ザギトワ選手に早くも引退勧告 フィギュアは「ひどいスポーツ」か

By 太田清

3月29日、アイスショー「スターズ・オン・アイス」の大阪公演で演技するアリーナ・ザギトワ選手=東和薬品ラクタブドーム

 2018年の平昌五輪優勝に続き、今シーズンも世界選手権に勝利、既に獲得したグランプリファイナル、欧州選手権、ロシア選手権のタイトルと合わせ主要競技の金メダルをすべて手にしたロシアのアリーナ・ザギトワ選手(16)だが、ロシアでは早くもその将来に関する発言が出ている。06年トリノ冬季五輪アイスダンス金メダリストで、世界選手権でも2度のチャンピオンとなったロシアの名スケーター、ロマン・コストマロフさんがザギトワ選手の引退を勧める発言をした。 

 さいたま市での世界選手権優勝に触れ「女子フィギュアの五輪チャンピオンがその後も大きな大会で勝ち続けることは珍しいことだけれど、アリーナは世界選手権でそれができることを証明した。彼女の演技は優勝に値したし、現在、世界で最も良い選手だ」と称賛しながらも、「成長しつつある次の世代と戦う必要はないと思う。彼女はすべてのタイトルを勝ち取った。チャンピオンのまま引退するのがいい。今後、彼女が(フィギュアを)やっていくのは千倍難しくなる」と11日までに、ニュースサイト「レアルノエ・ブレミャ」とのインタビューで語った。 

 コストマロフさんは「盾に乗せられて運ばれる(敗北して)より盾を持って(勝利して)」去った方がいいという古代ギリシャの格言も引用。「今のジュニアは本当に素晴らしい結果を残して、年齢のため五輪や世界選手権に出ることはできなかったけれど本当に複雑な演技をこなしていて、17~18歳で対抗していくのは簡単なことじゃない」と、ザギトワ選手が今後、ジュニア勢に対抗していくのは難しいとの見方を示した。 

 さすがに16歳のアスリートに対する引退勧告は反発を呼び、ネット上では「ザギトワはまだ16歳だ」「彼女の人生は自分で決めさせるべき」「お前と何の関係がある」などの批判的コメントが相次いだ。 

 一方で、昨年12月のロシア選手権では14歳(いずれも当時)のアンナ・シェルバコワ選手が初優勝。同じ14歳のアレクサンドラ・トルソワ選手が2位に入り、15歳のアリョーナ・コストルナヤ選手が3位となるなどジュニア勢が表彰台を独占。ザギトワ選手は5位に甘んじ、ロシア・ジュニア勢の台頭を印象づけた。 

 同選手権は1月にミンスクで行われる欧州選手権代表選考も兼ねていたが、シーズン開始時の7月1日に15歳となっていないジュニアは参加できず、最強の3人が一人も欧州選手権に出場できない事態に。高難度の4回転ルッツを決めて優勝したシェルバコワ、トルソワ両選手が選ばれず、こうしたジャンプができないザギトワ選手らが代表に選出されたことを疑問視する声も一部で上がっていたが、次のシーズン以降はジュニアらが次々とシニア入りし、ザギトワ選手らに挑戦することになる。 

 これに先立ち、サッカーの元ロシア代表でクラブチーム、ゼニト・サンクトペテルブルクなどでプレー、40歳で引退したコンスタンティン・ジリャノフさんが「フィギュアスケートはひどいスポーツだ。地獄だ。18歳でキュリアは終わり、もう誰にも必要とされない」と発言。これに対し浅田真央選手らを育成したロシアの名コーチ、タチアナ・タラソワさんが「何様なの。(選手のキャリアに)どんな影響を持っているというの。とっとと失せろ」と批判する騒ぎとなった。 

 しかし、当のタラソワさん自身が昨年、ジュニア選手のトレーニング環境に触れ「ロシアの選手は14歳で4回転に成功しているけど、これはつらいことだと思う。体重を維持するだけじゃなくて減らさなくてはならない。そうじゃないとジャンプを跳べない。練習の負荷は大きい一方で、水さえ満足に飲めないこともある」と発言、フィギュアが過酷なスポーツであることを認めている。こうした事情もあってか、ロシアではソチ五輪金メダリスト、アデリナ・ソトニコワさんや団体金メダリスト、ユリア・リプニツカヤさんら多くの女子選手が20歳前後で競技生活から引退・活動休止している。 (共同通信=太田清)

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