「僕一人我慢すれば」 障害者の制約

社会のバリアフリー化は進展しているが、車椅子での移動はまだ不自由なことも多い=長崎市内

 県内の40代会社員、唐沢壮一さん(仮名)は病気が原因で足が不自由だ。30代前半で発症し、今は車椅子生活を送っている。発症するまで病気の兆候はまったくなかった。「身近に障害者がいなかったこともあって、昔は『(障害者は)大変だなあ』と思ったことさえなかった」と振り返る。
 病気が見つかった当時、歩くことはできていたが、歩行障害が進んでいくと診断された。営業成績を最前線で競っていた会社生活は、負担の軽い部署に異動して一変。生きがいを失ったような気がした。やがて、つえを使うように。街なかで知り合いに出くわすと、恥ずかしさから反射的につえを体の後ろに隠した。
 車椅子になると、移動の苦労は一層増した。路線バスや電車は、車椅子対応の車両の運行時間が一定でなく、通勤など決まった時間の移動には使いにくい。県内の郷里に帰省する際は、退社後の夕方に出発するとJRが利用できない。郷里の最寄り駅は段差は解消されているが、介助の駅員がいないと乗降できないからだ。

 2000年施行の交通バリアフリー法(現在のバリアフリー法)は、1日当たり平均利用者5千人以上(11年度以降は3千人以上)の全ての旅客施設を対象に、段差の解消などのバリアフリー化を目指している。国土交通省の公表では02年度、全国の5千人以上施設の4割弱にすぎなかった段差解消の達成率は、17年度、3千人以上施設の9割弱まで向上している。
 県内では同年度、利用者3千人以上の20駅のうち9割の18駅が解消済み。ただ、JR、私鉄、路面電車の全駅(136駅)でみると、解消済みは82駅にとどまる。段差がなくても、駅によって乗降に予約が必要だったり、時間帯が限られたりといった制約もある。
 20年東京五輪・パラリンピックを控え、国は本年度、事業者や市町村にバリアフリー化の進展を促す同法の改正を行った。

 時がたち、以前よりは障害を受け入れられるようになったという唐沢さん。障害を理由にした不当な差別的取り扱いを禁じた「障害者差別解消法」の施行(16年)は、心強く感じた。昨年、障害者雇用の水増し問題が注目されたことも良いことだと思った。「つえを突き始めた頃は、街を歩いていて冷たい視線を感じることがあった。以前より、世間が障害者を見る目は柔らかくなった気がする」
 それでも時折、障害のために不便を強いられたり、制約を受けたりして、がっかりすることがある。そんな時、多くの場合は諦めて受け流すのだと言う。「やっぱり社会の中ではマイノリティー。僕一人が我慢すれば済む」と。

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