コラム凡語:渋沢栄一

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 1万円札の肖像画といえば、今は福沢諭吉で、その前は聖徳太子である。福沢は慶応大を開学した思想家、太子は政治家なので、お金との直接のつながりが感じられず、かえって親しまれたところがある▼政府が2024年度上期から発行する1万円札の肖像画に選んだのは、「日本資本主義の父」とされる実業家渋沢栄一だった。それが紙幣の顔となるのは、あまりに短絡的との指摘もありそうだ▼確かに、大蔵官僚を経て国内初の商業銀行「第一国立銀行」(現みずほ銀行)の頭取となり、王子製紙など500を超える企業に関わったのだから、そういわれるのも仕方がない▼一方で渋沢が、ほかの明治の実業家と異なり、財閥をつくらなかったとされる点を、見逃してはならない。日本赤十字社の設立など社会活動にも熱心に取り組んだ。同志社大への寄付金を取りまとめ、教育にも力を注いだとされている▼1916年に著した「論語と算盤(そろばん)」では、富をなす根源は仁義道徳で、正しい道理の富でなければ永続できないと説く。利益は独占せず、社会に還元すべきだという▼持続可能性を重視する現代でも、通じる考え方ではないか。福沢は、1万円札の顔を40年続けることになる。後を継ぐ渋沢には、円の価値を保ち続ける新たな顔となってもらいたい。 (京都新聞 2019年04月10日掲載)