【米朝会談取材の舞台裏】①記者拘束 中朝国境・中国側

丹東駅に一時停車する、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を乗せたとみられる列車(下)とダミー列車(上)=2月23日、中国遼寧省丹東市

 米朝トップの再会に世界の耳目が集まった。2月末、ベトナムの首都ハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談。トランプ米大統領は「取引(ディール)」への自信をにじませ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「良い結果が出せる」と意気込んでいた。高まる期待からまさかの物別れに至るまで、状況はめまぐるしく展開した。舞台裏を報告する。

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 「2月23日は改修工事のため宿泊できませんので、その日正午までにチェックアウトしてください」。北朝鮮と国境を接する中国遼寧省丹東市。21日、中朝を流れる鴨緑江に架かる「中朝友誼橋」を見渡す「丹東中聯ホテル」に25日までの予定でチェックインすると、フロントの女性スタッフが記者にこう告げた。

 近くの別のホテルのスタッフは電話で「市当局から23日は部屋の宿泊を停止するよう通知があった」と回答。友誼橋周辺のホテルでは1月に金正恩朝鮮労働党委員長が列車で訪中した際も同じ措置が取られていた。

 平壌からベトナムまでは列車移動で3日ほどかかる上、中国側の負担を考慮すると「中国を縦断してのベトナム入り」には半信半疑だったが、確信に変わった。

 22日午前、丹東市内を車両で回っていると突然、中聯ホテルから電話が。「今夜も宿泊が不可能になったので、正午までにチェックアウトしてください」

 今夜来るのか?―。一瞬慌てたが、別のホテルは同様の対応は取っておらず、中聯ホテルの一般客は通常通り泊まれることが判明。追い出されるのは中聯ホテルに集結していた日本や欧米など海外メディアだけだった。

 その後、同市鉄道局幹部がこの日の会議で「近く重要な任務がある」と訓示したとの情報が入り、丹東駅の駐車場閉鎖も現認。街には少しずつ緊張感が高まってきた。

 23日は土曜日。中朝友誼橋周辺は朝から多くの観光客で賑わっていたが、鋭い視線で警戒する私服警官の姿も。「きょうは午後9時までに客を帰して店を閉めなければいけない」。昼食のため入った鴨緑江沿いのレストランで従業員同士の会話が聞こえてきた。列車通過は午後9時過ぎのようだ。

 夕方、ロシアのタス通信が金氏の特別列車が中国時間の4時ごろに平壌駅を出発と報道。日が暮れ、気温は氷点下近くに。橋周辺では午後7時過ぎから多数の警官が交通規制の準備を開始。犬を連れ橋の上の線路を懐中電灯でくまなく調べる警官の様子も見えた。

 午後8時20分ごろ、橋から約500メートルの地点で警官が規制線を張って橋のたもとへは立ち入り禁止になり、道路も封鎖された。「ちょっと来い」。数十分後、規制線近くで警官に連行され派出所へ。パスポートと記者証を取り上げられ拘束状態に。部屋の中に監視カメラの映像を写したモニターがあり、目を凝らしたが列車は確認できなかった。

 午後9時40分ごろに解放され、去り際に「列車は橋を通過したんだろ」と警官に聞くとうなずいた。列車は同20分ごろ中国入りし、別の場所にいたカメラマンは緑色の車体に黄色の線が入る特別列車を捉えた。(丹東共同=木梨孝亮)=続く

中朝を流れる鴨緑江に架かる橋の近くでチマチョゴリを着て記念撮影をする中国人女性たち=2月22日、中国遼寧省丹東市

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