【米朝会談取材の舞台裏】⑩失意の復路 中朝国境・中国側

濃霧で視界が極端に悪くなった遼寧省丹東市内=3月4日

 事実上決裂に終わった米朝首脳再会談やベトナム公式訪問の日程を終え、金正恩朝鮮労働党委員長を乗せた特別列車が帰国のため、3月2日にベトナムを出発、中国を北上し続けた。世界中が再会談の成否に注目し、金氏の動向に耳目が集まった往路とは一転。金氏は車窓に広がる中国の景色を眺めつつ、金氏は失意に暮れていたのだろうか。

 金氏は中国の習近平国家主席と会談するとの観測もあったが、北京には寄ることなく、特別列車は一直線に北朝鮮へ向かった。中朝国境の街、丹東市を通過するのは4日夜とみられていた。

 4日、丹東市は深い霧に包まれていた。国境を流れる鴨緑江沿いは特にひどく、時間が立つにつれて視界は悪化した。

 一方、地元当局による警備も往路に比べ厳重になっていた。日本のテレビ局が往路の広西チワン族自治区南寧市の駅のプラットフォームでたばこをふかす金氏の姿を撮影したことが影響したのだろう。記者は丹東の空港から公安関係者に尾行され、国境に架かる「中朝友誼橋」周辺では5、6人に密着マークされた。

 午後8時すぎ、市内で交通規制が開始。橋から数百メートルの地点で規制線が張られ、閉鎖された。すさまじい濃霧の影響で数メートル先の視界も悪く、橋は全く見えなくなった。

 午後9時半ごろ、突如として交通規制が解除され、大量動員された警察関係者も解散し始めた。金氏の特別列車は静かに北朝鮮へ戻った。北朝鮮の朝鮮中央通信によると、特別列車は翌5日午前3時(日本時間同)、平壌に到着した。(丹東共同=木梨孝亮)=完

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