令和の時代を生きる、五つのヒント  平成生まれが暮らす部屋からみえるもの

 新元号が「令和」に決まった。平成が終わり、新しい時代が幕を開ける。東日本大震災など自然災害が相次いだ一方、テクノロジーも大きく発展し、ライフスタイルが多様化した30年。ユーチューバーに代表される新しい職業も誕生した。平成生まれの若者が住む5つの部屋を、平成2年生まれの記者が訪ね、新時代を豊かに生きるヒントを探った。(共同通信=宮野翔平28歳)

 ▽捨てて身軽に

 福岡市にあるアパートの一室。ほとんど物がない4畳半の部屋。冷蔵庫、ベッド、テレビ、テーブル…どれも見当たらない。「狭いのに広い」。すがすがしく、ゆとりある空間が広がっていた。

 ミニマリストしぶさん(24)は、必要最小限の物だけで生活して4年目。私服は「制服化」して最低限の枚数で着回し、出窓や敷布団を活用して暮らす。物が少ないと、時間やお金にゆとりができ、自分の好きなことに集中できるという。

 昨今は「断捨離」ブーム。物と向き合い、本当に必要な物かどうかを吟味する人が目立つ。スマートフォンなどのイノベーションによって、生活は便利になり、必要な持ち物は減ったのではないか。「物質的な豊かさは幸せという考えの名残がいまだに強い」と時代を読む。

 SNSや書籍で発信を続けるしぶさん自身は、物にあふれた裕福な家庭で育った。しかし両親の離婚を機に貧しい生活を経験。そんな時にミニマリズムの考え方に出会い、人生が変わり始めた。

 「生きづらさを感じていたら、身の回りの物や人間関係を見つめ直してみては。手放すことは、誰でもできます」

 ▽とにかく続ける

 牛丼早食い対決をする5人を見下ろすように、ビデオカメラと2台のライトが向けられていた。今や子どもたちの憧れの職業に名前が挙がるユーチューバー。収録部屋は若さとエネルギーに溢れていた。

 女性5人組の「おこさまぷれ~と。」は、個性や特技を生かし、メークやダンス、大食いなどの動画が人気を集める。職場やSNSで知り合い、2017年に活動開始。登録者数100万人と、日本を代表するアイドルグループを目指している。

 「毎日投稿」を掲げ、有言実行。どんな動画に反響があるか予測するのは難しく、「とにかく続けることが大切」と口をそろえる。なるべくお金をかけずに、いかに面白くできるかも勝負だ。

 楽しいことばかりではない。「ネタが一日中思い浮かばなくて、撮影できない時もあるんです」。厳しいコメントを受けることもある。それでも、自分たちのネタやゲームが学校で話題になったり、イベントでお客さんと交流したりするのはやりがいになっている。

 ゆいにゃさん(19)は「最初は何もわからなかったんです。半信半疑で始めて、不安もあった。気になったものをとにかく試しています」。ちゃきさん(22)は「服装から考え方まで、みんな違うところが魅力。キャラを作っていたら疲れちゃうので、自分をさらけ出しちゃってます」。そう話すと、5人で笑い合った。

 ▽好きを仕事に

 日中にカーテンを閉め切った薄暗い部屋。ベッドや複数のモニターが置かれ、ゲーム機のコントローラーを操作する音だけが聞こえる。ヘッドフォンを付けて指だけを動かし、別の世界に没入していた。

 大阪市内の「ゲーミングハウス」に暮らすプロゲーマーのにこちゃん(22)。住居と仕事場を兼ねた集合住宅で、シューティングゲームに専念する日々を送っている。3~5時間の個人練習に加え、夜中にもチーム練習に励む。所属先の給料や動画投稿で生計を立てている。

 元々ゲームは趣味で、「工場で働いていた時は仕事に飽き飽きしていた」。憧れだった上京もきっかけに、「変わったことがしたい。どこまでいけるか試そう」とプロの世界へ飛び込んだ。2018年には、プロ対抗の大会でチームの一員として日本一に輝いた。

 趣味は好きな時にできて、やめたい時にやめられる。それが仕事となると、常に楽しいわけではなく、義務的にやらなくてはならない時もある。安定しているわけでもない。しかし、後悔はない。「負けたら終わりの世界。プレッシャーもあるが、楽しみながら生きている」

 ▽実践あるのみ

 机代わりの押し入れには、災害や防災に関する書籍がずらりと並ぶ。岩手県釜石市にある東日本大震災の仮設住宅の一室に、柔らかな光が窓から差し込んでいた。

 防災教育を研究する慶応大大学院の中川優芽さん(24)。「地域おこし研究員」として活動するため、許可を得て仮設住宅に一時的に暮らしている。

 高校時代の震災ボランティアを皮切りに、同市を何度も訪問してきた。経験を生かし、出身の静岡県で小学校教師に。授業で震災について教えた際、「先生、どこに逃げれば良いの?」「山に登ってる時間あるのかな?」と児童に問われ、はっとした。「もっと勉強しないと、子どもたちの命を守れない」。教師を辞めて慶応大学院に入学、研究員として再び釜石へ。震災が発生した当時の避難状況や体験者の声を分析している。

 「仮設住宅で過ごす冬は寒くてつらい」と身をもって経験。水道管が凍結しないよう、遠出する時には水抜きすることを釜石で覚えた。毛布をくれたり、玄関前にライトを付けてくれたりと、心配してくれる周辺住民への感謝を欠かさない。

 研究内容を生かし、南海トラフ地震を想定した下校時の避難訓練を静岡県内の小学校でおこなうことが目標。「実践しないと越えられない壁がある。失敗も勉強。自分だからこそできる研究をしていきたい」とまっすぐな瞳で語った。

 ▽自分は自分

 ペアルック姿のカップルが暮らす部屋で、愛犬が走り回る。一緒に選んで飼い始めた「ダリア」が、自然と笑顔を誘い、2人の距離を縮めてゆく。

 レズビアンの島谷優希さん(25)と、性別にとらわれず相手を好きになる全性愛者の石引玲帆さん(21)。共通の友人を介して知り合い、交際は1年を超える。主にレズビアンを対象にしたイベントやネット上のコミュニティを共同で運営し、ユーチューバーとしても活動している。

「自分は常識から外れているのかな」「いつ打ち明けよう」と悩んできた過去がある。島谷さんは最近になって母に打ち明けた。「自分に正直に生きないと何事も後悔するよ」とと親身に向き合ってくれたという。

 日本で同性婚は認められておらず、選択肢としてあったほうがいいと考えている。LGBTカップルを結婚に相当するパートナーとして公認する「パートナーシップ制度」を導入する自治体は増えた。「平成の最後は、若い子も動き出した。もっと変われると思うし、次の時代に期待したい」。

 ユーチューブのチャンネル「エルビアンTV」で2人のデートや交際の秘訣を発信。「動画を見て身近な同性愛者に対する見方が変わった」といううれしい反響も多い。石引さんは「いろんな愛の形がある。誰を好きでも、自分は自分なんです」と、島谷さんの手を握った。

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