【豊田清の目】開幕3連敗→3連勝…菊池移籍で不安の西武投手陣に見えた光と課題

西武・巨人・広島でプレーした豊田清氏【写真:荒川祐史】

ニール、武隈、本田の奮投 本田は敵軍ながら「昨年からいい投手だと思って見ていた」

 開幕3連敗と出鼻をくじかれた西武だったが、5カードを終えて7勝7敗と勝率を5割に戻した。西武で13年プレー、その後、巨人、広島に移籍し、昨年まで巨人の投手コーチを務めていた野球解説者の豊田清氏は主戦3投手以上に、“裏ローテ”を担った投手陣を高く評価。これまでの戦いぶりと西武の上位浮上のカギを探った。

 西武は敵地・ソフトバンクにエース・多和田、今井、高橋光をぶつけたが、3連敗を喫した。米大リーグ・マリナーズに移籍した菊池の存在の大きさを痛感したが、2カード目の本拠地・ロッテ戦では“裏ローテ”ともいえる3人が力投。ニールが6回途中2失点、武隈が5回3失点、本田が7回途中4失点でそれぞれに白星がつき、3連勝を飾った。ニールは来日初勝利、武隈は7年ぶり先発勝利、本田は4年目でうれしいプロ初勝利を挙げた。

 ニールは3月19日のロッテとのオープン戦(メットライフ)では5回10安打7失点4四球だった。豊田氏はこの試合をチェックし、ひとつの疑問を感じていた。

「制球力がいいと聞いていたのですが、全くボールをコントロールできていませんでした。ストライクは甘いし、両コーナーにボールが来ていませんでした。打者に見極められて4つの四球。甘い球は打たれる……。悪い内容の典型でした。2カード目にロッテと当たるので、“大丈夫かな”という感じはしていました」

 その後、溜まった疲れから、足を痛めてしまい、ニールは本隊を離れて、調整。豊田氏はピッチング練習を見に行った。そこで疑問は解消されたという。

「コントロールがすごくよかったです。本拠地のマウンドの感覚はつかんでいますから、次はしっかり投げられるのではないかと思いました。外国人投手ですから、クイックや牽制について本人はコーチから言われていたと思います。オープン戦の時はクイックがすごく早いな、と感じました。それで、自分のペースを崩していました。開幕してからはクイックをオープン戦より早くなく、バッターに集中をしていましたね」

 シーズン前に一度、メットライフドームのマウンドを踏み、修正できたことは大きかった。ただ、課題は残る。5-0のリードの6回にヒットと死球で走者を許すと、重盗を決められ、その後に2失点。2登板目の楽天戦(大宮)、盗塁こそ許さなかったが、6回途中7失点と精彩を欠いた。

「バッターに集中をしている分、簡単に盗塁をされたりしていますが、ちょっと直せばもっとよくなると思います。ニール投手はどちらかといえばどんどんストライクを投げ込むタイプ。速い球を持っているのならば、巨人にいたマイコラス投手のようにどんどん攻めて行けと言えますが、ニール投手の場合は、試合をしっかりと作れるかどうかが信用につながってくいくと思います」

 登録抹消になったが、武隈も度胸のある投球でロッテ戦は試合を作った。ニール、武隈で勝った開幕2カード目の試合が、西武の勝ちパターンの一つになることを示している。

「武隈投手も元々リリーフですが、一人一人をしっかりと打ち取るという丁寧な投球で5回まで投げました。西武は打線が強力ですから、我慢していれば、絶対、点を取ってくれるチームです。9回を3点に抑えよう、という気持ちではなく、4点、5点でもいい、ビッグイニングさえ相手に作らせないようにしようという気持ちを持つことが大事かなと思います」

西武のザック・ニール、本田圭佑、武隈祥太(左から)【写真:荒川祐史】

本田の課題も指摘「走者を出して、初球を外国人選手にホームラン…」

 そして、プロ初勝利をマークした本田。登板後は登録抹消となったが、17日の楽天戦(楽天生命)で先発することが有力となっている。期待のかかる一戦だ。

「本田投手のことは、昨年までファームの試合で見ていました。ストレートもスピン効いていて、カーブで緩急をつけられる。チェンジアップも“ストン”と落ちる。きちんとゲームメークをしている印象を持っていたので、相手のチームながら、いい投手だな、と思っていました」

 本田は過去の先発で早い段階で降板することが多かった。場慣れしていない中で、マウンドに上がると舞い上がってしまうケースも多い。ただ、今回は相手の先発がプロ初登板のロッテ・小島。本田の方に分があったように見えた。

「いきなりロッテの1番・岡選手に、外狙いが真ん中に入ってきて、ファウルを打たれました。『これは危ない……』と思いましたけど、最後、決めにいった球がアウトコースに“バチッ”と決まりました。見逃し三振。これで“変わるかな”という1球でした。プロで1勝をするのは大変ですが、してしまえば、気持ちもリフレッシュできますし、これまでなかなか勝てなかった自分から変わることができます」

 ただ、課題もある。豊田氏は本田の投球で2か所、ポイントを見い出した。

「8-0のリードから5回にバルガス選手の2ラン、7回にレアード選手の2ランで失点しています。得点差を縮められ、焦ったと思いますが、走者を出して、初球を外国人選手にホームラン…それを繰り返しました。様子を見るのは当たり前のことですし、普段ならば、それができる投手です。また、カットボールを覚えたのはよかったですが、多投しないこと、頼りすぎないことです。精度がよくなると、そればかりを頼ってしまい、元々持っているいいスピンの効いたストレートを失ってしまうかもしれません。1軍で勝っていくために、そういう要所、ポイントを覚えていけば、先発の3本に入らなくても、5番目、6番目としては期待できるのではないでしょうか」

 開幕前に新人の松本や榎田が離脱するなど、苦しい戦いを予想されたが、ここまで五分。3カード目以降で、多和田、今井、高橋光にも白星が付いた。

「ソフトバンクを走らせてはいけないという思いから、敗れはしましたが頭3枚に多和田、今井、高橋の3投手を起用したのだと思います。この3人がしっかりとまわれば、いい位置が期待できると思います。開幕前、西武ローテは不安視されましたが、どこのチームだって先発投手6人が揃うことはなかなかありません。ただ、連敗した時、誰がそれを止めるのか。多和田投手を筆頭に、そういう存在がどの投手になるのか大事になってきます。それを止めてくれる心強い打線があるので、投手陣の踏ん張りが上位進出のカギになると思います」

 プロフィール 

豊田清(とよだ・きよし)1971年2月2日、三重県亀山市出身。48歳。鈴鹿高、同朋大から92年西武にドラフト3位で入団。2000年まで先発、2001年からは抑えで活躍。02年、03年は最優秀救援投手。04年は日本シリーズで胴上げ投手となった。05年オフに巨人へFA移籍し、抑え、中継ぎで活躍。09年は46登板で防御率1.99を記録し、チームの日本一に大きく貢献。11年に広島に移籍し、現役引退。12年から昨年まで巨人のコーチとして多くの救援陣を指導し、1軍のマウンドに送り出した。プロ19年で通算66勝50敗157セーブ。今季からは文化放送ライオンズナイター、テレビ埼玉などで野球解説者。その他、野球教室や講演など、野球振興に携わる。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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