NPOバンクと協力し、女性起業家への投資促進

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米国にこのほど、新たなインパクト投資(注1)のプラットフォームが誕生した。国内の女性起業家に資金を調達する「ウィズダム・ファンド」だ。女性は最も急成長を遂げている起業家層であるにも関わらず、融資を受けるのが難しいといわれる。同プラットフォームは女性起業家に対する企業貸出の不均衡を是正する狙いがある。(翻訳=クローディアー真理)

ウィズダム・ファンドを立ち上げたのは、フィンテックのシーノート(本社・カリフォルニア州)だ。コミュニティ開発法人(CDC:注2)、CDCスモール・ビジネス・ファイナンス・コープ(本社・カリフォルニア州)をはじめ、4つのNPOとパートナーを組み、低・中間所得層や有色人種の女性経営者に適格投資家からの資金を提供する。

投資を受けられない女性起業家たち

シーノートの創立者の1人、キャサリン・バーマン最高経営責任者は、「ベンチャー投資の面で女性が不平等な扱いを受けているのは周知の事実。彼女らが起業する理由が、経済的な自立やフレキシビリティ、独立を求めてのことで、顕著な経済成長を遂げるタイプのスタートアップではないからだろう。現在の金融制度はこうした女性らをないがしろにしている。女性経営の企業が受ける投資は、ビジネス自体の価値をはるかに下回る額でしかない」と指摘する。

CDCスモール・ビジネス・ファイナンス・コープのアリソン・ケリー ストラテジー・アンド・イノベーション部門業務担当執行役員も同じ意見だ。

「ベンチャーキャピタルから女性が締め出されているというデータは非常に多いが、それが一体どれだけの規模で、なぜなのかはまだわかっていない。しかし金融制度全体が、人口のある一定のセグメントにのみにしか活用されない状態であるのは事実。資金の分配とリスクを再考する必要があるだろう」と言う。

不平等を是正するCDFIs

シーノートはこの不平等を是正すべく、コミュニティ開発金融機関(CDFIs:注3)と組み、ウィズダム・ファンドを運営している。CDFIsは国全体をカバーし、資金を得にくいコミュニティに投資を行っているからだ。さらにシーノートは、CDFIsが私たちがまだ気づいていない利益・影響を生み出す大きな可能性を秘めていると考える。

しかし、CDFIs自体も問題を抱えていることも指摘する。大きな資金は大事業に使われ、CDFIsには回ってこない。資金不足なのだ。

ウィズダムファンドのパートナーは3段階にわたって基礎固めを行う。女性起業家にとり何が有用かについてのデータを収集・共有し、それに基づき、行動を起こすためのプロセスだ。

現在のパートナーCDFIsは、カロライナ・スモールビジネス・デベロップメント・ファンド(本部・ノースカロライナ州)、リフトファンド(本部・テキサス州)、トゥルーファンド(本部・ニューヨーク州)だ。

トゥルーファンドのジェームズ・H・ベイソン代表取締役兼最高経営責任者は、「起業家精神は米国に経済的繁栄をもたらし、社会の耐性づくりに重要な役割を果たす。特に女性起業家が余裕をもって目標達成できる環境を整えるためには、さらなる努力が必要だ」と、ウィズダム・ファンド参加について語る。

米国で最も新しいインパクト投資プラットフォーム

シーノートは、2017年の創設以来、国内35州を網羅するCDFIsのネットワークを通じ、資金調達が難しいコミュニティに1800万USドル(約20億円)を投資している。この投資は400社以上に行きわたり、2000以上の雇用を創出・維持するのに役立っている。

ウィズダム・ファンドの投資家は、パートナーである複数のCDFIs に60カ月にわたる投資をし、年間4%の利益を得る計算だ。

近年、多くのインパクト投資を活発化させるプラットフォームが創設されている。その中で最も新しいのがウィズダム・ファンド。ジャスト・キャピタル(本社・ニューヨーク州)の「エンバイロンメンタル・エクスプローラー」、スウェル・インベスティング(本社・カリフォルニア州)の「インパクト400」、ジョン・ハンコック(本社・マサチューセッツ州)の「コイン」に続くものだ。

注1:社会的事業を行う企業、組織、ファンドへ投資することによって、社会的成果と財務的リターンの両立を目指すもの。
注2:地域開発を促進するサービスや活動を行うNPOのこと。特に困窮するエリアを支援するケースが多い。
注3:NPOバンク。主に環境や福祉などの市民事業に融資する非営利金融機関の総称。

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