復興のキーワードは「創造」~広島県が推し進める施策と事業(前編)

被災状況やインフラの復旧の進捗度合いにより、被災者の置かれる環境が多様化した今、行政サービスのきめ細かな支援がさらに重要度を増している。平成30年7月豪雨災害で約7000カ所の斜面崩落があるなど甚大な被害があった広島県では、平成31年度の施策と事業において「創造的復興による新たな広島県づくり」の実現に向け、1082億円を投じる予算を組んでいる。

「創造的復興による新たな広島県づくり」では、「安心を共に支え合う暮らしの創生」、「未来に挑戦する産業基盤の創生」、「将来に向けた強靭なインフラの創生」、「新たな防災対策を支える人の創生」の4つの柱を軸に施策を進めており、その一つ、「安心を共に支え合う暮らしの創生」について、地域福祉課の米田一裕課長に話を聞いた。

(米田課長)

 

**ー被災者を取り巻く現状について教えてください
**時間が経つにつれ、被災状況による意識の違いが出てきています。すっかり日常に戻って普段通りの生活を送る方には、災害は過去の話になりつつある一方で、今も「将来に対しての見通しが立たない」「住宅再建のめどが立たない」と不安を抱えられている方々もいらっしゃいます。被災者の皆さんが抱える課題は個別化・多様化し、時間の経過とともに見えにくく、把握しにくくなっています。

**ーそういった状況の中で、広島県ではどのような支援を行っているのでしょうか?
**被災者の皆さんの生活再建を中長期的に支援していくため、不安や悩みなどを含め直面されている問題に相談員が対応する「広島県地域支え合いセンター」、被災のショックや将来への不安などのストレスからくる心の健康面を支える「広島こころのケアチーム」を災害から2カ月後の昨年9月に開設しました。その後、10月までに、被害が大きかった13市町に、「市町地域支え合いセンター」が開設され、被災者への戸別訪問や相談支援が開始されました。

**ー広島県地域支え合いセンターについて教えてください
**市町の地域支え合いセンターを支援しています。相談員の対応力向上のため、月1回程度、ケースワークや座学などの研修を実施しています。市町の担当者や各センターの責任者にも集まってもらい、課題を洗い出したり、情報を共有したりして「それぞれが、何ができるのか」を考えてもらっています。

市町地域支えあいセンターの個別訪問(写真提供:広島県)

**ー市町の地域支え合いセンターの役割と現状を教えてください
**市町に設置された地域支え合いセンターでは、被災者の見守りや相談支援、コミュニティ再生に向けた交流サロンの運営等の役割を担っています。東日本大震災では、被災後、要介護者が増えたり、孤独死が増えたりといった悲しいニュースがありました。その反省を生かした事業を展開しています。

交流サロンを開設するときには地域住民の参画を促し、「行政が行うもの」ではなく「住民が主体的に運営するもの」と捉えてもらっています。市町地域支え合いセンターを通して、地域のつながりや絆が生まれ、新たなサロン開設につながったり、コミュニティの大切さに気付いたという声も聞こえたりしています。また、「自主防災組織や防災に強いまちづくり」への関心も高まっているように感じます。

**ー「広島こころのケアチーム」とはどんなものですか?
**精神科医師や保健師などの多職種による家庭訪問や心の相談会の開催など、心の健康面の問題について、市町の保健部門と連携して対応するための体制です。

市町の保健師が被災者に接する中で、「さらに専門的な支援が必要」と判断したら、同チームに連絡します。必要に応じ、精神科医師や臨床心理士が対応します。

また、教育委員会との連携も大きな特徴の一つです。学校には、普段からスクールカウンセラーを配置し、子どもの心のケアを行っていますが、これまで災害時への対応として、各市町の教育委員会と保健・福祉部門は、連携できていませんでした。そこで同チームは発足当初からその点に配慮し、学校との連携に取り組んでいます。

こころのケアチームのミニ健康講座(写真提供:広島県)

**ー他にも支援策がありますか?
**法律や相続、住宅の改修など専門的な問題については、弁護士会や司法書士会、建築士会など幅広い分野の専門家で構成される「災害復興支援士業連絡会」と県、県社会福祉協議会の3者で締結した協定による相談支援体制を構築しています。

市町地域支え合いセンターの相談員が把握した専門的な相談内容について、弁護士や司法書士などの専門家が市町に出向いて相談会を実施したり、戸別訪問による相談対応も行ったりしています。一人一人が抱えた問題に対して、例えば「この問題は、技術士会と建築士会の2人で行きましょう」というふうに、必要な支援をしています。

**ー今後の課題について教えてください
**まずは被災者の中長期的支援が挙げられます。被災者支援のしくみをすべての住民を対象とした市町の通常の取り組みにし、地域共生社会の実現につなげていきたいと考えています。それこそが「創造的復興」ではないでしょうか。

他県の被災地では災害公営住宅ができると、そちらに人が流れ、従来あったコミュニティが壊れるという現象がおきています。被災者が抱える様々な悩みや困りごとの解決に向け、ボランティアや住民自治協議会等と連携し、コミュニティを作っていくことが大切になっていきます。既存の地域包括システムなどのしくみを活用しながら地域支え合いセンターの取組やノウハウを生かし、全ての市町に広げていくことで、地域共生社会を作るためのしくみ作りをしていかなければならないと思います。

**ー最後に、被災者の皆さんにメッセージを
**被災者の方々は、住まいの問題だけでなく、体の不調など健康問題、お子さんや家族のこと、仕事のこと、さまざまな悩みを抱えられておられます。一人で悩まないで、地域支え合いセンターにぜひとも相談していただきたいと思います。自分だけで頑張らないでください。みんなで支えあい、一緒に頑張っていきましょう。

後編はこちら

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)
写真 堀行丈治(ぶるぼん企画室)

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