【米朝会談取材の舞台裏】⑧ワシントンへ帰る ベトナム首都ハノイ・トランプ米大統領記者会見場

記者会見で渋面を見せるトランプ米大統領=2月28日、ベトナム・ハノイ

 2月28日の米朝首脳会談後、トランプ米大統領の記者会見に出席する記者は、当日未明までに登録を済ませ、午前11時(現地時間)にハノイ市内の国際プレスセンターに集まるよう米大使館から求められた。そこからバスに乗り、会見場があるホテルへ移動するという。

 2018年6月にシンガポール行われた前回の米朝首脳会談後の会見で、トランプ氏は上機嫌に長広舌を振るい、1時間以上質問に答えた。さながらテレビショーの主役のように振る舞っていた。その時も非核化に関する具体的措置はなかったが、史上初の会談で熱気に包まれていた。

 さて今回は。会談前、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との「ディール(取引)」に意欲的だったトランプ氏が何を発表するのか―。注目は否応なく高まっていた。しかし昼過ぎに速報が次々流れた。「米朝首脳の昼食会は中止」「両首脳が会談場を離れる」「米朝合意なし」。会談が物別れに終わったことを知らせるものだった。

 記者会見は予定より2時間も前倒しされた。ボディチェックや持ち物検査を終え、急いで会見場へ入った。用意されていた約200席はすぐに埋まり、自分の席だと主張し合う記者同士が言い争う場面も。スタッフは慌てて星条旗やマイクを設置する混乱ぶりだった。

 「とても有益な時間だった」。わざわざインド・パキスタン情勢とベネズエラ情勢に触れてから、米朝首脳会談を振り返ったトランプ氏。言葉とは裏腹に笑顔はない。大統領選を控え、世界に外交成果を示す機会を逸した。そんな悔しさがにじんでいるように見えた。

 「次回はいつ」「離席時の雰囲気は」。決裂の背景を探ろうと、記者たちの追及はやまなかった。しかし開始から約40分がたつと「ワシントンへ帰る」と言って打ち切った。トランプ氏から指され、質問できたのは約20人。手を挙げていた記者はまだ数十人はいた。立ち去る大統領の背中に飛んだ矢継ぎ早の質問への答えは返ってこなかった。(ハノイ共同=日出間翔平)=続く

ベトナム・ハノイのホテルで開かれたトランプ米大統領の記者会見=2月28日

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