吃音(きつおん)症をテーマにしたアプリやソフトウェアのデザインをしていますが、取り組み始めたきっかけは?
私自身が吃音症です。発声に詰まるタイミングって、自分でも分からないんですよね。吃音に悩む人は多いのですが、日本では認知度が低く、根性論で片付けられることが多いのが現状です。
日本の美大を卒業後、大手ウェブ検索エンジン会社にデザイナーとして就職したと同時に、東京大学の大学院である「情報学環・学際情報学府」という夜間プログラムに入学しました。そこでドキュメンタリー番組を作る課題があり、「吃音症の認知度向上について」はどうかと持ち掛けたら、グループメンバーが興味を持ってくれました。
吃音外来の先生に取材した際、吃音は「喉の筋肉がぎゅっと収縮している状態だ」と教わりました。そこで、電気信号で喉に刺激を与えれば誰でも吃音を体感できるのではと思い立ち、エンジニアの友人の協力の下、ウエラブルデバイス「スタチャ(STACHA)」を作りました。
東大の協力を得て、テキサス州オースティンのサウス・バイ・サウスウェスト(音楽やテクノロジーがテーマの屋外イベント)にて初披露しました。「吃音を治す機械」だと思われがちでしたが、認知度向上の意図を伝えると、多くの人が賛同してくれました。
来米の経緯は?
会社の方ではブランドマネジメント担当でした。西洋のデザインをベースに学ぶことが多かったのですが、次第に、真似ではなくオリジナル作品を作れるようになりたいという思いが強くなり、アメリカ留学を考えました。結局1年半で辞めて、スクール・オブ・ビジュアルアーツに入学しました。
渡米後の吃音プロジェクトの展開は?
学校の課題として、バーチャルリアリティー(VR)プログラム「バーバル(VRbal)」を作成しました。吃音によって引き起こされる社交不安障害に対応するために、吃音専門の聴覚士によるセラピーを疑似体験できるものです。
吃音のせいで人との関わりを絶ったり、対人関係で失敗を繰り返したりすると、うつ病を発症することもあります。「どうせまたダメだ」という思いを抱えて失敗し、どんどん自信がなくなっていく悪循環が生まれます。必要な人にとって、さらにセラピーがアクセシブルになればと思って。
卒業した現在、OPT期間として、ニューヨークの戦略・マーケティング企業で、デザイナーとして働いています。エネルギー関連のクライアントが多く、環境問題やエネルギーの未来について考えるので、こちらも意義とやりがいを感じます。
今後の展望は?
アメリカでデザイナーとして働きつつ、吃音への取り組みも、サイドプロジェクトとしてこれからも続けていきたいですね! まずはVRの商品化が目標です。