菊池真理子『生きやすい』- 生きにくくて凝り固まってしまった気持ちに「そういうのあるよね」とただそこにいてくれる"自分と似ているひと"。それって、つらいときにいちばん欲しかったもの

すごく嫌なことを言われたのにその場では言葉が出てこなくて、家に帰ってきてからやっとわきおこってきた怒りの行き場のなさ。自分の話しをするのが苦手だから、みんなが楽しそうにしている飲み会から早く帰りたくなってしまうこと。自分がいることで気を使わせているんじゃないかという気がして、友人にすら土下座をしたくなる気持ち。コンビニでごはんを買うことすら許せなくなる日。ただ生きているだけなのに、俯瞰している自分から怒涛のつっこみをなげつけられて消耗してしまう気持ち。

「自分なんて生きている価値もないのにご飯を食べようとしてごめんなさい」と感じたり、つい自分のことを雑に扱ってしまう日には、この本を読み返そうと思っています。

人と会うと疲れる。本音を言えない。怒りを伝えられない。眠れない…そんな作者が描くノンフィクションエッセイ『生きやすい』。作者の菊池氏がさらけ出す生きづらい滑稽な日々を読んで、「これ自分じゃん!」とつっこむ瞬間に、それまでの死んでしまいたいような重たい気持ちにたいして「あーあ、そんなこと考えちゃってさ。そりゃあ生きづらいよね、頑張って生きちゃっていじらしいじゃないか」と思えたりするのです。

もちろん、それで全て解決するわけではありません。

相変わらず、人が好きだけど人と一緒にいることは難しいし、自分のことは話したくない、関わるすべての人に「自分なんかに時間を使わせて申し訳ない」と思ってしまう、怒りはあとからやってくるし、突然スイッチがはいったように自分だけの世界になります。ですが、そのたびに『生きやすい』主人公の生きづらそうな焦った顔、涙をこらえる表情、言い訳をするときの目線、ひとりになってリラックスしている様子を思い出すと、大丈夫じゃないけれど大丈夫になります。ひとりでいる時間をとるために「その日は予定が入っている」とウソをつくシーンはあるあるすぎて笑ってしまいました。

『生きやすい』は決して生きやすくするための教本ではなくて、わたしたちの生きにくくて凝り固まってしまった気持ちに「そういうのあるよね」とただそこにいてくれる"自分と似ているひと"。それって、つらいときにいちばん欲しかったものです。共感するたび、嫌いでたまらない自分自身にほんのすこしだけ「頑張って生きているじゃないか」と優しい気持ちをむけさせてくれる菊池さんとともに、生きづらい自分をこれからもやっていくしかないんだな、と伸びをしたいような気持ちです。(成宮アイコ)

★アルコール依存症の父親との顛末を描いた『酔うと化け物になる父がつらい』が映画化。今冬公開予定

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