2018年度「コンプライアンス違反」倒産

 2018年度(2018年4月-2019年3月)に業法・法令違反や税金滞納、脱税、粉飾決算などの「コンプライアンス違反」が一因になった倒産は194件(前年度211件)発生した。前年度を下回ったものの、高止まりで推移している。
 違反要因では、滞納、脱税などの「税金」関連が前年度より約2割増と増加が目立った。戦後最長の景気拡大が議論されるなか、業績不振から脱却できない中小企業の一端を浮き彫りにした。

  • ※「コンプライアンス違反」倒産は、建設業法などの業法違反や外為法、特定商取引法、最低賃金法などの法令違反、粉飾決算、脱税、詐欺・横領、不正受給などを対象に、2018年度の倒産企業から抽出した。

リスク管理で重要になった「コンプライアンス」

 企業経営で「コンプライアンス(法令遵守)」が重視されている。直接的な法的違反ではなくても、「倫理や社会貢献などに配慮した行動」に反した社会的な不適切行為が、消費者や取引先などの信頼を失い、業績悪化や事業継続が困難な事態に直結するケースも少なくない。経営規模を問わず、企業にとってコンプライアンスはリスク管理という観点から経営の最重要課題として認識されている。

「コンプライアンス違反」倒産は194件で高止まり

 2018年度に「コンプライアンス違反」を一因にした倒産は194件(前年度比8.0%減、前年度211件)で、2年ぶりに前年度を下回った。
 最近5年では、2014年度にピークとなる216件が発生したが、以降は15年度が191件、16年度が179件と2年連続で減少した。企業倒産が低水準で推移していることも背景にあるが、企業の社会的責任意識の浸透も進み、「コンプライアンス違反」企業の経営破綻の表面化は減っていた。
 しかし、大手に比べ中小企業の業績回復のピッチは鈍いこともあり、17年度は211件に急増、3年ぶりに増加に転じた。18年度は前年度を下回ったが高止まりであることに変わりはなく、今後の景気動向によっては「コンプライアンス」違反が露呈して経営破綻に至るケースが増える懸念を払拭できない。

コンプライアンス違反関連倒産月次推移

違反要因、最多が「税金」関連で約2割増

 「コンプライアンス違反」が一因で倒産した194件の違反要因別では、最多が滞納や脱税などの「税金」関連で84件(前年度比18.3%増、前年度71件)発生した。
 次いで、建設業法などの業法違反、外為法、特定商取引法、最低賃金法などの法令違反、行政処分、代表者の逮捕などを含む「その他」が67件(同15.1%減、同79件)。
 また、給与未払いや最低賃金法違反などの「雇用関連」は14件(同17.6%減、同17件)、虚偽の決算書作成や不適切な会計処理などの「粉飾」が13件(同48.0%減、同25件)、補助金や介護報酬などの「不正受給」は9件(同10.0%減、同10件)だった。

「税金」関連のコンプライアンス違反の動向

 2018年8月発表の「2017年度租税滞納状況」(国税庁)によると、税金の滞納残高(国税が納期限までに納付されず、督促状が発付された金額)は、1999年度以降、19年連続で減少し、ピークだった1998年度(2兆8,149億円)の30.3%にとどまった。また、2017年度の新規発生滞納額は6,155億円で、前年度より1.1%減少した。ただ、2013年度以降の5年間では3年連続で6,000億円を上回り、このうち消費税が約6割(構成比59.0%)を占めた。
 税金滞納の背景には、業績不振の影響が大きいことから、今後も滞納や脱税など「税金」関連の「コンプライアンス違反」の動向には留意する必要がある。

負債額別、大型倒産が半減

 2018年度に「コンプライアンス違反」が一因で倒産した194件の負債総額は、948億100万円(前年度比94.9%減、前年度1兆8,805億9,100万円)と大幅に減少した。前年度は、欠陥エアバッグ問題で製造業では戦後最大の大型倒産となった自動車部品メーカーのタカタ(株)(負債1兆5,024億円)と磁気治療器の預託商法のジャパンライフ(株)(同2,405億円)の大型倒産が発生した反動が大きな要因となった。
 負債額別では、負債10億円以上の大型倒産が15件(前年度30件)と半減した一方、負債5千万円未満の小規模倒産が60件(同53件)と前年度を上回り、全体の3割(構成比30.9%)を占めた。これは資金繰りに窮した小・零細企業の万策尽きる前の行動とも見ることができる。

産業別、サービス業他が最多の81件

 産業別では、10産業のうち7産業で前年度を下回った。最多がサービス業他の81件(構成比41.7%、前年度60件)で4割を占めた。
 次いで、建設業26件(前年度40件)、製造業26件(同29件)、卸売業21件(同25件)、小売業12件(同24件)、運輸業12件(同9件)、不動産業8件(同6件)、情報通信業7件(同11件)、農・林・漁・鉱業が1件(同3件)と続き、金融・保険業が発生なし(同4件)だった。
 最も多かったサービス業他の内訳では、老人福祉・介護事業が13件、人材派遣業が9件、飲食業が8件、旅館,ホテルが8件、建築設計業などの土木建築サービス業が6件などだった。
 このうち、介護福祉関連の中では、経営不振から介護報酬などの不正請求や、顧客から預かった一時金を資金流用した老人ホーム経営会社の事例もあった。

原因別、販売不振が半数を占める

 原因別では、最も多かったのが販売不振の97件(前年度比10.2%増、前年度88件)だった。全体の半数(構成比50.0%)を占め、戦後最長の景気拡大の動きに乗ることができない企業の一端を浮き彫りにした。
 次いで、放漫経営が34件(前年度比33.3%減、構成比51件)、既往のシワ寄せ(赤字累積)が33件(同32.0%増、同25件)、過少資本が10件(同23.0%減、同13件)、信用性低下が10件(同41.1%減、同17件)、設備投資過大が6件(同50.0%増、同4件)と続く。

形態別、業績不振を反映して破産の構成比が86.5%を占める

 形態別では、法的倒産が179件(前年度比7.2%減、前年度193件)。構成比は92.2%(前年度91.4%)を占めた。
 このうち、企業の消滅・解体である破産は168件(前年度比3.4%減、前年度174件)で、構成比が86.5%になった。「コンプライアンス違反」に走る企業の多くが深刻な業績不振に陥っていることを反映した。次いで、事業再建型の民事再生法が9件(同18.1%減、同11件)、特別清算が2件(前年度2件)だった。このほか、私的倒産では取引停止処分が14件(前年度比17.6%減、前年度17件)、内整理1件だった。

主な倒産事例

 2018年度「コンプライアンス違反」倒産の主な倒産事例では、公共工事手続きの不備や施工上の問題により東京地検から港則法違反で起訴され、200以上の自治体から指名停止処分を受けた総合建設業の(株)エム・テック(TSR企業コード:310340748、埼玉県、負債253億4,900万円、民事再生法)。なお、同社はその後にスポンサー企業の支援が難しくなり再生手続きが廃止された。この決定に伴ない全国88カ所あった手持ち工事が契約解除になった。この中には、東京オリンピック関連施設の「有明テニスの森公園(JV)施設改修その他工事」も含まれ、裁判所から職権による破産開始決定を受けた。
 また、ピーク時に約1万人の会員を抱えていたとされる、健康食品・健康器具訪問販売の(株)オハナ生活倶楽部(TSR企業コード:820192899、愛媛県、負債11億円)は、2018年7月に資金決済に関する法律違反被疑事件で愛媛県警から強制捜査を受け、社会的信用が失墜し事業継続が不可能となり破産を申請した。

雇用関連の「コンプライアンス違反」

 このほか、2019年4月から政府の「働き方改革」の一環として、罰則付きの残業の上限規制が大企業に適用された。雇用環境の改善が待ったなしになった中で、雇用関連の「コンプライアンス違反」倒産が目を引いた。これは業績不振の中小企業では、従業員給与の支払いにも事欠く企業が少なくないことを浮き彫りにしている。
   主な倒産事例では、タクシー業の共同タクシー(株)(TSR企業コード:026670771、岡山県、負債1,900万円)は、利用者の減少から売上が落ち込み、2017年1月には従業員の時間外労働の賃金未払いで岡山労働基準監督署から是正勧告を受けた。だが、先行きの見通しが立たないことから2018年5月の株主総会で解散を決め、従業員16人を解雇した。しかし、時間外労働の賃金が未払いのままで、特別清算申立時点の労働債権は約1,623万円にのぼり負債の大半を占めた。
 宿泊施設運営の(株)上村振興公社(TSR企業コード:422091871、長野県、負債2,900万円)は、キャンプ場等の指定管理なども請け負っていたが、赤字経営が続き2018年には残業代の未払い問題が発生、労働基準監督署から数回にわたり是正勧告を受けた。2018年末までに問題を解決できず指定管理を解除され、営業収入の確保ができなくなり破産を申請した。
 訪問介護事業の、いきてる(株)(TSR企業コード:012756806、福岡県、負債1,000万円)は、事業が軌道に乗らず業績不振が続いていた。2018年6月、福岡労働局から従業員3名の1カ月間の賃金合計67万円を支払わなかったとして労働基準関係法令違反で送検された。その後は資金繰りの悪化から破産を申請した。


 「コンプライアンス」意識が浸透し、金融機関の融資条件や企業間の取引条件の重要項目になっていても、違反企業は後を絶たない。2018年度も「コンプライアンス違反」倒産は、高水準の194件になった。要因別では、「税金」関連が約1.2倍増と戦後最長の景気拡大が議論されるなか、一部の中小企業は税金を納められない苦境に陥っている状況を映し出した。
 さらに、今年10月には消費増税が予定されている。消費税は毎年、新規滞納額の中で大きな部分を占めている。原則として赤字決算でも預かり消費税を納付しなければならない。消費税負担が必要な売上高1,000万円超の中小企業では、資金繰りの苦しさから納付まで預かり消費税を運転資金に流用することも危惧されるだけに、増税の影響が注目される。

 政府の重要政策である「働き方改革」が始動し、今年4月から「罰則付きの残業の上限規制」が大企業での適用が始まった(中小企業の適用は1年猶予、また医師、自動車運転業、建設業については、業務の特殊性に配慮し法施行5年後に適用)。こうしたなか、「取引先の大企業が残業を減らすため、下請けの納期が厳しくなった」などの声も出ている。政府の目玉改革の実施が中小企業に及ぼす影響は注目すべきだろう。
 「コンプライアンス違反」倒産の高水準は、景気拡大の波に乗れない中小企業の「鏡」でもある。経営不振から不正に走り、最終的に倒産に至る企業が後を絶たない実態を「コンプライアンス違反」倒産が示している。

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