愉快倶楽部 私のもうひとつの場所 Another Life[Vol.2]

職人が作った珈琲豆でしか出せない味がある

南 清章さん(55歳) 守山市在住 直火焙煎 珈琲豆 カフェバード オーナー・珈琲豆焙煎職人
珈琲豆の種類だけ焙煎がある
編集部:熱された焙煎機から、珈琲豆のいい香りがしていますね。

南:焙煎中は目が離せないんですよ。温度が上がるにつれ、薄い緑色の生豆がだんだん茶色く変わり、釜の中で豆が弾かれる音が聞こえてくると、慎重に仕上げの調整に入ります。

珈琲豆は世界で200種類以上あり、日本には約100種類ほどが輸入されています。同じ種類の珈琲豆でも、豆の収穫時期や輸入のタイミングなどで質に違いが出るので、私たち職人は麻袋から出した生豆の状態をよく確認してから始めます。そして、その日の気温や湿度を考慮して、最適な加減で焙煎を行うのです。もちろんそれは、豆の種類によっても異なります。どんな豆をどんな風に煎るのか。それは、職人技でしか表現できないものなのです。

無類のコーヒー好き。広告代理業を通じて出会った"職人の味"
編集部:珈琲豆の焙煎に関わるきっかけとは。

南:私は30歳で広告代理店を興したのですが、もともとコーヒーが大好きで、企画を練るとき、お客さまとの打ち合わせの際、また外に出ればカフェに立ち寄り、日常的にコーヒーを飲んでいました。転機となったのは、家庭用珈琲豆焙煎機を作る神戸の会社のホームページを作成したときです。情報収集のため訪れた京都の珈琲豆焙煎店で、その店のマスターが焙煎したコーヒーを飲んだ瞬間、衝撃を覚えました。「こんなにおいしいコーヒーがあるのか」と。ブラジル、コロンビア、モカ…いろんな種類のコーヒーを試飲させてもらったのですが、初めて“珈琲豆の味の違い”を実感し、感動したのです。

それ以来、そのマスターの珈琲豆を買いに行くようになり「滋賀でもこんなおいしいコーヒーが飲めたら」と考えるようになりました。40歳を控えた頃、焙煎職人になる決意をし、京都のマスターにお願いして3年間修業をさせていただきました。焙煎の技術はとても奥深いです。3年ですべてを習得することは難しかったのですが、滋賀・守山に“カフェバード”をオープンして今年で13年。今では「自分の焙煎したコーヒーが一番おいしい」と思えるようになりました。積み重ねてきた経験が、今の私の珈琲豆に反映されています。

本当においしいコーヒーを楽しんでほしい
編集部:こちらはカフェではなく、珈琲豆焙煎店ですが、一般向けに「美味しいコーヒーの淹れ方」講習会を開いておられるとのことですが。

南:日々、忙しいので月に2回しか時間が取れませんが、丹念に焙煎した珈琲豆を少しでもおいしく飲んでいただきたくて、ハンドドリップの仕方を伝授しています。若い方からご年配の方まで、コーヒー好きの方々から申し込みがあるのですが「喫茶店を開きたい」という方が来られることもあります。そういう方には、お店を立ち上げる際の相談にも乗っています。お客さまのターゲット層や一緒に提供する料理メニューを聞いて、そのお店に合うようなオリジナルブレンドコーヒーの開発もお手伝いしています。私がプロデュースさせていただいた喫茶店はこれまでで14軒に上り、それぞれの地域で、カフェバードのコーヒーを味わっていただけることに大きな喜びを感じています。

いつか自分のコーヒー農園を
編集部:南さんの今後のビジョンとは。

南:現在、55歳。この先、70になっても80になっても元気なうちは、職人として焙煎機の前に立っていたいですね。だって、自分もおいしいコーヒーが飲みたいですから(笑)。

そして、今後の展開として、自分のコーヒー農園を持てたらと考えています。この秋には、東南アジアへ視察に行く予定です。もし、自分が農園の経営者になることができれば、理想的な豆を自分で作れるようになります。実現できるかはわかりませんが、それが私の最終目標ですね。

コーヒーは焙煎職人の腕と経験でその味わいの8割が決まります。「世界の個性溢れる珈琲豆をいかに美味しく仕上げられるか」これが珈琲豆焙煎の仕事です。南マスターが焙煎するカフェバードの珈琲豆を是非味わってください。

カフェバードのコーヒーが飲めるお店
Tent10(テントテン)

草津市野路2丁目5-6 TEL 077-563-8809

南草津駅付近の住宅街にある隠れ家的なカフェ。常連の学生さんは「このお店のコーヒーは、味のバランスが良く、すごく飲みやすい。コーヒーが苦手な人もコーヒー通も満足できるおいしさです」と話す。

取材:2017年9月

© 有限会社ウエスト