楽天銀次が「急造捕手」で盗塁刺を記録 チームに必要な“隠れ捕手”の存在

楽天・銀次【写真:荒川祐史】

銀次は捕手で入団もプロ14年目で1軍初マスク、オリ西浦の二盗を刺す

 4月7日のオリックス戦で、楽天の銀次がプロ入り14年目で初めて1軍のマスクを被り、ホームベースを守った。

 この試合、スタメン捕手は8番・嶋基宏だったが、7回表にオコエ瑠偉を代打に送られ、次の回から足立祐一がマスクを被った。そして、楽天は9回表に藤田一也を足立の代打に送った。この時点で、ベンチに捕手がいなかったため、銀次が9回裏からマスクを被ることとなったのだ。

 今シーズン、ここまで楽天は6度走られて1度も盗塁を刺していなかったが、この回、「急造捕手」の銀次は2死から右前打で出た西浦颯大を二塁で刺した。今季球団初の盗塁刺は、プロ入り初の1軍マスクを被った銀次が記録したのだ。

 銀次は盛岡中央高校時代には強打の捕手として知られ、2005年ドラフト3位で楽天に入団。ファームでは2006年に2試合、2007年に17試合、2008年に31試合、2009年に36試合、捕手として出場したが、2010年から内野手に転向。この年初めて1軍に昇格したものの、1軍では主として一塁、二塁、三塁を守り、以後、一度もマスクを被ることはなかった。

 今季の楽天はベテラン捕手の細川亨が退団、伊志嶺忠が引退したこともあり、元捕手で昨年まで外野手登録だった岡島豪郎を再び捕手登録に戻していたが、現時点では1軍に昇格していない。

 捕手は専門性が高いポジションのため、他のポジションの野手が簡単に守ることができない。多少なりとも経験がある選手が代役を務めることが多い。

 今年のMLB開幕シリーズの東京ドームでのエキシビションゲーム(巨人-マリナーズ、日本ハム-アスレチックス)では、試合前に特別ルールとして「試合の途中で負傷などで捕手がいなくなった場合は、特例として試合を退いた捕手が守ることがある」というアナウンスがあったが、公式戦ではそれはできない。だから「急造捕手」が生まれる余地があるのだ。

過去の「急造捕手」は…、中日福田や阪神中谷らも“隠れ捕手”?

「急造捕手」と言えば、記憶に新しいのが巨人の故・木村拓也氏だ。2009年9月4日のヤクルト戦で、途中交代や負傷でベンチ入り捕手を使い果たした巨人は、木村を捕手で起用した。木村はアマチュア時代は捕手で、広島時代の1999年にも4試合でマスクを被っている。全くの素人ではなかったが、10年ぶりのマスクだった。

 銀次も木村も、捕手の経験があった。全く未経験のままに、1軍の試合でマスクを被る羽目になったのが阪神の池辺巌だ。1977年4月30日の大洋戦で先発捕手の田淵幸一が退き、守備固めで2番手捕手として片岡新之助がマスクを被っていたが、ファウルチップで指を負傷。3番手捕手の大島忠一もすでに代打で使っていたため、池辺巌がマスクを被った。

 池辺は長崎海星高校時代はエース、プロ入り後は好守の外野手として活躍。ダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)を2回獲得している。器用な選手で三塁や遊撃も守ったことがあったが、捕手はアマチュア時代から一度も経験はなかった。

 投手は古沢憲司。球種は速球とカーブだけ、サインはグーとパーだけ。試合は阪神が5-4でわずか1点のリード。それでも何とか守り抜いて、古沢にセーブが付いた。池辺は、打者が空振りをすると顔を伏せ、ミットだけを突き出して捕球した。このシーンは当時の「プロ野球ニュース」で何度も放映された。

 プロ野球では捕手は絶対に1人ではまかなえない。ベンチ入り捕手は2~3人必要だが、指揮官は捕手を使い果たした「まさかの場合」に備えて、捕手経験のある選手の名前を頭の隅に置いておくという。おそらく銀次の名も平石監督の脳裏にはあったのだろう。

 1軍の試合で捕手を務めた経験はないが、アマチュア時代や2軍時代に捕手の経験のある現役の「隠れ捕手」には、中日の福田永将、阪神の中谷将大、広島の曽根海成、ヤクルトの村上宗隆、オリックスの頓宮裕真らがいる。いずれも強打を活かすためにコンバートされたが、彼らも「万が一」の時には「急造捕手」になる可能性があるといえるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

© 株式会社Creative2