近所づきあいが事業継続力を高める秘訣 ハザードマップの背景まで読む!

祭りは近所づきあいを深めるチャンスです 写真AC

みなさん、はじめまして。香川大学の磯打(いそうち)です。主な研究テーマは事業継続計画(BCP)や、地域の継続計画(DCP:District Continuity Planと呼ばれています)、それから2014年に新たに制度化された「地区防災計画」などです。「えっ、そんな言葉聞いたことがない」という方も心配しないでくださいね。難しいことではありません。今後これらについても説明していきます。

私は、香川大学に来る前は、民間のコンサルタント会社に長く勤めていました。各分野のプロフェッショナルの方が記事を書いている媒体にはじめての執筆で、加えて人生初の連載で緊張しています(笑)

これから企業と地域の関係性について、BCPの側面や地域防災の観点から記事を執筆していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

企業にとってのご近所づきあいとは?

ところで、みなさんの会社は周辺ご近所とのおつきあいはありますか?

お隣の会社や住民の方と顔を合わせれば挨拶したり、何気ない会話が生まれるような関係ですか?

町内会やまちづくり協議会へはどうでしょう? お祭りや防災訓練に参加したり、何か頼んだり頼まれる関係でしょうか?

町内会などの活動のように、一見自社の業務に関係なさそうな地元の集まりに顔を出すことは、自社の事業継続を考える上で、実は大変重要な情報を得られるチャンスになるんです。

今回はその理由について考えてみたいと思います。

企業は地域と共存している

企業は、電気、水道、ガスなどのライフラインや道路、公共交通機関など社会インフラを近隣の企業や居住者と共有して使用し、実質的には共存しています。

BCPがある程度形になり、訓練を繰り返し行っていくと、自社だけでBCPを遂行することが困難なことに気づくでしょう。それは、どのような業種でも1企業単体ですべての事業を完結することは困難であること、さらに事業の多くが地域の社会インフラに依存しているからです。

この社会インフラに関する整備状況や災害による被害想定、緊急時の防災情報は、事業所が所在する地域を管轄する国の機関や市町村役場から発信されます。災害発生が心配されるような緊急時にこれら情報の意味を即座に理解し、適切な事業継続活動に結びつけることはなかなか難しいです。

 

ハザードマップを読み解けますか?

例えばハザードマップ。BCPを策定する上で一度は確認したことがあるかと思いますが、ハザードマップで示される震度や浸水範囲・深さ、その根拠である想定条件が示す意味について、ハザードマップの紙面から読み取ることは実は容易ではありません。

倉敷市ハザードマップ(http://www.city.kurashiki.okayama.jp

地理院タイル(https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html

事例でご説明します。上図は平成30年7月豪雨で甚大な被害が発生した倉敷市真備町のハザードマップです。実際の浸水域とハザードマップの想定浸水域がよく一致していたとされています。下図は国土地理院のウエブサイト「地理院地図」を利用して標高の高低を筆者が色分けしたものです。双方を見比べていただくと、ハザードマップで着色されている範囲と標高が低い範囲(青~緑色)もよく一致していることがわかりますよね。

理屈は簡単です。水は高いところから低いところに流れます。ハザードマップでは氾濫の影響がある範囲が着色されていますが、それは当然周辺地域と比較して標高の低い地域ということです。一方、ハザードマップは、ある降雨条件を想定し、堤防の破堤箇所を設定して氾濫した結果が着色されています。つまり、この想定条件ではない状況で災害が発生した場合はハザードマップ通りの結果にはならない可能性があります。

ですから、ハザードマップは結果のみに着目するのではなく、結果の背景にある想定条件や自社の立地状況、過去の災害発生状況をふまえて“読み解く”必要があるのです。

ご近所さんという地域をともに守るチーム

この“読み解き”を忙しい仕事の合間に行うことはなかなか難しいでしょう。読み解きには、昔から地域のことを知っているご近所さんや市町村役場の担当者からのアドバイスが欠かせません。

自社の事業に対して自然災害の影響を回避し、被害を最小限に抑えるためには、あらかじめこれら情報を理解して、対策を講じておくことが必要です。そのためには行政から発信される情報に敏感になっておくこと、新しい情報が得られたらいつでも相談できるように担当窓口を確認しておくことなどが必要でしょう。

さらに、隣近所で老舗と呼ばれるような店舗や長く住んでおられる方に、過去にどのような災害があったのかお聞きすることも有効です。過去に発生した災害は今後も発生する可能性があります。

いかがでしょうか?

地域との関係性はすぐにできあがるものではありません。日頃から自社周辺の清掃をこころがける、積極的に挨拶を交わす、車通勤の社員には運転マナーを教育するなど、明日からできることはたくさんあります。

少しハードルが高いかもしれませんが、ぜひ町内会や市町村役場が実施している防災訓練に参加してみてください。訓練に参加することで、自社のイメージアップにもつながりますし、どのような方が地域の担い手なのか顔が見えてくるでしょう。

訓練に参加する中で、自社への期待を受ける場面もあるかもしれません。恐らくどこの企業も災害発生時は自社内の対応で手一杯でとても地域への協力などできないと感じるでしょう。地域からの期待と自社の事業継続との狭間でジレンマに陥ることもあるかもしれません。

地域との関係性を「社会貢献」ととらえて構えてしまうと負担に感じるかもしれませんが、社会インフラを共有し、共存している「ご近所さんというチームの連携」ととらえてみてはいかがでしょうか。

地域で被害が発生しなければ自社に被害が及ぶ可能性も低くなります。自社の自助として事業所が所在する「地域を守る活動」をご近所さんとチームで行う。

このことは、自社のBCPの実効性を高める上で非常に重要で効果の高い対策といえるのではないでしょうか。

(了)

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