【米朝会談取材の舞台裏】④同宿? ベトナム首都ハノイ・金正恩氏宿泊先

ホワイトハウス担当記者の取材拠点を急きょ移設し、路上で受付作業をする米政府関係者ら=2月26日、ベトナム・ハノイ

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がベトナム・ハノイにやってくる当日の2月26日朝、ある情報が記者たちの間を駆け巡った。開設が数時間後に迫った記者の取材拠点を、米ホワイトハウスが別の場所に移すというのだ。理由は、拠点と同じホテルに正恩氏が泊まるから。米朝の事前調整のお粗末さを示す、象徴的な出来事だった。

 ホワイトハウスは米国から出張する担当記者たちの作業スペースを市内のホテル「メリア・ハノイ」に設置することにし、報道陣の一部が泊まれる部屋も確保していた。だが、このホテルには正恩氏が宿泊するとの観測も出ていた。「北朝鮮のトップが米国の記者が集まるホテルに泊まるはずがない」と多くの記者が考えた。

 結局、調整はつかず、当日になって追い出されたのは米側だ。正恩氏の到着を前に、ホテルでは北朝鮮当局者が「記者を追い出せ」などと声を張り上げる姿が目撃された。

 首脳会談の準備で、会談場所と首脳の滞在先を固めるのは基本。それなしには警備や交通規制の計画も立てられない。米朝は今回、約1週間前からハノイ入りして実務協議を続けていたが、会談場所が発表されたのは前日のことだ。

 実務協議中、米代表団の宿舎には北朝鮮高官が車で何度もやって来た。米当局者は「順調だ」と語ったが、同僚記者は正反対の情報を得ていた。日がたつにつれ、米代表団の一部が私服で散歩したりピザを食べたりと、手持ちぶさたにしているような姿が目立ち始めた。

 振り返れば、米朝は非核化の具体策どころか会談の進め方すら、満足に話せていなかったとみられる。トランプ政権は会談直前まで、具体的なことは伏せたままで「交渉は進展している」と繰り返し、今もその主張を続けている。(ハノイ共同=竹本篤史)=続く

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