【Brain Police Road to 50th Anniversary PANTA(頭脳警察)暴走対談LOFT編】第7回 町山智浩(映画評論家)×切通理作(評論家)【前編】 - PANTA、「元祖オタク」に認定! 衝撃のアフター6の壮絶なアフタートーク!

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今拓海がつないでくれた縁

──TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「ビヨンド・ザ・カルチャー」で町山さんが頭脳警察の魅力を思い入れたっぷりに語ったこと(2018年12月3日放送、「町山智浩 presents もうすぐ結成50周年!『頭脳警察』歌謡祭2018」)が今回の対談につながったそうですね。
PANTA:うん。自分もリアルタイムで番組を聴かせてもらったけど、すごかったね。民放のラジオで夜の8時に「世界革命戦争宣言」がかかっちゃうんだから(笑)。
町山:「戦争しか知らない子供たち」も「銃をとれ」もかけました(笑)。
切通:「世界革命戦争宣言」はラジオで流れることはおろか、聴くこと自体が大変だったじゃないですか。
PANTA:ホントだよ。TBSラジオの局長のクビが飛ぶんじゃないかとヒヤヒヤしたね(笑)。
切通:曲をかけて何の問題もなかったんですか?
町山:うん。何の問題もなかったのが逆に怖いね(笑)。
PANTA:町山君とは今日が初対面で、いつかじっくり話をしてみたいと思っていたんだよ。
町山:実は僕、PANTAさんとは何回かお会いしてるんです。
PANTA:エッ、ホントに!? それは失礼しました(笑)。
切通:町山さんが『宝島』の編集者時代、PANTAさんにインタビューをされてるんですよね。
町山:そう、『反逆の軌跡』の頃に。インタビュー記事は無署名だったんですけどね。当時の僕はまだ大学を出たてで、インタビューするにも『ミュージック・ステディ』の初代編集長だった市川清師さんや『宝島』の編集長だった関川誠さんといった偉い方に横に付いてもらっていたんです。だからPANTAさんは僕のことをバイトの小僧だと思っていたんじゃないでしょうか(笑)。
──切通さんとPANTAさんにはどんな接点があったんですか。
切通:最初にお会いしたのは、今拓海さんというライターを介してですね。今さんがPANTAさんのファンクラブの会報に『R☆E☆D(闇からのプロパガンダ)』の詞に出てくる単語についての解説を書いていたり、自費出版で『クリスタルナハト』の用語集を作っていたんですよ。僕は高校時代からPANTAさんが好きで、でも『クリスタルナハト』にしても一度聴いただけじゃわからない言葉がたくさん出てくるんですね。それがどういう文脈のどういう言葉なのかを今さんが解説していたんです。町山さんがアメリカへ発つ送別会で今さんと初めてお会いして名刺交換したら、『クリスタルナハト』の用語集を書いていた人だ! と意気投合しまして。その後、たまたま今さんの紹介でPANTAさんとお会いできたんですが、その時にPANTAさんが『エヴァンゲリオン』の話をバンバンしまくっていたんです。それで当時進めていた『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』という『エヴァンゲリオン』の評論本にPANTAさんの章を作らなきゃと思って、今さんにライターになってもらって、PANTAさんに共著者になっていただいたんです。そう言えば、町山さんもラジオで「『エヴァってPANTAっぽいよね』とPANTAさんのファンがよく言う」と話してましたよね。
町山:うん。ナチのオカルティズムとかグルジェフの超人思想とか、そういう世界に近いって言うか。
切通:エヴァがブームになった頃、『エヴァンゲリオン用語集』とか無版権でいろんな著者が出していたじゃないですか。あの一連の本は今さんが書いていた『クリスタルナハト』用語集にそっくりなんですよ。
町山:今さんはものすごいオタクで、とにかく調べることが大好きなんです。ストーンズでも一冊本を出しましたけど(『ザ・ローリング・ストーンズ〜「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の聴き方が変わる本』)、それは完全に陰謀論なんですよ。ストーンズの歌詞を深読みしすぎて、全然違う話になっちゃってる(笑)。
切通:今さんは、PANTAさんの「ネフードの風」を聴いてパレスチナの取材に行くことを決意したんですよね。
PANTA:アラビアのロレンスの研究のために、ずっとロンドンに住んでいてね。
町山:実は僕がアメリカへ行くのを決めたのも、今さんに留学を勧められたからなんです。全然英語ができなかった今さんがいきなりイギリスへ行って、いつしか英語で取材ができるようになったと聞いて、「まっちゃんも向こうへ移住したほうがいいよ」って言われて行くことにしたんですよ。
PANTA:今拓海がイスラエルへ行った時、彼が銃を持った現地の兵士とケンカしちゃってさ。それを止めたのがカメラマンのシギー吉田なんだけど。
切通:「ネフードの風」を発表した頃のPANTAさんはたしか日本を出たことがなかったんですよね?
PANTA:なかったね。会いたかったらそっちから来いという毛沢東思想で生きていたから(笑)。
切通:面白いですよね。PANTAさんがネフド砂漠のことを想像で書いた曲を今さんが聴いてパレスチナへ取材に出かけて、その後にPANTAさんがイラクへ行ったわけですから。
PANTA:アンマンからバグダッドまで1,000キロの道程をGMCで移動した時、「ああ、これがネフド砂漠か…」と感慨に耽ったんだけど、全然ネフド砂漠じゃなくてさ(笑)。だけど月がすごく大きいのが印象的だった。砂漠じゃなくて土漠だったけどね。
町山:今さんは3年前(2016年)に肝硬変で亡くなったんですけど、僕らがこうして集まれているのは今さんがつないでくれた縁ですよね。
PANTA:彼のことを話さないと話が進まないよね。
切通:今さんの追悼会でもPANTAさんが「ネフードの風」を唄われましたね。あれはとても感動的でした。
町山:今日はPANTAさんに訊きたいことがいっぱいあるんです。PANTAさんは今までドイツのことをたくさん唄ってらっしゃいますけど、ドイツに行ったことはないんですよね?
PANTA:いきなりそこに行きます?(笑) 行ったことはないね。
町山:ドイツ語でも唄ってましたよね?
PANTA:いい加減なドイツ語でね(笑)。
町山:なんでそんなにドイツが好きだったんですか?
PANTA:好きだったと言うか、『クリスタルナハト』の世界を描くためにはどうしてもそっち方面に行かなきゃならないし、ヨーゼフ・ゲッベルスのことも出てくるし…。
町山:頭脳警察の頃からそうじゃないですか? 「赤軍兵士の詩」はブレヒト、「さようなら世界夫人よ」はヘッセの詩に曲を付けて。
PANTA:ああ、言われてみればそうだね。俺はずっとフランス・ギャルが好きだったから、ドイツとはあまり縁がないと思っていたんだけど。
町山:「赤軍兵士の詩」はブレヒトがバイエルン革命のことを書いた詩ですよね。『ザ・ヤクザ』や『タクシードライバー』のシナリオを書いたことで知られるポール・シュレイダー監督の新作が『魂のゆくえ』という作品で、イーサン・ホークが信仰心の揺らぐ牧師を演じているんです。公開前なので詳しくは言えないんですが、その映画のテーマが完全に「最終指令“自爆せよ”」なんですよ(笑)。イーサン・ホーク演じる牧師の名前がエルンスト・トラーと言って、バイエルン革命の指導者と同じ名前なんですね。このあいだポール・シュレイダーに電話インタビューをした時にそのことを尋ねたら、「もちろんバイエルン革命のエルンスト・トラーから取っている」と。「僕はバイエルン革命にロマンを抱いているからだ」と言うんです。それを聞いて「『赤軍兵士の詩』だ! 頭脳警察だ!」と僕のなかでつながったんですよ。
PANTA:なるほどね。俺は逆に、町山君の番組を聴いていつも勉強させてもらってるんだけど(笑)。
町山:ブレヒトのことは「赤軍兵士の詩」で知って、後で『戦争のはらわた』を観たら最後にブレヒトの言葉が出てきて、「あ! 『赤軍兵士の詩』のブレヒトだ!」と気づいたんですよ。『アルトゥロ・ウイの興隆』という、ヒトラーがドイツを制圧していく様をシカゴのギャングの世界に置き換えたブレヒトの戯曲があるんです。そこから引用した「諸君、あの男の敗北を喜ぶな。世界は立ち上がり奴を阻止した。だが奴を生んだメス犬がまた発情している」という言葉が『戦争のはらわた』の最後に出てくるんです。「あの男」とはヒトラーのことなんですね。ブレヒトのことなんて全然知らなかったのに、PANTAさんの曲を聴いていたおかげで後になってわかることがいっぱいあるんですよ。
切通:PANTAさんの書いた歌詞が後で映画とかに出てくることがよくありますよね。
町山:ヘルマン・ヘッセだって『車輪の下』くらいは読んでいたけど、勉強ができる子っていうのも大変だなと思っただけで(笑)。だけど「さようなら世界夫人よ」は頭脳警察を聴いて読んでみようと思ったんです。そしたら、世に出回っている訳はPANTAさんの訳とけっこう違うんですよね。
PANTA:いろんな人の訳があるからね。「ごきげんよう、浮き世夫人よ」というタイトルの訳もあるしさ。先に「浮き世夫人」を読んでいたら曲を書く気にはならなかっただろうな(笑)。
町山:「浮き世夫人」って、歌麿みたいなイメージですもんね(笑)。バットマンとスーパーマンがワンダーウーマンと戦う『ジャスティス・リーグ』という映画があって、宇宙から来た敵の名前がステッペンウルフって言うんですよ。「ステッペン」は「草原」とか「荒野」という意味で、そもそも宇宙に草原や荒野があるのか!? って話なんです(笑)。でもその名前はヘルマン・ヘッセの長編小説『荒野のおおかみ』(Der Steppenwolf)から取っているんですよね。
PANTA:「Born to Be Wild」で有名なステッペンウルフはそこから取ってるしね。
町山:そうですね。だからヘッセひとつを取ってもいろいろとつながるんです、PANTAさんの曲を聴いていると。
PANTA:このあいだ亡くなってしまった橋本治にある時、「『マーラーズ・パーラー』の『マーラー』って何?」と訊かれたことがあってね。俺が「グスタフ・マーラーのことだよ」と言ったら「いや、違う!」って言うわけ。作者本人に訊いていながら「違う!」だなんて、すごい男だなと思ってさ(笑)。
──『秘本世界生玉子』によると、橋本さんの「マーラーズ・パーラー」の解釈は「それまで眺めていた全世界がチキガイ病院だったということがわかった曲」らしいですね(笑)。
PANTA:そういういろんな解釈があっていいんだよ、歌なんだから。
町山:「マーラーズ・パーラー」にはアインシュタイン、マルコムX、李太白といったものすごい数の固有名詞が出てきますよね。僕はああいうのをひとつひとつ調べましたよ。
後半に続く
*本稿は2019年2月17日(日)にLOFT9 Shibuyaで開催された『ZK Monthly Talk Session「暴走対談LOFT編」VOL.5 〜衝撃の一夜のアフター6…奇跡の3人が語り尽くす!〜』を採録したものです。