『家をせおって歩く かんぜん版』村上慧著 アートか冒険か酔狂か

 発泡スチロール製の家を背負って全国を泊まり歩いた美術家のドキュメント。絵と写真、ルビ付きの文章で紹介されている48ページの本は「小学中級から」の絵本と銘打たれている。え?どういうこと? 説明しよう。

 軽くて加工しやすく断熱効果もある発泡スチロールで、縦120☓横80☓高さ150センチの家を作った。ドア、屋根、窓、郵便受け、神棚もある。材料費は約2万円。家の内壁に寝袋と床用マットを吊るし、ヤドカリのようにかついで移動する。重さ約25キロ。

 家を置く場所を貸してもらうため、行く先々のお寺や神社、お店と交渉する。庭、軒先、倉庫、駐車場。未知の街、見知らぬ人との出会いがあり、時に食事の差し入れや、風呂や部屋の提供を受ける。アリの行列や毛虫、コスモス、タンポポとも出合う。天敵は自動車だ。視界が狭いので危ない。そばを通ると風であおられる。

 新潟の特別養護老人ホームでは「かわいそうな人」と同情され、大阪では同じようにしてやや小さめの家を作った小学2年の男の子の訪問を受けた。

 こうした記録を月刊誌に掲載し、スウェーデンや韓国まで足を伸ばした活動を収録して「かんぜん版」にした。

 ところで、なぜこんなことをしているのか。アートか冒険か酔狂か。

 住む場所、住み方を変えれば、同じ街もまったく違うものに見える。「私たちはそうやって世界を変えていくことができます」と実にそっけない言葉で本書は結ばれている。でも紹介するだけでとても楽しかった。

(福音館書店 1400円+税)=片岡義博

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