【米朝会談取材の舞台裏】⑨普段の姿

中越国境・ベトナム側

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記者の持ち物を調べる警察官=3月2日、ベトナム北部ランソン省のドンダン駅

 ベトナム北部ランソン省のドンダン駅は3月2日朝から多くの人で賑わっていた。手には北朝鮮とベトナムの国旗。地元の中学生や、伝統の民俗衣装「アオザイ」に身を包んだ女性も。帰国する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を見送るため、動員された市民たちだ。

 昼前には、数え切れないほどになり、沿道にずらり。ただ、金氏はまだ首都ハノイでホー・チ・ミン廟を訪問するなどの公式外交日程の真っ最中。ハノイからドンダンまでの道のりは約170キロで、どんなに早くてもあと数時間はかかるのに…。

 ちなみに、ハノイとドンダンを結ぶ道は片側1車線が長く続き、普段は交通量も多い。前の車を追い越すため反対車線にはみ出すのは当たり前。道中、正面衝突しないか冷や汗ものだ。

 当然ながら、金氏が乗った車列が通る時間帯は全面封鎖された。だからクラクションを鳴らしてわれ先にと疾走する商用トラックの勢いや、人やバイクでにぎわう道沿いの活気は感じられなかったかもしれない。

 今回の訪問には、同じ社会主義国でありながら、ベトナム戦争後にとられた開放政策による経済発展ぶりを視察する目的もあると言われていた。通常は4時間近くかかる道を半分ほどの時間で駆け抜け、車窓から見たこの国はどう映ったのだろう。

 通り沿いに住む女性に話を聞いた。「首脳会談のことはよく分からない。でも、おかげで町が掃除されてきれいになった。うれしい」。会談で期待された成果はなく、「歴史的な合意の地」にはなり損ねたが、地元の正直な受け止めは案外こんなところかもしれない。

 金氏を乗せた特別列車が中国に向けて出発すると、ここ数日来の熱気は急速にしぼんだ。見送りで集まった大勢の市民はいなくなり、どこからともなく現れた野良犬がとことこ歩いていた。(ドンダン共同=日出間翔平)=続く

ベトナム北部ランソン省のドンダン駅近くを歩き回る野良犬=2月25日