「原爆の記憶」米国で継承 長崎大でも学び、帰国後に本出版 米ロヨラ大准教授 チャド・ディールさん(38)

被爆後の長崎の再建について昨年出版した本(ディールさん提供)

 長崎大で長崎原爆について学んだ後、米国の大学で「原爆の記憶」の継承について教えている研究者がいる。米ワシントン在住のチャド・ディールさん(38)。昨年、被爆後の長崎の再建に着目した本も出版。ディールさんは「長崎市民以外にも長崎の再建の歴史を知ってもらい、自分の意見を言う前にまず被爆者の声に耳を傾けてほしい」と願っている。

 ディールさんは2000年、留学先の熊本県から長崎に旅行で訪れた。その際に購入した故永井隆博士の作品「この子を残して」を読んだことがきっかけで、「原爆投下後の長崎の人々がどのように被爆を受け入れたかを知りたい」と思ったという。本格的に学ぶために2003年から1年間、長崎大の高橋眞司教授(当時)の下で、永井博士の作品を中心とする原爆文学を学んだ。

 「多くの人が平和都市と聞くと、広島の名を挙げる。長崎の復興について知ってほしい」。そう強く思ったディールさんは原爆投下後の長崎の再建を研究。昨年、これまでの研究の成果を1冊の著書にまとめた。著書は「甦る(よみがえ)ナガサキ」。再建時に広島が先に原爆被災都市として「平和」を唱えたため、長崎は、国際的に開かれた貿易とキリスト教を反映した「国際文化都市」を掲げるようになったなどと、広島との対比を意識しながら分析している。

 現在、米国ロヨラ大の准教授で東アジア文化を専門とする。「原爆の記録」をテーマとする授業では、日本と米国における原爆投下の記憶の継承について、学生に検証してもらうという。学生は原爆文学や絵、被爆体験講話に触れた後、当時の米国の歴史を調べる。この授業を通じてディールさんは「一人の人間として被爆者の思いを理解し、国が持つ記憶との違いを学んでほしい」と語る。これまで100人の学生が受講し、受講後の学生の多くは核廃絶に賛同するという。

 被爆者が減少している昨今、原爆の記憶をどう継承していけばいいのだろうか。「まず被爆者のことを理解すべきで、被爆者の記憶を損なわないことが大事。被爆者が言いたいことは、体験と記憶からきているものだから」。ディールさんは今後も研究者として、教育者として、原爆の記憶を、さまざまな視点で問い掛けようとしている。

チャド・ディールさん

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