな。自分が楽しく生きていけるだけの金があれば。

──極論を言えば、ロックンロールと旅があればいいと。

マモル:そうだね。最近は開き直ってドサまわりなんて言葉を使ってるけど、ツアーをやりながらドサまわりをしてると面白いなぁって感じる瞬間が増えてきたんだよね。僕のことなんて知らない人たちの前でやるライブはいっぱいあるけど、「トーテムポール」みたいな新曲をやってお客さんがものすごく喰いついてくることがあったりする。それはものすごくちっちゃい世界かもしれないけど、自分の音楽が広がっていく瞬間は最高だからね。その瞬間がいつ訪れるかはわからないし、いつでも体調は万全でありたいから身体に負担はかけたくないんだよ。自分の体調管理に左右されるところが大きいからドサまわりってすごくリアルだし、それはメジャーでグレイトリッチーズをやってた頃には全然感じられなかった感覚なんだよね。ライブをたくさんやればやるほどお客さんも増えていくしさ。ツアーで得たものが次にまたアルバムを作る原動力にもなるしね。すごくちっちゃいことかもしれないけど。

──だから年間150本に及ぶワーカホリックなツアーも「嫉妬するほど楽しそう」に見えるのかもしれませんね。ロックンロールとはなぜこんなにも飽きないものなんだと思いますか。

マモル:正直だからじゃないかな。僕がロックンロールを好きなのは、自分自身に嘘をつかないところ。だから絶対に嘘は唄えない。デフォルメする部分はあるにしてもね。だから身の丈に合わない偉そうなことは唄えないし、無理に唄おうとすれば嘘になっちゃう。物事は立ち止まってじっくり考えることも必要なのかもしれないけど、ライブでお客さんと「ドーナッツ」「ドーナッツ」ってコール&レスポンスをしていると意味なんてどうでもよくなっちゃう。「ドーナッツ」「ドーナッツ」って言い合ってる瞬間は楽しければいいし、僕がどんな思いをしてその曲を作ったかなんてどうでもいい。お互い思いきり声を出し合って、また明日から頑張ればいいんですよ。

──なるほど。ロックンロールとは刹那的なものですからね。

マモル:たとえばチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」は田舎に住む少年のことを唄った他愛のない歌だけど、僕にとってはその時々によって聴こえ方が違うんですよ。普通に楽しい時もあれば、励まされる時もある。それは他愛のない歌詞だからいいんだし、あの歌がもし堅苦しい内容だったらそういういろんな捉え方はできないよね。それよりも「Go! Go!」と唄うだけで楽しませたり、励ましたりできるのは最高の落語みたいだし、チャック・ベリーは僕にとって永遠の憧れだし、究極の目標だね。

──「ドーナッツ」然り、「Go! Go!」然り、意味のないことに意味があるんですかね。

マモル:意味なんてないんだけど、こっちが勝手に意味を感じてしまう。完全に騙されてるんですよ(笑)。でもそれでいいんだと思う。チャック・ベリーは黒人のなかでもちょっと異質で、白人に虐げられた裏返しで妙に明るいじゃないですか。いつもお金のことしか考えてないしさ(笑)。人としてはだいぶ問題あるけど、そこもまた面白い。人間性を含めてトータルでロックンロールなんですよ。僕もそうなりたいね。ロックンローラーと言うより、もはや旅芸人みたいになっちゃってるかもしれないけど(笑)。

© 有限会社ルーフトップ