【長谷川滋の目】「甲子園を目指さない学校」の必要性 日本の育成システムに警鐘

日米で活躍した長谷川滋利氏が日本の育成システムに警鐘

16、17歳の成長過程の中で、人生で1番球数を投げることに疑問

 第91回選抜高校野球大会は東邦(愛知)が平成最後の優勝を飾り幕を閉じた。昨年12月は新潟県高校野球連盟が「球数制限」を導入する(春からの導入は見送り)動きを見せるなど、未来の野球界に向けた動きが徐々にだが動き始めている。オリックス、マリナーズ、エンゼルスで日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏は「まだまだ」と警鐘を鳴らし、早期の改善を求めている。

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 今年の選抜高校野球大会は継投するチームが多いように見られましたが、これがいい方向に向かっているかと言われれば私は「まだまだ」と答えるでしょう。継投策に出た高校の中でも投手を守るためでなく「勝つため」の継投が多かったように思えます。選手のリスクを考えているようには見えなかったですね。

 これまで何度も言ってきましたが16歳、17歳の子供が100球を超え、さらには1週間の中で何度も連投する。これを異常だと考えていない人が多すぎますね。本来なら20台中盤でピークを迎えるはずの選手たちが、なぜ成長過程である10台後半で人生の中で一番ボールを投げるのか? 故障のリスクが一番高い時期にそれだけの球数を投げるのは考えられません。

 はっきり言って日本の育成システムはおかしすぎる。年齢に応じた球数、登板間隔などケガに対するリスクは科学的にも証明されている。高校生なら週に1度、多くても80球が大体の目安です。昔からの流れで「根性論」などは今も尚、根強く残っている。「球数制限」の話をすれば批判的な意見も多くでるのが現状ですよね。

日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏【写真:本人提供】

「甲子園を目指さない学校」でリーグ戦、相手を知る野球を覚える

 昔に比べれば少しずつですが、変わりかけているがそれでもまだまだ遅い。近い将来には必ず出てきますが“甲子園を目指さない”学校が出てくればと思っています。同じような高校同士でリーグ戦を行い、実戦の場が増え、投手にも5、6人のローテを組ませて球数を決める。登板間隔も必ず空くので連投はなくなります。

 投手に限ったことではなくリーグ戦を行うことは非常に大事です。同じ相手と何度も試合をやることで、相手を知る野球を覚えることができます。野球は団体競技でありながらも個人競技の部分も多いが、“考えるスポーツ”です。プロ野球でもペナントはリーグ戦を行ってその中で優勝を決める。大学でもそうですがアマ時代からその部分を実際にプレーして感じることは今後、必ず生きてくる。

 私はこれまで何度も高校生の育成システムに関して発信してきました。ですが、野球界の中でもっと多くの人が将来の野球界について声をあげる必要があると思っています。残念ながら長年、野球界に携わっている人でも球数制限、登板間隔などに批判的な意見を持つ人がいます。

 すでに上記でも話しましたが、科学的な根拠が出ている現状をもっと知ってもらいたいですし、そのことについて分かっている人は名前を出してどんどん公の場に出て話してほしい。悪い話をしているわけじゃない、批判もあるかもしれないが面と向かって話し合いができる場を作っていきたい。自分のためじゃなく将来のプロ野球選手のために声をあげていってもらいたい。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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