諫干閉め切り22年 司法に限界 対話模索する市民 研究者「多様な利害関係調整を」

「立場の違いを認め、対話の場を」と訴え、署名活動を続ける横林さん=諫早市森山町

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防閉め切りから14日で22年になる。国は2017年4月、開門せずに漁業振興基金で和解する方針を示したが、解決の見通しは立たない。一方で、訴訟以外の対話を提起する動きが続いている。

 「開門の賛否と別に、漁業者と農業者、市民の対話の場が必要です」-。3月15日朝、「諫早湾干拓問題の話し合いの場を求める会」の3人は、諫早市森山町の民家を訪ね歩いた。

 約2時間で20軒余り。「開門すれば塩害や湛水(たんすい)で危ない」「国は開門しないと言っているのだから、いまさら話し合って何になるのか」-。住民は防災面の不安を明かしつつ、国の「非開門」方針が確実になる日を黙して待つ心境が垣間見えた。

 同町での署名開始から約5カ月。訪ねた119軒のうち、93軒101人が「話し合いの場」の設定に賛同。16年の結成後、約4100人分を集め、関係機関に提出する準備を進める。世話人の横林和徳さん(73)は「相互の考えを聞き、現状での事実を共有することで、農業と漁業、防災の“共栄”ができるのではないか」と話す。

 「開門しない方針で、和解協議の機会があれば参加したい」-。国は「非開門」方針後、こう繰り返すが、長崎地裁で係争中の開門訴訟など2件は和解協議に至る気配はない。

 さらに、開門派漁業者が高裁で敗訴した3件は最高裁に係属中。開門派弁護団は今年に入り2回、最高裁に慎重な審理を求める要請書を提出。高裁への差し戻しを視野に活発に動く。

 事業を巡っては、諫早湾干拓紛争に関する共同研究が昨年秋、法学専門誌「法学セミナー11月号」(日本評論社)で特集された。法学と政治学の研究者7人が60ページにわたり論文や弁護団インタビューを執筆した。

 横浜国立大の西川佳代教授(民事手続法)は、特集発表をこう語る。「民事裁判での法的紛争解決は基本的には金銭貸借のような『個人対個人』の紛争を念頭に置き、法律の要件に合うように事実を研ぎ澄ました上で解決する。しかし、諫干問題では地域や住民の利害、歴史的経緯が複雑に絡み、政治も行政も機能できていない。そこに裁判所が判決を出したところで事態は結局動かなかった。今の法や裁判の仕組みによる解決に限界があるということを共通認識にすることで、長年翻弄(ほんろう)されている住民や地域に打開策を示すことができたらという狙いがあった」

 論文では、多様な利害関係を調整する民事紛争処理手続きの可能性を検討。取材に対し、「開門か否かだけでなく(地域の再生のために)裁判の当事者以外からも広く解決策を拾い、新しい観点や知恵が出てくることでさまざまな形の和解手続きも考えられないか」と提言する。

 同事業を巡る問題が法廷に持ち込まれて16年余り。司法での解決には限界があり、漁業者や農業者の一部とも溝を深めた上、地域に影を落とし続けている。事態をどう収束させ、解決に導くか。国にはその対応が迫られている。

 ■ズーム/諫干事業を巡る訴訟

 開門調査を巡る訴訟5件のうち、3件が最高裁に係属中。3件は▽長崎第1次開門請求訴訟▽営農者らの開門差し止めを認めた2017年の長崎地裁判決に対し、別の漁業者が求めた独立当事者参加申し立て▽10年の開門確定判決を「無効」とした請求異議訴訟(いずれも漁業者側が高裁で敗訴)。このほか、長崎第2、3次即時開門訴訟と、営農者によるカモ食害に対する損害賠償、開門請求訴訟が長崎地裁で審理中。

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