神奈川に転勤した人は必携 小さいけれど多彩な県なのだ

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「御当地本」というジャンルがある。多くは地方の出版社が郷土の歴史や人物をテーマにした本で、域外ではあまり流通しない。

このジャンルになぐりこみをかけたのがマイクロマガジン社(東京都中央区)だ。「地域批評シリーズ」と題して、多くの都道府県や大都市を取り上げ、『これでいいのか○○』というタイトルで刊行してきた。よそものの眼から見た厳しい指摘が地元民の心にも刺さるのか、各地で局地的なベストセラーとなっている。評者も旅先などで面白がって買い求めてきた。その最新刊でシリーズ76冊目となるのが『日本の特別地域 特別編集76 これでいいのか 神奈川県』だ。

狭い中にも地域対立

すでに『これでいいのか神奈川県横浜市』『これでいいのか神奈川県横浜市2』『これでいいのか神奈川県川崎市』『これでいいのか神奈川県相模原市』『これでいいのか神奈川県湘南エリア』などが出ているので、神奈川についての総集編とも言える。「人種でわかった県内対立の構図」と表紙にあるように、狭い神奈川県にも地域対立があるようだ。

第2章にその「人種」がこんな見出しで書かれている。

おしゃれでワルなハマっ子気質

東急田園都市沿線はハイソな東京型横浜住民川崎コンプレックスは払拭した!? イメージアップで人口激増都会と田舎が組み合わさった相模原人の実態治安の悪さは札つき 厚木スタイルはホントに特殊漁師と湘南ボーイ 年々深まる広い溝ららぽーと色に染まる平塚の田舎ヤンキー実力が低下したのに上から目線の小田原人

江戸時代には西部の大部分を領した小田原藩以外は、幕府や旗本領が多かったので、「○○の殿様の国」という県全体の統一感は存在しない、と指摘している。このあたりは『埼玉「地理・地名・地図」の謎 意外と知らない埼玉県の歴史を読み解く!』(実業之日本社)で紹介した埼玉県とも共通している。

おしなべて表層的な印象批評ではなく、歴史や産業、交通などのデータを踏まえているので、説得力がある。編者の一人、鈴木士郎さんはこのシリーズで神奈川県を扱うのは今回で9冊目とあるから詳しいはずだ。「ほんの数年で大変化を遂げるのが神奈川県。以前とはまったく違った状況に置かれている街の数々に、驚くやら目眩がするやら、定期的に調べにいかないといけない」と書いている。

新線開通で横浜市のひとり勝ちに

今年度(2019年度)に始まる相模鉄道のJRへの乗り入れ(22年度には東急線とも)についても「横浜市の強欲で決まった相鉄・東急相互乗り入れ計画」という項目で取り上げている。これまで関東の大手私鉄で唯一、東京都心に乗り入れていなかった相模鉄道が、「神奈川東部方面線」という新線によって横浜駅を経由せずに渋谷や新宿方面に行けるようになる。羽沢、新横浜、新綱島(いずれも仮称)と3つの新駅が出来るので、「横浜市は新たに市街地も生まれて、結果的にひとり勝ちになりそうな雰囲気」と書いている。

映画『翔んで埼玉』の大ヒットによって、首都圏各県のマウンティングが熱を帯びてきた。東京、神奈川の次の座をめぐる埼玉と千葉の対決だ。しかし、本書を読むと、神奈川にもさまざま問題を抱える街がありそうだ。

第7章「ダメな街は神奈川にもある!どうしてこうなった!?」として、こんな指摘を。

ぱっと見は悪くないが確実に衰退している横須賀

高級イメージは健在だけど実態はビミョーな逗子・葉山選択と集中ができなかった小田原の反省ポイント勢いのある海老名に押されっぱなしの厚木

厳しいことを書いているが、神奈川愛も随所に感じられる。古代、中世、近世、明治を通じてつねに先進的だったのが神奈川だという。「神奈川は壮大な実験場であり、自らの力で繁栄を勝ち取ってきた」とも。

評者がこれまで読んだシリーズの中で、もっとも活力と明るさを感じたのが本書だ。東北の各県版を読んでは、ため息が出るばかりだった。

転勤や進学シーズン。新しい土地に行ったばかりの人は、このシリーズを書店で買い求めることから新生活を始めたらどうだろう。地元の人が心の中で思っていても決して口にしたり、教えたりしてくれない「真実」に満ちている。東京都内は新宿区、足立区など主要な各区版が出ている。