アイドル機関車「ニーナ」

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EF66形電気機関車27号機

 人間界にアイドルがいるように、鉄道車両にもアイドルが存在し、熱心なファンが追っ掛けに精を出している。その代表格がEF66形電気機関車の27号機だ。27という数字から、いつからか「ニーナ」の愛称で親しまれるようになった。SNSでは日々の目撃情報や撮影報告がアップされ、動向を確認できない日は皆無といっていいほど注目度が高い。

 ニーナの外見には大きな特徴がある。車体を正面から見ると、左右から中心に向かってとがり、運転席の窓は新幹線0系のように傾斜し、左右のヘッドライトを収めた箱が飛び出してアクセントになっている。側面は下から垂直に伸び、運転席の窓の高さあたりから屋根までが内側に折れている。全体としてスピードを感じさせる。

 製造開始は1968年。それまで箱形が主流だった電気機関車の世界にあって、斬新なデザインだった。貨物専用機という地味な存在だったにもかかわらず、当時の子どもたちの心をわしづかみにした。

 写真を見て、鉄道ファンでなくても「ブルートレインで見たことがある」という人は多いだろう。もともと高速貨物列車のために開発されたEF66は国鉄時代末期、満を持して東海道・山陽線の寝台特急列車、いわゆるブルートレインをけん引する花形車両に躍り出た。以来、鉄道界のスーパースターとして、交通の要衝を走り続けた。

 やがて東海道・山陽線の最後のブルートレイン「はやぶさ・富士」が廃止されると、EF66は再び貨物列車の専用機になった。新しい機関車も誕生し、続々と廃車されていった。一方、JR貨物は1989年、見た目が大きく異なるEF66形100番台を登場させ、それまでのEF66は「基本番台」と呼ばれるようになった。

 2019年春現在、現役で活躍するEF66基本番台はニーナだけ。いつの間にか「ネタ釜」と呼ばれる希少種になってしまった。JR貨物の吹田機関区に所属し、大阪を拠点に同僚の100番台と交代で貨物輸送に励んでいる。

 そんなニーナを見たくても、いつ、どこを走るか公表されているわけではない。当てずっぽうに出掛けて「会える」確率はとてつもなく低い。そこで役に立つのがSNSの目撃情報だ。筆者の場合は、SNSの情報を貨物時刻表と照らし合わせ、来そうな場所に出向くことにしている。通過時刻ぎりぎりに行って、あまりの人の多さに撮影を断念したことがあり、人気の高さを実感した。

「ニーナ」が引っ張る貨物列車

 ニーナが担当するのは原則として長距離貨物列車なので、大幅な遅延もあるし、予想が外れることもある。ガセ(偽の情報)に踊らされることもある。それだけに、ニーナが定刻に走ってきたときの感動は大きい。

 スマートさと無骨さと優雅さを絶妙にミックスした、何ともかっこいい車両ではないか。近くで見るたびに転勤や出張や旅行でブルートレインに乗ったことを思い出し、懐かしさがこみ上げてくる。

 JR貨物は、国鉄時代に製造された電気機関車を数年後に全廃する計画を発表している。ということは、製造から半世紀近く経過したニーナは…。現在のコンテナ列車主体の運用は、開発目的にかなったあるべき姿だと承知している。それでも、アイドルの引退コンサートばりに、客車列車の先頭に立つ華やかな姿を見てみたい。

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部。EF66形27号機を撮りに行き、自分だけしかいないと「きょうは来ないのか?」と不安になるほど、いつも人が集まる人気車両です。