日本の学校英語はフィリピンの10分の1。日本人が英語を話せない理由

「世界中の学校で先生になる旅」をテーマに1年間かけて世界を一周し、20ヶ国40の学校を訪れ、教育現場に飛び込みで参加してきま私が、今回はフィリピンで見てきた「英語教育」の凄さについて紹介します。

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日本の10倍! 日本とフィリピンの英語教育の違い

日本の英語教育改革がはじまって久しいですが、いまだ芳しい結果は出てきていません。一方、同じアジアの国であるフィリピンでは、高い英語力を誇っています。その違いはどこにあるのでしょうか。結論から言うと、次の2つが日本とフィリピンの違いではないかと思っています。

アメリカ国務省の付属機関「Foreign Service Institute」のデータによると、日本人が英語を習得するのに必要な時間は3000時間と言われています。

後で詳しく説明しますが、フィリピンでは小学校の6年間だけでも2000時間以上英語に触れます。一方で日本の中学・高校で英語を学ぶ時間は、約1000時間です。日本では、2020年度から小学校で英語が教科化しますが、その時間は小学校6年間で約200時間。仮に3000時間の学習時間が必要という理論が正しければ、まだ日本人の英語学習時間は足りません。

一方、2については、イマージョン教育と呼ばれ、日本でも一部の小学校では始まっているものの、まだ普及には至っていません。フィリピンで英語に触れる時間が圧倒的に長いのは、他教科も英語で授業をするからです。とは言え、これについては問題が無いわけではありません。

では、これらについて詳しい数値をもとに見てきましょう。

フィリピンの英語力は極めて高い

アジアで一番英語力の高い国はどこだと思いますか?「EF英語能力指数2018」によると、1位は国際都市シンガポール。そしてインドや香港を抑えて2位に輝いたのが、フィリピンなのです。ヨーロッパ諸国と比べると、なんと国連本部のあるスイスよりもランクが高いのです。

たとえばフィリピンのセブ島では、母国語は「ビサヤ語」にもかかわらず、大多数の人が英語を話しますし、セブの大学生レベルにもなると「ビサヤ語」「フィリピノ語」「英語」と、3言語を流暢に話すほどです。

なぜこれほどまでに、フィリピン人は英語力が高いのでしょうか?フィリピン人の英語力が高い要因を「国の方針・学びの環境・生徒のモチベーション」の3つの側面から分析してみました。

フィリピンの英語力を支える「国の方針」

フィリピンは、もともと170を超える言語が存在した多言語国家です。島を超えたコミュニケーションをするために、1970年代に公用語として「英語」と「フィリピノ語」が採択されました。「フィリピノ語」とは、首都マニラなどで使われる「タガログ語」とほとんど同じ言語です。

フィリピン政府が、フィリピノ語だけでなく英語も公用語にしたのには理由があります。英語を話せる国民が増えれば、国民が海外で働いたり、海外の企業がフィリピン国内に来て、経済が発展すると考えたからです。まだまだ発展途上であるフィリピンは、「経済」という観点からも英語を重視しており、フィリピン政府の英語教育への徹底ぶりは鬼気迫るものがあります。

フィリピンの英語力を支える「学びの環境」

英語教育が重視されているというフィリピンでは、いったいどのような環境で、どれくらいの量の英語学習が行われているのでしょうか。日本との英語教育の機会の違いをまとめてみましょう。

*日本は2020年度からの新カリキュラムを元にしています。3・4年生の英語学習の名前は「外国語活動」と呼ばれています。
*フィリピンの「6年間で英語に触れる授業時間数」は、「英語の授業」が約900時間。「英語以外の科目を英語で教える時間」が1200時間と、少なめに概算で見積もっています。

最大の違いは、フィリピンでは小学校3年生から、数学や理科の授業もフィリピンの現地語ではなく、英語で教わるということです。小学校の教育課程で子どもたちが英語に触れる時間は、なんと日本の10倍以上もフィリピンのほうが多いのです。この表を見れば、フィリピン政府の英語教育への本気度がうかがえます。フィリピンの子どもたちは、文字通り桁違いに英語を学んでいるので、国民の英語力も高いのです。

フィリピンの英語力を支える「生徒のモチベーション」

英語教育を推進するフィリピン政府。一方、生徒たちの英語学習へのモチベーションはどうなのでしょうか。もちろん「学習へのモチベーション」はまさに十人十色であり、1000万人以上いる生徒一人一人のモチベーションは知る由もありません。しかしながら、筆者が直接話した数十人の子どもたちを見ている限りでは、英語に対するモチベーションは総じて高いように感じます。

大きな理由としては「英語が話せたほうが、給料が高い仕事に就ける可能性が高い」ということです。たとえば、近年セブ島で人気のある仕事として「英語講師」や「コールセンターのスタッフ」が挙げられます。これらの仕事は高い英語力が求められますが、その分給料が高い職場もたくさんあります。これらの仕事をしている20代前半ぐらいのフィリピン人と話していても、「給料の一部は、故郷の家族や兄弟に仕送りをしている」という人も少なくはありません。

日本の英語教育改革がフィリピンの英語教育から学べる2つのこと

1. 日本の小学校で200時間程度の英語学習を増やしても、絶対的な学習量が足りない可能性がある

「英語が得意なフィリピン人は、小学校のころから英語が義務教育である」→「日本も小学校から英語を義務教育にすれば、フィリピン人のように英語が得意になるかもしれない!」……というロジックは「絶対的な英語の学習時間」の違いから、成り立ちそうにありません。

2. イマージョン教育には、足りない英語学習時間を補える可能性がある

たとえば京都にある立命館宇治高等学校を筆頭に、日本でもすでにさまざまな学校でこのイマージョン教育への取り組みがはじまっています。小学生や中学生の最新カリキュラムを見ても、現状でこれ以上授業時間数を増やすのは現実的ではありません。そこでイマージョン教育であれば、授業時間を増やさずに英語に触れる時間を増やせます。

イマージョン教育を語る上で、フィリピンの教育は非常に参考になります。フィリピンで英語に触れる時間が圧倒的に長いのは、他教科も英語で授業をするからです。一方で注意が必要なのは、イマージョン教育は肝心な教科指導が疎かになる危険性があります。実際にフィリピンの授業を見ていると、英語が壁になって、数学や理科の授業理解が遅れるシーンをよく見かけます。

ここからはあくまでも私の考えにはなりますが、日本でイマージョン教育を取り入れるのであれば、まずは「体育」のように体の動きやジェスチャーで伝えやすい教科からでしょう。5教科であれば「数学の復習の授業」から。数学でよく使う数字やアルファベットは、英語で教えようと日本語で教えようと変わらないからです。頻出する数学単語さえ学習すれば、先生の言っていることは他教科に比べて理解しやすいのです。

一方で、新しい単元の学習は、日本語ですら理解が難しい場合があります。極端な話、微分積分の概念を英語で理解するのは至難の業です。イマージョン教育をはじめるのであれば、すべてを0か1かで考えることなく、まずは「危険の少ない体育の授業」や「数学の復習の授業」などに限定して、できるところからはじめていくのがいいと思います。

フィリピンの教育事情を考察して、少しでも日本の教育改革に活かせればよいですね。

[この記事で紹介したこと]
* アジアで2番目に英語力の高い国はフィリピン
* フィリピンは国の方針として英語を公用語にしている
* フィリピンの英語に触れる時間は日本より断然多い
* 日本での英語教育普及のカギはイマージョン教育

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