「私の町の球団」目指し15年目 坂口理事長に聞く  四国アイランドリーグplus

四国アイランドリーグの坂口裕昭理事長

 野球の独立リーグという言葉を覚えておられるだろうか。2005年に誕生した四国アイランドリーグ(IL)plus は、社会人チームの減少により活躍の場を失った選手を受け入れ、ロッテの角中勝也外野手や中日の又吉克樹投手らを輩出してきた。過去14年で日本野球機構(NPB)にドラフト本指名19人、育成指名35人という実績も積み上げている。坂口裕昭理事長(46)が、発足から15年目を迎えたリーグの課題や将来像を語った。(聞き手、共同通信=浜谷栄彦)

四国アイランドリーグからプロ野球に移って活躍する、中日の又吉克樹投手(左)とロッテの角中勝也外野手(右)

四国アイランドリーグplus 元プロ野球選手、石毛宏典(いしげ・ひろみち)氏の主導で2005年に発足した地域密着型の野球の独立リーグ。四国4県に置いた「徳島インディゴソックス」「香川オリーブガイナーズ」「愛媛マンダリンパイレーツ」「高知ファイティングドッグス」の4球団でスタートした。08年以降は福岡、長崎、三重3県の球団が加わったり、脱退したりと試行錯誤を重ねた。12年から四国4球団体制に戻った。赤字が続く球団もあり、財政面での安定が課題となっている。2019年シーズンは前後期を合わせて年間約80試合を戦う。総合優勝チームは秋に、国内にある別の独立リーグ「ルートインBCリーグ」の優勝チームとグランドチャンピオンシップを争う。

―野球の底辺拡大と地域密着という存在意義に変化は。

 根本は変わっていない。ただ、実際に動きだして地域に根ざすことの難しさを学んだ。小手先の理屈では浸透は図れないということを、痛いほど感じている。目的に掲げた人材育成、地域貢献にしても、抽象的な言葉で言うのは簡単だが、成果を出すのは難しい。当初は野球選手としての育成に特化していたけれども、地域の課題解決に(リーグ、球団、選手が)積極的に関わる形へと発展した。

―発足当初は資金繰りに苦労した。1年目の売上高は計画の半分にすぎない約3億5600万円。収益の柱とした入場料収入は約6000万円で計画の6分の1しか確保できなかった。運営会社IBLJは3億円余りの赤字だった。当時に比べて財務基盤は安定したか。

 100%「はい」と答えられるほど単純ではない。赤字続きの球団もあるが、リーグ運営会社IBLJの売り上げは今年大きく回復する。帳簿を見て、ここなら投資して良いと弁護士の私が思えるレベルまでは改善した。ようやく次を見据えられる経営基盤を作り上げることができた。

―今年から選手の兼業を解禁した。その意図は。

 兼業を強制するわけではないし、報酬の支払いをやめるというネガティブな話でもない。これだけ世の中が多様化している中でいろんなスタイルがあって良い。選択肢を増やす中で、選手が自分のバックグラウンドを考え、選択できる環境をつくるほうが、プレーヤーとしての成長につながる。働くことで社会性が身に付くし、限られた時間で集中して質の高いトレーニングができる。

―2018年の1試合平均の観客動員数は521人と伸び悩んでいる。

 今、四国ILのお客さまは野球が本当に好きな方々。北米の独立リーグであるカナディアン・アメリカン・リーグの平均観客動員数は約2500人。球場内でアンケートを取ると、野球が好きで来ている人は20%。つまり500人で、実は四国ILと変わらない。残る2000人は野球にさほど興味がない。私たちはその層を集客できていない。米国では多くの観客が地元のチームを応援しない理由はないと答えている。球場ではママ友同士がおしゃべりをし、おじさんたちはビジネスの話をしている。観戦が生活の一部になるように文化を変えないと、スタジアムに来るお客さまは増えていかない。10年後はスタジアムをお客さまであふれさせたい。

開幕戦が降雨で中止になった後、球場内で観客の写真撮影に応じる香川 オリーブガイナーズの選手。約30分にわたり交流が続いた=3月30日、高松

―リーグ運営組織を一般社団法人化する構想がある。狙いは何か。

 現状は運営会社IBLJの中にリーグの理事会がある。運営の実務面は理事会で、財務や人事はIBLJの取締役会、株主総会の話になる。いわゆる商号がIBLJ、屋号が四国アイランドリーグplus。分かりにくい。これまでは試合のルール、選手契約、事業と、ある意味何でも屋としてやってきた。戦略を立てるのが難しかった。目の前の苦難を乗り切るのが精いっぱい。やっと経営基盤が安定し、人材もそろった段階で何をしなければいけないか。次のステージを見据えた上で整理したら、運営と事業の部分を分けられると考えた。運営は(設立を構想している)一般社団法人が担い、収益を生み出す部分は事業会社がやる形を考えている。

―四国でプロスポーツが文化として根付くのは難しいのでは。
 
 だからこそチャレンジのしがいがある。ある意味、創設者の石毛宏典さんはよくぞ四国を舞台にしてくれたと思う。私は徳島で泥だらけになって地元の企業関係者を回って酒を飲み、信頼関係を築いた。選手は競技レベルの向上に取り組み、情熱のあるスタッフが情報発信を増やした。スタジアム内の飲食も初期に比べて充実している。結果、顧客満足度はどんどん高まった。だけど観客動員には直結しない。スポーツ経営学の世界では顧客満足度の上昇とともに動員数が伸びるとされる。親がファンになれば子どもも来ると言うのが通説だったが、現実はそんなに甘くなかった。

―知名度の高い選手が生まれにくいのも課題では。

 育成を目的にするリーグの構造上、選手が2、3年で入れ替わるのは仕方ない。突き抜けた選手は僕らの手を離れてトップリーグに行く。これは育成を主旨とするリーグの宿命。ただ、10年後も育成を前面に打ち出すのが良いことなのかは分からない。すごく面白い選手、地域に愛される選手を育てる発想も必要かもしれない。リーグ運営が安定期に入ったら、50歳までプレーできる選手を育てるのもありだと思う。

―四国ILは地域の課題解決に一役買う存在になり得るか。

 課題は少子高齢化。生産年齢人口が流出過多になり、税収が減る。ローカルビジネスのコストが上がる。地域経済が圧迫される。私たちは、人がここで働きたいと思い、働きに見合うお金がもらえる環境を作っていきたい。四国ILには域外からプレーしたい若者を呼び込む誘引力があり、中国、韓国、台湾の選手を野球合宿に招くことで地域にお金も落ちている。スポーツは、高齢者福祉、教育、食など生活の幅広い分野に関わっている。その中で私たちは人とお金が回る仕組みを作っていける源泉になりうる。利幅は薄くても、自治体、地場企業と利益を分かち合っていける仕組みを広げていきたい。

 坂口 裕昭(さかぐち・ひろあき) 東大法学部卒。04年弁護士登録。企業法務に携わる。11年に四国IL徳島の球団代表に就任。16年に四国IL事務局長に就き、18年2月から理事長。46歳。神奈川県出身

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