「はやぶさ2」また快挙、「成功」の持つ大きな意味

©株式会社ニッポン放送

「報道部畑中デスクの独り言」(第122回)ではニッポン放送報道部畑中デスクが、探査機「はやぶさ2」による世界初の試み、人工クレーターをつくる実験について解説する。

記者会見が行われたJAXA相模原キャンパスのプレスルーム 壁のプロジェクターにも映し出された

「えー…うれしい報告をさせていただきます」

4月5日午後4時半過ぎ、探査機「はやぶさ2」の統括責任者、津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)はJAXA=宇宙航空研究開発機構・相模原キャンパスに設けられたプレスルームで一息おいて、このように話しました。「想定以上」の事態に興奮を必死に抑えているようにも見えました。

この日、「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」に人工のクレーターをつくる実験に挑みました。以前も少しお伝えしましたが、世界で初めての試みです。

「インパクタ(正式名称はSCI=Small Carry-on Impactor)」と呼ばれる衝突装置がタイマーによって爆発、銅でできた弾丸が小惑星の表面に撃ち込まれる段取りです。その過程で探査機本体から「DCAM3(ディー・カム・スリー)」と呼ばれる小型のカメラを切り離して、小惑星周辺の撮影も試みました。

(衝突装置の分離カメラ「DCAM3」を分離する想定CG(ISAS・JAXA提供))

ただし、これにはもちろん高度な制御が必要です。クレーターができる際、小惑星の粒子や装置の破片が飛び散ることから、探査機は小惑星の陰への退避を強いられます。タイマーによって許された時間は約40分。この間に探査機は“安全地帯”に逃げ込まなくてはなりません。

まさにやり直しがきかない「一発勝負」。大半が自律・自動航行であるため、事前の正確な設定が欠かせません。プロジェクトチームでは、馬に乗って移動しながら矢を放ち、的を射る「流鏑馬」にたとえました。しかも、ただの流鏑馬ではありません。矢の方向、矢を射る位置も前もって決め、「目隠し」をして発射するようなものだと言います。人間では考えられない一連の動作が、3億4,000万キロ離れた小惑星で成功するのか…まさに緊張の連続となりました。

はやぶさ2退避成功を喜ぶプロジェクト関係者(プレスルームのモニター画面から 午前11時57分撮影)

人工のクレーターを確認するまでが今回の任務ですが、実際にクレーターができたかどうかは、飛び散ったものが落ち着いて安全が確認された上で、探査機が改めて小惑星に接近して撮影する必要があります。それがわかるのは今月下旬になる見通しになります。

この日は、まずは「安全第一」、飛び散ったものが当たることなく無事に探査機が避難し、地上との交信が無事継続できることが最重要課題でした。さらにその間には衝突装置の分離、発射、爆発、そしてカメラの分離…様々な“関門”が立ちはだかります。これらが判断できる画像が当日確認されるかどうかも微妙な状況で、私ども報道陣もいつこれらの”関門通過“が判断されるのか、そして何をもって「成功」と言えるのかに関心が集中しました。それによって記事の「見出し」も大きく変わって来るからです。

午前9時の記者説明会でスポークスパーソンの久保田孝教授は、「SCI運用がすべて完了し、“成功”と言えるのは、きょうは難しい」…「成功」という表現にはあくまでも慎重です。その上で「天命を待つ。平成最後の大仕事」と気を引き締めていました。

分離カメラ「DCAM3」を説明する久保田孝スポークスパーソン(写真のものはレプリカ 手のひらに乗るほどの大きさ)

午前11時、プレスルームの大型モニターには管制室の様子が映し出されます。前回成功した1回目の着陸は予定より前倒しで進みましたが、今回はほぼ時間通り。午前11時13分に衝突装置の分離、午前11時32分にカメラの分離、午前11時50分にカメラとの通信が可能に。そして、午前11時57分ごろ、探査機が無事に小惑星の陰に“避難”できたことを確認され、管制室から大きな拍手が沸きました。

それぞれの関門では予定時刻が近づくとカウントダウンが始まりますが、時刻が過ぎると逆に秒数が増えて行く「カウントアップ」に。慎重に慎重を期したデータ確認が必要なためです。管制室の関係者はそわそわしている様子でしたが、それが安堵の笑顔に変わった瞬間が正午前のことでした。

大きな任務を予定通りこなした探査機「はやぶさ2」。とは言え、ここまでは「織り込み済み」。私ども記者の間でも「“成功”という表現は難しいかな」「まあ“予定は順調”という見出しですかね。写真が送られて来るとうれしいんだけど」…そんな話をしていました。

小惑星「リュウグウ」の噴出物を説明する津田雄一プロジェクトマネージャ

その後、事態は想定以上に動いて行きました。まず午後2時半過ぎに行われた記者会見では、衝突装置が暗闇のなかで(フラッシュをたいたのでそう見える)くっきりと分離された画像が公開。記者からも「オオーっ」とどよめきが起きます。分離が無事行われた「動かぬ証拠」でした。そして、さらに2時間後の午後4時半過ぎ、津田プロマネほか、担当者7人が顔を揃え、喜びの記者会見となったわけです。

「本日、私たちは宇宙探査の新しい手段を確立しました。衝突装置=SCIをリュウグウに向けて分離する運用を実施しました。はやぶさ2より分離したDCAM3がSCIの作動時間に撮影した写真に、リュウグウ表面からの噴出物の様子を捉えたことから、SCIが計画通り作動したと判断しています」

衝突装置が爆発し、弾丸が小惑星に衝突したことを確認…津田プロマネの報告に、記者席からも思わず拍手が起きました。大型モニターにはカメラが小惑星を捉えた画像が映し出され…表面の岩石のようなものが斜め上に飛び散っている様子が水平方向から確認できました。

分離カメラ「DCAM3」による画像 リュウグウ表面から噴出物が確認された 表面から右上で噴出物の筋がのびている(JAXA・神戸大・千葉工大・産業医科大・高知大・愛知東邦大・会津大・東京理科大 提供)

「明らかに小惑星の表面の噴出物。SCIを実際に衝突させることに成功したと判定しています」…津田プロマネからも「成功」という言葉が出たのです。

前述の通り、関係者によると、この日に画像が得られるかどうかは「五分五分以下」。画像が確認されると管制室内は大きな歓喜の渦が沸き上がり、一時、運用を忘れるほど素晴らしいひとときだったと言います。

「大変興奮しています。これ以上望むものはない成功だと思っています。はやぶさ2には『とにかく生きててよかったなあ』と声をかけたい」(津田プロマネ)

「心からホッとしています。胃に穴があく前に運用が成功して(=リュウグウ表面に穴をあけられて)よかった」(佐伯孝尚助教)

「はやぶさ2」に搭載された光学航法カメラで撮影した分離後の衝突装置の様子(左上)(JAXA・東京大・高知大・立教大・名古屋大・千葉工大・明治大・会津大・産総研 提供)

記者会見した担当者らは、ユーモアを交えながらさわやかな笑顔を見せました。会見後は大小2つの黒いダルマに目が入りました。大きい方は、探査機本体と衝突装置の成功を祈願したもの、「安全」の文字がしたためられていました。小さな方は「福」の文字。分離カメラの成功を祈願したもので、「たくさんのいいデータが出て来ますように」との願いが込められていました。

さらに今回も津田プロマネら関係者は、前日に「カツ丼」や「カツカレー」で願をかけたとのこと。科学者ではありますが、こういったところには人間味を感じます。

衝突装置運用成功を受け、ダルマに目を入れるプロジェクト関係者

この後は前述の通り、実際に人工クレーターができているか、上空からの確認が待っています。噴出物の様子などから「できている公算が大きい」(津田プロマネ)と期待は膨らみます。さらに、2回目の着陸ができるかどうか…「第一関門を突破した。“令和”になったら着陸をしたい」と話すのは久保田孝教授。まだまだ探査機「はやぶさ2」の挑戦は残っています。

クレーターをつくることは、実際の天体衝突を再現する形になるため、ビッグバンに代表されるような惑星の生成メカニズムの解明に迫れるかもしれません。また、クレーターから風化が少ない地中の「フレッシュ」な粒子を採取することができれば、生命がどのように産まれたのか、その起源の解明につながることが期待されます。

今回もせっかちな報道陣はヤキモキでしたが、これは成功に向けた儀式のようなものかもしれません。そして、この日の「成功」は様々なハードルを越えた上に勝ち取ったもの。2月の着陸成功以上に、日本の技術を世界にアピールした瞬間だったろうと思います。(了)

成功を喜ぶプロジェクト関係者