オトコ時間 少子高齢化社会に光る “人財” 「イクジイ」

豊かな経験を活かし、孫育て・子育て。自らの生きがいにもつなげて..

育児に積極的に携わる中高年男性を指した造語「イクジイ」。
 その多くは、日本の高度成長期を支え、仕事に忙殺されてわが子の子育てに
あまり携われなかった人たち。
祖父母の孫育てが増えるなか、子ども世代との育て方の違い、過干渉や依存などのトラブルもしばしば。
子どもや孫とうまく関係を築きながら、自らの楽しみを見つける「イクジイ」とは―。

若山 義和さん(70歳)/唐橋焼作家・大津市在住
スマホやITの知識を持ち、「今どきの子ども」の流行りも一緒に楽しむ
編集部:お孫さんとはどのように関わっておられるのでしょうか。

若山:長男の孫は中学生、小学生、幼稚園児の3人おり、大阪に住んでいます。長男夫婦が共働きで多忙なため、習い事や塾の送り迎えを手伝ったり、妻は何食分かの料理を作って持っていくなど遠方ではありますが世話をしています。また、工房の跡継ぎとなった次男の孫(中学生男の子)とは同居していて次男夫婦も共働きで忙しいため、小さいころから世話をしてきました。ご飯を作ったり2人で銭湯に行ったり、私の趣味を一緒に楽しんだり。友だちをたくさん家に連れてきたら、その子たちを連れて買い物に行ったりもしましたね。中学生にもなるとスマートフォンは必需品です。友だち同士はもちろん、私もスマートフォンで孫とコミュニケーションをとっているんです。ネットショッピングもしてみたり、この歳になっても若い人と同じようにトライする私を見て、孫も子どももびっくりしていますね(笑)。

育て方は親の意思を尊重 「孫」とは"いい加減" の関係を
編集部:ご自身のお子さんと子(孫)育てに関してぶつかることはありませんか。また、お孫さんは多感な中学生だそうですが、難しいと感じるときはありますか。

若山:長男夫婦と次男夫婦の子育ての仕方はそれぞれ違います。でも、どちらも子ども(孫)のことを考えたうえでの教育方針ですので、私たちもそれに合わせています。

また、次男夫婦と孫がぶつかることがあっても、私が親と一緒になって口出しすることはないですね。もちろん、一緒にいるときにダメなことをしたら叱りますが、その後はおばあちゃんが優しくフォローに入ってバランスをとっています。

孫とは「親じゃないから」、「おじいちゃんだから」とか変にこだわらず、自然体でとにかくたくさん話をしてきたので成長に伴って関係が変わることはありませんね。

祖父母は親のように孫の成長をずっと見守り続けることができません。たとえ私たちが元気で長生きしても、孫と濃い時間を過ごせるのは高校生くらいまで。それ以降は大人になって広い世界へ飛び立っていくのです。だからいい意味で「いい加減」でつきあえるし、「あぁ、もうちょっとやなぁ」と思いながら、一緒にいられる時間を大切にしています。

人生経験を活かし 夢を育む存在に
編集部:お孫さんにとって祖父母とは、どんな存在であるべきなのでしょうか。

若山:私自身、幼いころの思い出は親とより祖父との方が多いです。手先が器用で発明家だった祖父の傍らで、多くを学びました。唐橋焼の作家としての今があるのも、モノづくりにおける祖父の影響があるのかもしれません。

実は陶芸のほかに長年にわたり、大津市内の刑務所で篤志面接委員をしています。受刑者に接していると、“教育”を矯正することの難しさを痛感します。育ってきた環境が難しくしていると感じる例が少なくありません。子どもにとって、人格を形成するときの環境はそれだけ大きいのだということです。

親も子育ては初めて、祖父母も孫育ては初めて。みんな初めてなので失敗しても仕方ないし、その時々で対応していくしかないですよね。でも何がいいことで悪いことなのか、人の立場に立って物事を考えられるかなど、人格の基礎となる部分だけは愛情をもってしっかりと教えないと。大切な子ども、大切な孫なのですから。

若いころの私は仕事が多忙で、わが子の世話は妻に任せっきりでした。ですからゆとりをもって暮らせるようになった今、孫にはできる限りのことをしてやりたいですね。私の祖父がそうしてくれたように、共に過ごしながらたくさんの刺激を与え、得意なことや好きな分野を見つける手助けができればと。それが、人生の先輩としての役割ではないでしょうか。

家族で深めよう 地域に広げよう 子育て、孫育ての“和”

NPO法人 孫育て・ニッポン 理事長 棒田 明子さん
今、期待される「祖父母力」

核家族化、出産後も仕事を続ける女性の増加、地域社会の希薄化などにより、日本の子育ては孤立化しています。このような状況のなか、期待されているのが「祖父母力」です。兄弟もいとこも少ない現代の子どもたちには、できるだけ多くの人との関わりが人間形成に不可欠といえます。

「NPO法人 孫育て・ニッポン」は、全国的な祖父母向けの講演活動やイベントを通じて「孫育てに役立つ情報」などを発信し、母親一人が子育てを抱え込んで悩むのではなく、父親はもちろん、孫に関わるおじいちゃん、おばあちゃんが増え、地域社会全体で子どもたちを包み込むような健全な社会を目指しています。これらの活動は、少子化対策、産後うつ、高齢者の孤独死などさまざまな対策にもつながるのではないかと考えています。

NPO法人 孫育て・ニッポン

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お問合せ/TEL070-5074-8380

取材:2017年3月

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