優れた「目」

 「闇は光の母」という谷川俊太郎さんの詩の一節にある。〈その謎に迫ろうとして眼は/見えぬものを見るすべを探る〉。闇には謎が潜んでいる。解き明かすすべはないか、と▲ほぼ100年もの間、あるに違いないとされてきたが、存在を証明するには至らない。そんな謎めく巨大ブラックホールを、視力の飛びっ切りいい「目」がとうとう見つけた。その輪郭の撮影に、国立天文台などの国際チームが成功し、世界を驚かせている▲今世紀の最大級の出来事という。画像には、ぽっかり空いた黒い穴が影絵のように浮かび上がる▲「見えぬものを見るすべ」となったのは、人間で言うと「視力300万」の解像力のある望遠鏡で、月面のテニスボールを地球から見分けるほどの能力らしい▲と言われても正直なところピンとこないが、この「目」は遠く遠く、宇宙の成り立ちまでも見渡せるという。観測が進めば、星や銀河のできる過程も分かると期待されている▲撮影成功は、アインシュタインの一般相対性理論の実証になった。その物理学者は語っている。〈わたしたちは好奇心に満ちた子どものようになってしまう。この偉大なる神秘、わたしたちが生まれてきたこの世界の前では〉。人類全体、と言えば大げさだろうか。“影絵”を前に皆が子どもになっている。(徹)

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